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zoom RSS 文盲 アゴタ・クリストフ 白水社

<<   作成日時 : 2006/05/10 00:18   >>

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画像「悪童日記」で名高いアゴタ・クリストフの自伝。
薄い、あっという間に読めてしまう本なのだが、そこに
詰まっているものの大きさに畏怖を感じてしまう。

初めて「悪童日記」を読んだときは、その双子の恐るべき
パワー、そして国家という体制の中でいきなければならない
残酷さ、その中で生き抜いていく強さ、ユーモア、「悪」と思われる
行動の裏にある純粋さ、いろんなものに圧倒されてしまった
記憶がある。でも、その物語を書いたアゴタ・クリストフについては
あまり知ろうとしなかった。私は作品だけで満足してしまう
性質で、あまり作家論には手をださないことが多い。
その作家がなげかけてくる作品が全て、そこから自分が感じるものが
全て、と思ってしまうから。このブログを毎日書くときも、人が書いた
感想などもなるべく読まないようにしているし。
自分の感覚だけで、まっさらな状態で、作品を読みたいんで。
でも、たまにこうやって作家について
知る本を読むと、やはりその物語が一気に大きな背景を持つ
感じがしますね。
自伝と言っても、分量としては非常に少ない。
もう、字面を追うだけなら、あっという間に読めてしまう。
こまごましたことが書かれているわけでもない。
浮かんだ記憶をふっと書いてある、エッセイに近いような
文章。でも、そこにこめられているものは果てしなく大きくて、重い。
いや、文章自体は非常にさらっとしている。
彼女の人生は、本当に歴史に翻弄されている、といっても
いいものなんだが、そんな自分の体験した悲惨な出来事を
書いても、非常に淡々としている。その冷徹な客観性に、
作家の目を感じます。そのさらっと書かれている一言に
こめられているものが、ずっしりと伝わってくるんですよ。

彼女はハンガリーの生まれ。東欧というのは、ロシア(またはソビエト)
と強大なヨーロッパ諸国にはさまれて、常に翻弄され続けた存在。
彼女の人生も、それにもまれ続ける。次々に違う国に支配される自国。
14才で牢獄のような寄宿舎に入り、21歳、ハンガリー動乱の時に赤ん坊
だった子どもを連れてスイスに亡命。時計工場で働き、子どもを育てながら、
こつこつと戯曲と小説を書いた人生。
唯一生き生きと虹のように輝いていたのは、兄と、家族と暮らした幼い日々。
この兄との思い出が、「悪童日記」に繋がっていくらしい。
その兄を、彼女は捨てて亡命した。離れ離れになった双子というモチーフには
彼女の実際の体験があったんだ・・。悪童日記の三部作で、この双子は本当に
双子だったのかで二転三転していたように記憶している。それは書いていくうちに
そうなってしまった、彼女は引き裂かれた自分の一部をハンガリーにおいてきて
しまったのかもしれない、と思ったりした。

「もし自分の国を離れなかったら、わたしの人生はどんな人生になって
いたのだろうか、もっと辛い、もっと貧しい人生になっていただろうと思う。
けれども、こんなに孤独ではなく、こんなに心を引き裂かれろこともなかった
だろう。幸せでさえあったかもしれない。」

彼女は、絶対に自分の母国語で文章を書かない。
亡命してからスイスで苦労して身に着けたフランス語で
物語を、詩を、戯曲を書く。
「わたしは読む。病気のようなものだ。」
というように、幼いころから文字に、文学に耽溺し、監視され続けても
文章を書き綴った彼女は、言語に振り回される。
母国語以外の言語を押し付けられ、そして亡命してからは、
まったく「文盲」の状態におかれるのだ。文字を読めないことは、
彼女のような、私のような活字中毒にとっては世界を失ってしまうに等しい。
彼女はそこから、また苦労してフランス語を勉強する。
そしてそのフランス語を習得したとき、再び彼女は世界を手にいれたのだ。
だから、彼女はフランス語で小説を書くのではないだろうか。
それまでの自分と全く切り離された世界に身をおいた彼女の、
それは闘いなのだろうと思う。ふたたび自分を、世界を手にいれるための。
彼女の文章の冷徹なまでの客観性と独特のリズムは彼女がフランス語で
書いていることと無関係ではないだろう。
でも、やっぱり思う。彼女が母国語で書いた物語を読んでみたいな、と・・。
そこにはもっと甘やかな、匂いやかな世界があるのかもしれない。
でも、彼女はもう新作を書くことはなさそうだ、と後書にあった。
残念だ・・。

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