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zoom RSS セント・メリーのリボン 稲見一良 新潮文庫

<<   作成日時 : 2006/08/30 22:07   >>

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画像この本をどこかで見かけて、ふと図書館で借り、しばらく
そのままになってました。この稲見一良、という作家を私は
読んだことがない。初めて読む作家の本は、向こうが「読んで」と
呼びかけてくるのを待つことにしています。「出会う」時がある、と
思うので・・・。今日呼ばれたので、この本に身を浸してみましたが、
とても読み応えのある一冊でした。

分類すると、ハードボイルド、っていうことになるんでしょう。
私はストイックな男の人が好きなんで、ハードボイルドは涎ものですね。
この物語にも出てきますが、ハンフリー・ボガード。そして、「ダーティ・ハリー」
当時のクリント・イーストウッド。特にクリント・イーストウッドが好きでね。
なんだったか、他の映画で、女を口説いてるシーンを見て「やめて〜〜!!」
と思ってしまった。あきません。イーストウッドは女をくどいちゃいかんのです。
抱きしめても、くどいたら、あかん(爆)・・って、話がそれましたが。

「焚火」
愛しい女を殺されて、逃げる男。その男を助ける、不思議な老人。
傷つき、飢えた男に老人が供する食事が、えらく美味しそうです。
どんな絶望の淵にいても、身体が食事を欲する。その悲しみも
何もかもわかっていて、何も聞かずに男を助けるこの老人が、とても
素敵です。それは一瞬のドラマ。もう二度と出会うことのない、二人。
交錯する人生が、ドラマチック。

「花見川の要塞」
千葉の山中にある、昔の軍事用線路と、トーチカ。そこを訪れた写真家は
不思議な幻を見る・・。線路に時々現れる機関車。それを守る少年と、ポォと
いう担ぎ屋の老婆、夢なのか、幻なのかわからないまま、そこに通いつめる
写真家・・。最後にやっと見て、昔のフイルムにおさめた機関車と、それを
運転する原田曹長の侠気、それを受け取るポォさんたちの生き生きした
生命力の描写が、素晴らしい。この世で本当は見えないはずの
ものを見ようとする意志と、失われた過去への詩情がただよいます。
朽ち果てかけた風景にも、過去の大切な記憶がしまわれている。
それを心で映すことができた・・。生きている証ですね。

「麦畑のミッション」
飛行機乗りの父と、息子。その幸せそうな故郷の美しさと、戦闘の激しさとの
対比が、鮮やか。その故郷に、胴体着陸をするためにやってきた父の操縦する
戦闘機・・。
「死を怖れ、怯えてただ取り乱すことと、死ぬ覚悟を決めた上で息の根の
ある限り生きようと足掻くこととは別だ」
これは、癌という病気を抱えながら小説を書いていた稲見さんの心境そのもの
なのかも。小川に胴体着陸するシーンの緊迫感が、凄い。

「終着駅」
東京駅でもくもくと働く、赤帽の男性の話。
報われない仕事に人生を賭けてきた男の、一発逆転の話。
小技の効いた、一編。

「セント・メリーのリボン」
表題にもなっている短編。北大阪の山奥で、一人いなくなった猟犬の
探し屋をしている、主人公の男。その男のもとに、いなくなった盲導犬を
探す依頼が舞い込んでくる・・・。
いいお話で、特にラストシーンには泣けました。
この竜門が、テレ屋で、自分に厳しくて、やさしいいい男なんだわ。
こんな男は、犬と孤独を友に生きるのが似合う。
出てくる登場人物も、それぞれ魅力的ですね。
ローレン・バコールを思わせる女も、かっこいいですわ。
ハードボイルドに出てくる女性って、可憐な人が多いんですが、
こういう大人の女も、またよし。
なんと言うか、言葉の一つ一つに慈しみがこもっています。
こんなハードボイルドを始めて読みましたよ。

彼の短編には、印象的な老人が登場します。
毅然と人生を生きてきた人間の匂い。悲しみも苦しみも味わいながら
それを糧にしてきた潔さ。その姿に、稲見氏の人生観が漂っているように思いました。
それは「死」から顔をそむけないことから生まれるのでしょうか・・。
そんなことを考えてしまった作品集。
ハードボイルドを書く人たちは、優しい人が多い・・。と、故・吉行淳之介氏が
言っておられたのを思い出してしまった。人間に対する視線が優しいのが、いいですね。
稲見氏は、ご自分の病気を知ってから、小説を書き始められたという。
限られた命を知っておられたから、こんなに優しく、繊細な小説を書かれたのか。
それをハードボイルドの形で書かれた、そこに、男の矜持を感じて、色っぽくさえあります。
女性にもオススメの一冊。

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