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help RSS 梨木香歩 「裏庭」に寄せて

<<   作成日時 : 2006/07/09 00:07   >>

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いつもコメントを頂くknobさんに、とても素敵なカキコミを頂きました。
そのコメント欄にお返事しようと思ったのですが、字数が足りないし、
読みにくくなってしまうので、別に記事を立ち上げさせていただきます。
いや、こんな素晴らしいコメントを頂くのは、こういうブログをしていて
一番うれしいことです。

<私の裏庭のレヴュー>


「おいしい本箱」のファンタジー特集に入れようと再読したのですが、再び深く圧倒
されました。すごい・・。文句なしに日本の生んだファンタジーの名作です。

「照美」という少女が、近所の荒れ果てた西洋屋敷の「裏庭」から不思議な世界に
入り込み、長い旅をするお話なのですが、この「裏庭」が、この裏庭にかかわった
人たちの心が幾重にもかさなるとても複雑な世界なのです。
一つは、バーンズという家に代々連なる「裏庭」を行き来する能力を持つ人たちの
作り上げた物語。戦争による悲劇でその裏庭を危機に陥れてしまったレベッカの物語。
そのレベッカの姉であるレイチェルと、照美をやさしくうけ入れた丈次の物語。
そして照美の祖母と照美の母親が作ってしまった傷つけあった歴史。照美の双子の弟
で、早くに亡くなってしまった純の物語。これらが見え隠れしながらも見事にファンタジー
としてのドキドキや不思議さを保っています。それは豊かなイメージと、センスによる
ものなのでしょう。ファンタジーの形をとり、シンボライズされた登場人物で物語を語ることで、
私たちは確固たるイメージで、梨木さんの伝えたかったことを胸に残すことができる。
これは、ファンタジーの王道です。

照美は、いつも「愛されない」自分に苛立ちを覚えています。
この裏庭の旅は、彼女自身の心の中の旅。ときに怒りを爆発させ、過ちを犯し、
人の心を知ることで傷つき・・。そして、すべての旅がおわった時、照美が学んだ
ことは、当たり前であるようで、難しい真実。その照美の確信が、すがすがしい。

この物語は、きっと読む人、読む時によって、ちがうものを伝えてくるはず。
私も前回に読んだ時には気づかなかったいろんなことを思いました。
自分の物語が見つけられる、というのもこれまた読書の喜びです。

梨木香歩さんは、とても好きな作家。きっとものすごい教養をお持ちなのだと
思うのですが、それがさりげなく伝わってくるのもこれまた奥ゆかしい。
この作品は、めっちゃやたら刊行される外国のファンタジーなど及びもつかない
深い作品だと思います。翻訳とかはされてないのかなあ。世界にも通用すると思う
んだけど。あ〜、「家守綺譚」が読みたくなってきちゃたよ。

<knobさんのコメント>

1年近く前の記事にいまさらコメント付けさせていただくのも何ですが、漸く読み終えたので…

古い大きな洋館、大きな鏡の向こうの秘密の庭、バラバラになった一つ目の竜の化石、崩壊しつつある世界…
いかにものファンタジックな道具立てに一瞬腰が引けたものの、読んでみたらとても骨太で、どちらかというと荒々しく厳しい物語でしたね。「ファンタジー」という言葉の一般的なイメージを、いい意味で裏切っている…そこがまさに本格ファンタジーたる所以でしょうか。非常に読みごたえがありました。

ところで…この作品は「エンジェル エンジェル エンジェル」と同じ年に出版されているんですよね。本としての体裁は全くことなりますが、テーマ的にはかなりかぶる部分があるので、それは納得。つまりは自分自身の傷とまともに向き合うということ、傷にとらわれることも傷を偽りの癒しでごまかすこともせず、痛みとともに丸ごと受け容れるということ、更には他人をもその傷ごと受け容れていくということについての物語ではないかと。おそらく梨木さんご自身がこの時期、それについて徹底的に考え抜かれたのでしょう。その末に到達した域で俳句のように生まれたのが「エンジェル」、凄まじくも尊い苦闘の過程を描いたのが「裏庭」なのかなぁ、なんて思いました。作品としては、書き過ぎずに敢えて残した余白に梨木さんらしい気品と余裕を感じさせてくれる「エンジェル」の方が好きですが、「裏庭」は、その梨木さんを梨木さんたらしめている奥の部分を垣間見せてくれる作品であるように思います。まさに梨木さんの "裏庭" の物語といえるのではないでしょうか。

<私のお返事>

まったく、knobさんの深い読みに、脱帽です。私のこんなブログの一コメントに書くのは惜しいほどです。私のように、毎日ただ読み散らして蹴散らかしていくのではなく、一つ一つを丁寧にご自分のものとされていらっしゃいます。貴重なコメント、ありがとうございます。

私もこの物語には、深い奈落を感じます。ファンタジー、と呼ぶには、あまりにも激しい苦闘の痕。それを、この道具立てで書ききったところに、並々ではない梨木さんの創作に対する厳しさを感じます。

梨木さんは、いつもSちゃんとも話すのですが、どうも実像をつかみにくい人です。エッセイを読んでも、そこにあるのは確かに梨木さんであるのに、「暮らし」という日常が匂わない。敬愛するトーベ・ヤンソンと通じるものがあります。大きな、深い山。厳しくて、懐が深い・・。
命の美しさも、喰ったり喰われたりする不条理も、その中にある森です。
その梨木さんが、この「裏庭」と「エンジェル・エンジェル・エンジェル」(この作品のレヴューはこちら http://oisiihonbako.at.webry.info/200601/article_2.html)を同じ年に出版されている、ということを私は見落としておりました。こうして、その二つを並べると、確かにそのテーマが浮かび上がってきますね。

「自分自身の傷とまともに向き合うということ、傷にとらわれることも傷を偽りの癒しでごまかすこともせず、痛みとともに丸ごと受け容れるということ、更には他人をもその傷ごと受け容れていくということについての物語ではないか」

これは、本当に難しいことであると、思います。口で言うのはたやすいけれども、それは心を一度突き崩してしまうほどの苦痛を伴うことであると思います。
私も含めて「傷ついた」ということに囚われてしまう人間が、どれほど多いか。
その傷をただなめるのでなく、自分を哀れむのではなく、そこからまた新しい旅を始めようとする、その勇気と苦闘。照美の旅は、その過程を、自分の心をたどる旅であったと、私も思います。そこから始まった旅は、「沼地のある森を抜けて」で、深い奈落の底のような宇宙の中の人間の輝きに、達しようとしてる。人は、光と影、奈落と頂を持ち、輝く湖面の底に、深い果てしない水底を隠した存在であると、私は思っています。梨木さんは、その全てを内包しながら、毅然と前を向いておられる。
そこが、素敵です。この「裏庭」が、なぜファンタジーで書かれているのか。
その心象風景をファンタジーとしての風物に託すことで、それがよりリアルさと
言葉以上のふくらみを内包するから、だと思います。
私小説という形で書かれる、または独白の形で書かれることが多いその心の旅を、
ファンタジーという形で創造した、そのことによって、またそのファンタジーが
幾重にも深く人間のありようを映す名作となる、ということ。
私はけっこうファンタジーを読んでいるけれども、ここまで深い内容を持つファンタジー
は、西洋世界にもないのではないか、と思っています。
はじめにファンタジーありき、というファンタジーではない故に、ファンタジーがより深い
輝きを放つ。この作品が持つ、新しさと文学としての深さを、ぜひ世界の人に読んでいただきたい、と思ってます。

最近ポール・オースターの「ムーン・パレス」を再読しまして、自分の心をめぐる旅というのは
なんて激しく厳しいのだろうと、40数年生きてきて、今更のように思いました。
私はナマケモノで自分に甘いものですから、ついそこから目をそらそうとします。
私が毎日こんなブログを書いているのも、ちょとでもそんな自分を変えたい、と
思っているからかもしれません。梨木さんには遠く及びませんが・・。
そんな私に、こんな素敵なコメント、ありがとうございます。
深い感謝と、尊敬をknobさんに。


  おいしい本箱  http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000286
梨木香歩さんの本  http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000285
               http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000416
               http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000417
               http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000518
               http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000577
               http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000277

私のレヴュー  http://oisiihonbako.at.webry.info/200601/article_2.html
          http://oisiihonbako.at.webry.info/200511/article_12.html
          http://oisiihonbako.at.webry.info/200511/article_9.html
          http://oisiihonbako.at.webry.info/200509/article_12.html 
          http://oisiihonbako.at.webry.info/200507/article_25.html


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梨木香歩『裏庭』
児童向けのファンタジー作品ではあるが、人間のそして社会の根源的なテーマを重層的に表現しながらこの作品は重厚な文学作品として成立している。生と死、男性と女性、西洋と東洋、それぞれの対峙と調和を描くことでこの作品は単なるファンタジーの概念をはるかに超えた哲学.... ...続きを見る
日々のことわり
2007/05/23 21:56

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
せっかく読んだんだし…と、一種の貧乏症からしてしまった書き込みに、このような過分の扱いを頂いてよいものかと戸惑いつつも感涙です。

梨木さんには、確かにトーべ・ヤンソンに通じるものを感じますね。その厳しさや懐の深さを「ヤンソンは西洋人だし、特に北欧の人だし」なんていい訳混じりで尊敬していましたが、確固たる自我に、国は関係なかったんですね…(嘆息) 今この時代の日本に梨木さんのような方がいて下さるという事実に、少し励まされる気がします。

「裏庭」は、確かに読みやすい本ではないですが、ERIさんのこの記事を見たのを機により多くの方が手にとって下さるといいですね。人の数だけ感想のある類の本だと思うので、いろんな方のご意見を聞いてみたいです。
knob
2006/07/09 23:17
>knobさん
いや、単に自分が長々と書きたかっただけかもしれない(爆)
本当に、他の方の意見も聞いてみたいですよね。この作品について語り合いたい。ここをロムしてくださっている方で、私はこう思うぞ、という方は、ぜひぜひカキコミお願いします。
Sちゃん、どう?(暗に催促)
ERI
2006/07/10 22:48
「裏庭」はねぇ…初めて読んだときは、正直ピンとこなかったんですよ。ファンタジーってあまり読んだことなかったし、"照美→テルミィ" ってあたりもにわかには受け容れがたいものがあって。
でも同時にすごく気にもなってそのままじゃ終われなかったので、「エンジェル」や、エッセイ「春になったら苺を摘みに」を読み直してから「裏庭」に再挑戦してみました。
この読み方には別に深い意味は無かったのですが、2回目に読んだ「裏庭」は私にとって、かなり大切な作品になっていました。

エッセイを読めば、梨木さんが非常に自由で自立した方で、まさに "個" として世界と対峙できる強さをもった方だということがよくわかりますが、それはきっと「裏庭」に描かれたような壮絶な内面的闘いを経て勝ち取られたものなのでしょう。そういう意味で、「裏庭」は比較的ナマに近い梨木さんを感じられる作品ではないかと思います。

…というような体験をしたものですから、以前「裏庭」を読んでイマイチだったという方も、これを機に再読してみられては。新たな発見があるやもしれません。もちろん、読み終わったらここへのコメントをお忘れなく♪
S
2006/07/11 23:30
>Sちゃん
Sちゃ〜ん!私の催促に答えてくれて、ありがとう!
小説を「読み返す」ことって、大切なことだよね・・。
一度心にしまわれたものが、なぜか時を経て発酵したり、別のものに変身してたり、する・・。私も再読して、この物語にやられたクチなんで、よくわかります。そう思うと、このバタバタ読んで書き散らしてる私のレヴューにも、ちょっと疑問があるな。先を急ぎすぎるか・・。でも、読みたいものはたくさんあるし・・。悩むわ。

「個」としての強さを持つ、ということは、日本人にはえらく大変なことだよね。そうすればそうするほどはじき出される社会だから。
だから、梨木さんのものを読むと、なんだか自分の羅針盤を見つけた気持ちになる。正しいとか正しくない、とかの羅針盤ではなく、自分の心をめぐる旅に迷った時の羅針盤かな。憧れの気持ちもこめて・・。
ERI
2006/07/12 17:55
>バタバタ読んで書き散らしてる私のレヴュー
…なんて、誰も思っていないと思うよ。
少なくとも私は、新刊情報をほぼこのブログに頼っているので、どんどん読んでバンバン書いてもらわないと困ります(爆)

この記事はアクセス件数が多いようですね。
きっと今頃は皆さんそれぞれに「裏庭」を熟読中に違いない。だって、これだけ書かれたら、このブログに集まるような本好きとしては無視できないでしょう。どんな感想が聞けるか楽しみ、楽しみ♪
S
2006/07/12 21:46
>Sちゃん
そうやねん、なぜかアクセス多し。梨木ファンは、やはりたくさんいる、と見た。皆様、ご意見お待ちしております〜〜!!
ERI
2006/07/14 00:01
こんにちは。みなさんほど深く考えていないので検討ハズレかもしれませんが、どことなく「不思議の国のアリス」「ネバーエンディングストーリー」「ブレイブストーリー」を思い浮かべました。アリスは昔すぎて思い出せませんが、現実からファンタジーワールドに飛ぶ子供は、必ず親に構ってもらえないというセオリーがありますよね。そのあたりはセオリー通りだったのでテーマではないんじゃなかろうか?と思いながら読んでいました。(傷のことはそんなに深く考えてませんでした)
「エンジェル〜」「西の魔女〜」はどちらも最後が温かいですよね。想いが通じたというのがとっても伝わってくると思うんです。「村田エフェンディ〜」も最後の最後に「あの日々が〜」という哀愁やらやるせなさがくると思うんです。としたら梨木さんはプロセスよりもクライマックスが訴えたいことなんじゃないかなぁなんて思うんですよ。ので、今回は全体的に自立(許し)が書きたかったのではないかなぁなんて読後感を持ちました。もちろん傷をはじめとするプロセスにも伝えたいことは満載だと思うんですけども。
なんかそういうふうに感じたもので・・・書いてみました(笑)
やぎっちょ
2007/08/04 10:41
>やぎっちょさん
ファンタジーという形で何を描きたいのか、それは各人で違うとは思うのですが、梨木さんのファンタジーのメタファーは、中々深いものがあるんじゃないか、と思っています。自立・・大人になるまでに子どもが至るまでに通らねばならないたくさんの闘い過程は、また人間としての根源的な問いも含んでいるのかも、とも思います。
ファンタジーの世界に迷い込む子どもが親との確執を抱えてる、というのがセオリーとしてあるのかは、ちょっとわかりませんが、反対に子どもは、必ず親や、自分を取り巻く世界と対峙してそれを乗り越えようとする時があるのだとも思います。照美の照美としての、たった一つの歩みの中に、人として変わらぬ真実がある。
・・大人になるというのは大変なことで。
もう、やりたくないですね(笑)
ERI
2007/08/08 02:06
ERIさん、こんばんは(^^)。
私的に、今までの梨木さんと雰囲気の違う作品に、少々戸惑いました。やはり「裏庭世界」が難しかったです。
浅はかな私の1度目の読了では、きっと汲み取れない深い世界、人としての成長。
ERIさんの「裏庭」のレビューと、こちらを読んで、皆さんの考えの深さに、恥ずかしくなってしまいました・・・。
お差支えなければ、こちらの記事と「裏庭」のレビューの直リンクを私の「裏庭の記事ページ」に貼らせていただきたいのですが、ご承諾いただけますでしょうか。
よろしくお願いします。
水無月・R
2007/09/25 23:38
>水無月・Rさん
この物語は、難しいですよね。私も、「わかった」とは言えません。でも、そのわからない部分をあれこれ考えてみるのも、また読書の面白いところですよね。しばらく経ってから、またもう一度読み返すと、また違って感じられたりしますよ、きっと。リンクはどうぞ貼ってください。
こちらこそ、そんなことを言っていただいて恐縮です。ありがとうございます。
ERI
2007/09/26 02:23

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