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zoom RSS 星を数えて デイヴィッド・アーモンド 金原瑞人訳 河出書房新社

<<   作成日時 : 2006/05/06 22:16   >>

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画像「肩甲骨は翼のなごり」「火を喰う者たち」などの
作品を書いたイギリスの作家・デイヴィッド・アーモンドの短編集。
彼が少年時代をすごした北イングランドの炭鉱町・フェリングを舞台
にした、自分の追憶を綴った作品達です。
両親と兄、妹たちと過ごした少年の日々。
まさに星を数えるような小さく輝いている物語たちが
ちりばめられています。

決して裕福でも、恵まれているわけでもない一家の物語。
父親が亡くなり、母も常に関節炎にさいなまれているらしい。
でも、この一家は強く気持ちが結ばれている。

「世界のほんとの真ん中は?」
問いかける幼い妹のキャサリンに、母がこう答える。
「ここが世界の真ん中よ」
母親がいて、いつも何かしら作っているキッチン。
兄弟たちは父と幼い妹が眠る墓地に行き、祈りをささげて
そして、帰ってくる。そして母の焼いたフルーツケーキを食べるのだ。
少年時代をすごした街は、その頃の自分の全宇宙。
このイングランドの片田舎にも、世界の全てが詰まっている。
喜び、偽り、恐怖、愛、悲しみ、希望、幻滅・・・。
街のだれもが知り合いであるかのような濃密な人間関係の
中で、少年はたくさんの自分に会い、たくさんのことを知る。
アーモンドはきっと大人になってこの町を出、広い世界に
漕ぎ出したのだろう。でも、何十年かたってみて、あそこに全てが
あったんじゃないか、と思ったんではないかしら。
もうなくなってしまったキッチンは、家族の象徴だったんだろうなあ。

この家族の背後には、いつも死者が漂っている。
まだ小さな子どもたちを残して死んでいった父親。
そして、幼いころに急に死んでしまった妹。
家族のだれもが常にそのいなくなってしまった家族を
意識し、その存在を感じているのだ。
家族は死者と生者でできている。
今生きている家族の後ろには、そこまで続く死が隠されているし、
今一緒にいる家族とも、いつかは別れることになる。
その一つの家族の中にある生と死が詩情豊かに描き出される。
家族って、この世のなかで一番小さなあつまりだけれども、
無限の命と交差する宇宙のようなものなのかもしれない・・。
ちょっとクサいですが。

印象的なお話をいくつか。

「星を数えて」
星の数を数えることは神の教えにそむくことだ、という神父
の言葉に反抗してみる「ぼく」。しかし、妹にそれを自慢して
からしばらくして、父親が急に病魔に犯される。
「なんで父さん、しんじゃったの?」
そう聞く妹に何も答えられないまま、落ちて来る流星群を
みつめる「ぼく」。この世の理不尽を星とともに受け止める
少年の心。・・・悲しくて、美しい短編です。
私が父をなくしたのは、もっと大人になってからですが、
この気持ちはやはり同じ。同じなんだなあ・・・。

「ジョナダブ」
いつもふらっとでかける祖父が言う「ジョナダブに行って来る」という言葉。
ふとその場所をみつけたぼくは、そこに冒険に出かける。
そこには、粗野で率直な、不幸の匂いのする兄と妹がいた。
この二人との一瞬のふれあいを描いた短い作品なんですが、
なんだかとても印象に残ります。
きっともう二度と会うことのない出会い。
それが少年の心に残したひっかき傷のような、思い出。
こんな風に人と出会うことは、大人になったらもう無理なのかもしれない。
思い出すと心がざわめくような記憶の手触りが素晴らしい。

「ベイビー」
いつも服の直しをしてくれた、年取ったやさしいおばさん。
彼女は、どうやら悲しい恋をしていたらしい。
彼女の大切にしていた写真と、ガラス瓶の中の死んでしまった胎児。
それを粗暴な手から取り返して自分の手で埋葬したときから、ぼくは
物語を書き始める。だれかの中にただよっている思いを形にしようと
する小説家としての衝動の始まり。これはアーモンドの原点なのかな・・。

「タイムマシン」
町にやってきた興行師がもってきたタイムマシン。
それに見物客代表で乗ることになってしまった「ぼく」。
ところが、それは全くのインチキだったのだ。
そうと知っていて彼の背をおす父親の、息子に対する眼差し
がやさしい。少年が男になることを、慈愛と共感をもって
見つめる父親・・。このお父さんはとても魅力的な、
人生の悲しみと喜びを知っている大人の男なんですよ。
だから、死んでしまっても、いつも家族の中心にい続ける。
アーモンドがどれだけこの父を愛していたか・・。
それがよく伝わってくる短編です。

もちろんデイヴィッド・アーモンドだから、きれいなだけの物語
ばかりではありません。特に人々の暮らしと心に深く食い込んで
いる信仰にまつわる様々なエピソードは、この田舎に住む人々
の様々な暮らしの悲哀を浮かび上がらせます。
家族と、それをとりまく星々は、アーモンドの中でいろんな光に
満ちて輝いているんでしょうね・・。
その一つ一つを読んでいると、遠く離れたイングランドのお話
なのに、自分の幼い頃のあれこれと彼の記憶が結びついていくような
気持ちになります。リリカルなお話たちに、どうぞはまってくださいませ・・。
またアーモンドのファンの方なら、この物語たちに、彼の作品のエッセンス
をたくさん感じることもできると思います。それも一つの楽しみですね。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001059



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