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zoom RSS わくらば日記 朱川湊人 角川書店

<<   作成日時 : 2006/02/15 21:40   >>

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画像過ぎ去ってしまった風景がいっぱい詰まっているようで、切なくなってしまった。前にも書いたように、朱川さんと私は同学年なんだなあ。昭和の、もうなくなってしまった風景を、よくこんなに再現できるものだ、と感心しました。

和歌子と鈴音という姉妹は、母との三人暮らし。わけあって父親とは離れて暮らしているらしい。父からの仕送りと、母の洋裁の仕事でつつましく暮らしている親子なのだが、姉の鈴音には特殊な能力があった。人や物の記憶を千里眼のように見通せる能力。美しく病弱な鈴音はその能力を使うとひどく消耗するのだが、成り行きで知り合った神楽という刑事にたのまれて、時々その能力を使い、事件の陰にかくれた人々の心を解き明かしてゆく・・。

千里眼、という能力は新しいものではないし、一つ一つの事件も予定調和、という感じがしてそれほど目新しくはない。しかし、それらがこの風景の中に書かれている、ということが同年代の私にとって心震える思いだった。
なんでだろうなあ・・。子どもの頃を思い出しても、「あの頃は良かった」という風には素直には思えないのだけれど、やはりその頃の風景や、町の匂い、耳にした音楽はありありと思い浮かぶ。この物語にでてくる歌の数々も、確実に歌える(爆)私の母も洋裁の仕事をしていたし、足踏みミシンの音は、常に家の中に響いていた。狭い家には、常に近所の誰かれが来て、ながいおしゃべりを撒き散らしていた。長屋のようなアパート。その湿った匂い。そんなものが一気に思い出されて、その色の鮮やかさにちょっと憂鬱になるほどだった(笑)この人の文章には、そういうイメージの喚起力がある。

高度経済成長、という波の中にいながら、やはり昔そのままの倫理観や情を残していた時代。その暖かさと息苦しさを同時に思い出す。そして、それがどういう形であれ、やはり自分自身のあり方のバックボーンになっているのだな、と・・。そんなことを思わせてくれた。この時代にはまだあった、他人の心のはっきりした手触りが今随分希薄になってしまったような気がする。この物語の登場人物たちの会話を読みながら、そう思ったりもした。まず子どもが、ふとしたことから町の知らない大人と知り合いになり、自分の家庭とは違う大人の世界を見せられる、そんなことも今はあまりないだろう。「知らない大人」に近寄ってはいけません、そう言わざるをえない今。それは子どもから世界の入り口を一つ奪っている。


この主人公の鈴音という少女のはかなさと美しさが、印象的。人の心が見える、という能力を持ちながら美しくいられるのが凄いな、と思うのだが、そういう人はやはり長くは生きられないのだろうな。彼女が今の時代に生きていれば、どれだけ恐ろしい思いをしたことか。そう思っても、やはりこの物語は、昔の設定でなけければならないだろう。昔同じアパートに住んでいた色の白いお姉さんを思い出した。私はあまり人馴れしない子どもだったのだが、そのお姉さんとは妙に気があって、よく遊びにいった。特に何をするわけでもないのだが、その静かな部屋で本を読んだり、絵を描いたりしているのが好きだった。しかし、そのお姉さんはある日急にいなくなってしまった。
子どもの私にはその時は知らされなかったのだが、どうも自らの命を絶ってしまわれたらしい。彼女はあのたった一人の部屋で何を思っていたのか、と今思う。そんなことまで思い出させてくれたこの物語。同年代の方はハマる、と思います。若い人たちはどうなんだろうなあ・・。そこを聞いてみたいものです。

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『わくらば日記』 朱川湊人 (角川書店)
わくらば日記朱川 湊人 / 角川書店(2005/12)Amazonランキング:位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog <作者の人生肯定的な語り口は読むものの心を和ませる。> 昨年、『花まんま』で直木賞を受賞した朱川さんであるが、本作でまたレベルアップしたような気がする。 読まれた方ならご賛同していただけると思うのであるが、他作よりキャラが立っている点が見事である。 ...続きを見る
活字中毒日記!
2006/02/26 01:49
『わくらば日記』/朱川湊人 ○
昭和30年代、東京の下町で、つつましく暮らす一家。しつけに厳しい母、病弱だが美しく優しい姉、負けん気の強い妹。妹・和歌子は夭逝した姉・鈴音との思い出の日々を、数十年を経て回想している。思い出とは、輝かしく美しくも、どこかもの悲しい。 朱川湊人さんは、ずいぶん前に『太陽の村』という作品を読んで以来ですね。全然傾向が違います・・・(笑)。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2012/08/23 19:24

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん、ご無沙汰しております(^^)。
角川夏の文庫フェアの紹介文がなかなか魅力的で、手に取りました。
ファンタジーなのかと思ったら、鈴音の能力以外は普通の物語で、人と時代の温かさと強さを感じさせられました。予想外だったけれど、良かったです。
水無月・R
URL
2012/08/23 19:32
>水無月・Rさん
コメントとTBありがとうございます(*^-^*)
この昭和の風景が、なんとも言えず懐かしいんですよね。(年齢バレバレ)しかし、千里眼というのは、もっとも手にいれたくない特殊能力です。怖いです。それだけに、鈴音の美しさが切なかったように記憶してます。(頭が悪いのでうろ覚えですが。うう・・)続編読んでみます!
ERI
2012/08/31 01:01

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