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zoom RSS 弥勒の月 あさのあつこ 光文社

<<   作成日時 : 2006/03/22 00:40   >>

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画像あさのあつこさんの、時代小説です。
「時空ハンターYUKI 」で江戸時代が舞台になる
話を書いておられますが、純粋な時代小説は
初めてなのでは?
時代小説フリークとしてはどんな出来上がりになって
いるのか興味津々でしたが。
なかなか面白いあさのあつこさん独特の時代物になっていると
思います。・・・というか、ああ、かえってあさのあつこ色が全開に
なっている、と思いました。

ある満月の夜、一人の女が川に身投げをする。
その捜査にあたった岡っ引の伊佐治と、同心・信次郎は、
その身投げした女性・りんの亭主である遠野屋。清之介の
ただの商人らしからぬ落ち着いた振る舞いに、違和感を
覚える。りんの身投げはただの自殺ではなさそうだ、と
捜査を始める二人。そして、また事件は起こる。
徐々に見えてくる清之介の過去。そこに秘められている
人間の闇と狂気とは・・?

この伊佐治、という名前にまず反応してしまった。
鬼平犯科帳の有名な密偵・伊三次を思い出しちゃいましたよ。
あさのさんは意識してこの名前を使っておられるのかしら?
鬼平の伊三次が若くて細身の、いなせな若衆であるのと
違って、この伊佐治はこの物語でただ一人、「当たり前の
人間の暮らし」の側の、いい親父さん、というキャラクター。
あとは、この信次郎といい、清之介といい、闇の気配の
側にいる人間、として描かれている。
月の「ルナティック」、狂気に繋がるイメージがこの
物語のテーマのようだ。
同心勤めという人生に飽いて、空虚さを常に抱えている
信次郎と、重たい過去を背負って、その身と心に
人をあやめる狂気を飼う清之介と。
この二人がやたらにお互いを探り合う、執拗ともいえる
会話を繰り広げる。特に信次郎の絡み方は、
「蛇」と文中で称される、なかなかのねちこさに
満ちていて、「もういい加減にしいや」と言いたくなるほど(爆)
これは同属をみつけた信次郎の執着、なんだろうなあ。
事件をめぐる伏線もけっこう凝っていて、謎解きとしての
面白さもあるんですが、読み終わったあとに思い出すのは、
この二人が繰り広げる、刃を向け合うような会話・・。
その傷つけあいを、むしろ信次郎が楽しんでいるように
思うのは、私だけなんだろうか。まあ、なんというかそのあたりが
あさのあつこさんだな、と。
「バッテリー」でも、「No.6」でも、登場する少年達がお互いをさぐるような会話を
えんえんと繰り広げますよね。
そうすることでお互いの裏側、対峙することによって出てくる人間の
感情の絡み合いや変化を書いていく。
「福音の少年」では、そのやりとりが、現代の高校を舞台にして
しまったために浮いてしまったんですが、時代ものという現実から
離れた設定が、ドラマ性を高めていて成功しているように思いました。
信次郎からすれば、「オレと同じ狂気を持っているくせに、
何普通の人間のふり、してるんだよ」
というところなのかな。しかし、清之介は、信次郎にはないものを
得た人間。それは、りんという命の美しさに満ちた愛する女・・。
この、清之介のりんの回想はとても美しい。
出会いのときの思い出は、「BOY MEETS GIRL」の
瑞々しい感動に満ちている。
ふわふわした蒼い男を大人にするのは、女、なのかも。
この二人の間に立っている、伊佐治がとてもいい。
小さな人生の中に真実がある、というこの親父さんに
共感してしまうのは、年齢的なもの?
この三人の心理劇として、なかなか面白い試みだったと思います。


ただこれ、時代小説としては「しゃべりすぎ」ではあるんですが・・。
明らかに会話の匂いが「江戸時代」ではないんです。
だから、書割の中でそれぞれが江戸時代の扮装をして
演じてる、という印象がある。時代小説を好きな人なら
そのあたりに違和感を覚えるかも。
でも、若い読者にとって読みにくい時代小説も、
こういう風にかかれることで入りやすくなる、ともいえます。
また、「狂気」をテーマにし、その演出が非常に効果的
なのに比べて、二人の抱える狂気がちょっと月並なのも
気になります。人生詰まらない、と思ってしまえば、
どこまでも詰まらない。
そして、人を殺めるということに一種の快感を覚えてしまう、
というのも割とよくある設定かな、と・・。
それがこわいことであるのはその通りなんですが。
この演出の中でこの狂気を描くことで、あさのさんが
何を伝えたいのか、がよくわからなかった。
福音の少年にも描かれているような「特別な二人」
を描こうとしながら、その何が特別なのかわからなかった、
それがこの作品にもあてはまるような気がします。
どちらかというと伊佐治側の、当たり前に日々をおくる
人たちの方が魅力的に書けています。

あさのさんはとても好きなのに、こうやってレヴューを書くと
辛口混じりになるのは、なんでだろうな。
でも、長いでしょ、レヴュー。
愛、をそこに感じていただきたい・・。

おいしい本箱 
http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=0001002

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弥勒の月<あさのあつこ>−(本:2006年116冊目)−
光文社 (2006/2/22) ASIN: 4334924875 ...続きを見る
デコ親父はいつも減量中
2006/11/25 18:48

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
書店で平積みになっているのを見て気にはなっていたものの、
あさのあつこさんで時代小説?という部分で二の足を踏んでいたのですが、
ERIさんの記事を読んで読む気になりました。
(もとはバッテリーから入ったあさのファンですが)
良きにつけ悪しきにつけ、どんなものなのかと読んでみよう、と。
ありがとうございます。
こばけん
2006/03/23 02:30
>こげぱんさん
コメントありがとうございます。
悪い・・なんて事はないですよ!読む価値あり、です。
言葉のドキドキするやりとりは、あさのさんの魅力がいっぱいですよ。
ぜひ読んでみてくださいね。
ERI
2006/03/23 22:53

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