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zoom RSS 夜の公園 川上弘美 中央公論新社

<<   作成日時 : 2006/05/17 00:16   >>

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画像リリと春名という二人の女性を軸にして流れる
恋愛の時間を、丁寧に描いた物語。
「龍宮」などの幻想の気配はなくて、
あくまでも一人ひとりの登場人物の心のなかの流れを
細かく、丁寧に追ってあるんだけれど、それが丁寧に
書かれれば書かれるほど、人間というものの捉えがたさ
に対して茫然とするような心地になってしまう。

リリは最近夫の幸夫のことが「好きではない」。
そのことに気づいてしまった自分を、もてあましている。
友達の春名が、その幸夫のことを好きだ、ということにも気づいて
いる。そんな時、夜の公演の散歩で毎日横を通り過ぎていく
暁という青年とであって恋をする。
一方春名は、リリの知らない間にとっくに幸夫とは時々会う仲
になっていたりする。そして暁の弟、悟や他の男達とも会う、
リリに見せるのと違う顔を持つ春名だが、一番心を惹かれているのは幸夫。
あるリリと暁が一緒にいるところに、春名と幸夫も偶然に・・。

とあらすじを書くと、わけわからん状態ですよね。
この物語では、あらすじはたいして重要ではない、というか。
リリの、暁の、春名の、幸夫の、悟の、ふくらんだりしぼんだり、
突き上げたり、落ちていったりする気持ちの流れが、それぞれの立場
からそっくり切り取って書かれている。その同じ時間の中で輪切りに
なってかさなっているようで、その実それぞれがたった一人であると
いうことが、実にていねいに書かれている、それだけの小説。
とぷん、とその気持ちに漬かって流れに身をまかせる小説です。
ただ、存在している。ただ、そこにある。
理由もなく、理屈もない、気持ちの流れ。
言葉にしてしまうと、「好きだったんだけど、そうじゃなくなっちゃったの」
という一言で終わってしまいそうなこと。
だれかに説明すると零れ落ちてしまう、毎日の暮らしの中でちょっとずつ
変わっていってしまうこと。たったひと時も同じ気持ち、同じ一日はないということ。
その日の風や、お天気や、そんなものとともに心も形を変えて流れていく、ということ。
それに心をひたしているうちに、自分の内にも何かがたまっていく、そんな小説です。

この物語は五人の気持ちが交錯していくんですが、
視点を変えながら見事にこの筋なき小説を書き上げる力量に、タメ息。
だれの立場にもかたよらず、お互いが見えていること、まったく見えないこと
まで書き上げて緊張感と流れが切れない。
感傷や過剰な言葉、哀れみやムダな説明、一切なし。
こういう小説は難しいだろうな、と思う。一つでもバランスが崩れると
ウソになってしまう。リアリティが欠けてしまう。
難しい言葉を一切つかわずに、平凡にならない。う〜ん、やはりタメ息です。
そして・・読み終わったとき、このリリや春名と自分の境界線があやふや
になってしまったような気持ちになる。一つの具体をつきつめると普遍になる、
その小説のひとつのあり方がここにある、と思う。

この小説から私がうけとったものを言葉にするのは難しいです。
誰が正しいのかとか、誰が間違っているとかいうのではなく。
こんな風に人間を切り取ってみせてくれた、そのことに
ただ感じ入ってしまう・・・。ああ、今日はなんとも書きにくいレヴューだったなあ。
きっとこれを読んだ人も漠然とした気分になるに違いない。
夜の公園の湿った空気をそのまま吸い込むような物語・・。あ、よけいわからんですね(爆)

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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
このレビューを読んで、すごくこの本を読んでみたくなりました。
昨日から漸く百關謳カに取り掛かったところだけれど、ちょっと川上さんに浮気してしまいそうよ…(笑)
S
2006/05/17 09:28
>Sちゃん
Sちゃんをその気にさせるとは、私も捨てたもんじゃないね(爆)
ちょっと間違ったら、多分私には苦手なジャンルの話やねんけど。
なんかね、川上さんの言葉の力が素敵やった。空気や匂いを感じる文章って、読んでるだけで快感。ぜひご一読を!
ERI
2006/05/17 22:52
ERIさん、こんばんは♪
見事なレビューですね。
私自身、川上さんの作品は『センセイの鞄』と『古道具中野商店』しか読んでないのでかなりとまどったのは事実です。

基本的に女性向けなのでしょうね。
上記2作品は男性でもOKなんでしょうが・・・
少し辛口ですがTBさせていただきました。

新刊グランプリへのご投票ありがとうございます。
トラキチ
2006/06/21 00:45
>トラキチさん
TBありがとうございます。確かにこの作品は、これまでの川上さんのものとはちょっと違いますね。男性の貴重なご意見を読んで、とても興味深かったです。ちゃんと最後まで読んだトラキチさんは素敵ですよ。きっと大概の男性は「勝手な女やな」で終わってしまうんじゃないかと思います。確かに勝手なんですが、リリの心の動きは女にはヘンに納得できるところがあって、「ああ、思うとおりにやってるのね」というシンパシーをよぶんですよね。私も大概の不倫小説は嫌いなんですが、それをドロドロにならずに距離を持ってかいた川上さんの力量に脱帽です。
ERI
2006/06/21 21:00
いいんじゃないですか、川上さんらしくて。
…前半を読んだ段階で抱いたこのちょっと紋切り型の感想が、今となっては恥ずかしい。川上さん、一段昇った感じですね。今後の作品がますます楽しみです。

川上さんはこれまでもしばしば危うい男女関係(…というか、たまには人間じゃないものとさえ関係しちゃったりする)を書いてこられましたが、そしてその "いい年したオトナがなにやってんだか…" 的なあわあわとした描かれ方が独特で、それはそれで私はとても好きだったのですが、この作品は違いましたね。ある意味、妙にリアルでした。しかもそれは、このような状況で現実に起こりがちな出来事が珍しく描かれているからというのでは決してなく、そういうドラマチックな出来事に直面しながらもどこか醒めているというか、どうにも他人事っぽいところが。川上さん的にリアルですよね、非常に。しかも結局リリは春名が好きで、春名はリリが好きなんだと。二人に散々振り回された男性陣は何だったんでしょう?かわいそうな幸夫!(涙…とともに苦笑。ごめん。)

いや、おもしろかったです、本当に。
knob
2006/06/27 13:34
>knobさん
コメントありがとうございます。knobさんのコメントを読むと、「そうそう、そこが言いたかったのよ!」といつも納得してしまう。そうなんですよ。当事者の女性たちがひどく醒めてて、ほんと他人事みたいなんですよね。川上さん、このリアルは女だけの約束事なんだけど、書いちゃっていいの?なんていいたくなるリアルさでした。まあ、男性陣には非常に申し訳ないけれども、この世界は女という生き物でなりたっているのですよ。
うふふ・・・。
ERI
2006/06/27 22:20
ERIさん、こんにちは♪
読書するタイミングってなかなか合わないのですっかりご無沙汰しております。
↑のようなやり取りを伺っているうちにこの本への理解も深まってまいりました(笑)
酷くこき下ろしている感想も見かけたのですが、せっかく読んだからにはその本の空気を味わいたいですね。
(この内容をドラマでやるととてつもなくドロドロだけど)
リリにしても春菜にしてもあまりお友達にはしたくないような(汗)
ミチ
2006/10/05 09:16
>ミチさん
こちらこそ、わざわざのコメントありがとうございます♪
私は川上さんの文章の空気感が好きなんですね、たぶん。
ドラマにはしにくいでしょうねえ・・。これは、もう「言葉」というものを注意深く積み上げた世界ですから。
私は美人好きなんで、リリをとっぷりと拝見したいです(爆)
ERI
2006/10/05 21:01
はじめまして。TBありがとうございました。
ほんと、なにがいいとかそういうことじゃなくて
人の心のうごきを丁寧に描かれていましたね。
なにより、川上弘美の文体や、行間がたまらないですね。
でも
やっぱり不倫はどうもなぁーー。(苦笑)
にしえみ
2007/01/08 02:08

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