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zoom RSS ダック・コール 稲見一良 早川書房

<<   作成日時 : 2006/09/13 21:03   >>

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画像先日この人の「セント・メリーのリボン」を読んでから、そのかっこよさが
忘れられず・・。またしても図書館から借りてきてしまいました。
そして、やっぱり一人つぶやいてしまった。「かっこいい・・」
短編6つからなる「鳥」をテーマにした連作なんですが、その一つ一つが
ドラマチックで、舞台も設定もこれでもか!というほど凝っていて、素晴らしい。
恐ろしくたくさんの本を読んでおられる気配もあり、しかもリアルな「生」の
手ごたえに満ちています。

「望遠」
何年も準備に準備を重ね、ツインタワービルの間から登る朝日の
その瞬間を捉えるためにカメラを据えたカメラマン。
しかし、その一瞬に、滅多に見られない「シベリヤ・オオハシシギ」
の姿を見たとき、自分でもわからない衝動にかられてそちらにカメラを
ふってしまう。一年に一度という朝日を撮る機会を棒に振って・・。
その一瞬の鳥の飛び立つ描写が、素晴らしく美しい。
仕事も何もかも忘れて、その情景を撮りたい、と願う忘我の一瞬・・。
ただこれしかなかった、と思う瞬間が私の人生にもあったかしらん・・。

「パッセンジャー」
孤独なサムというハンターが、森の中でであった、空を埋め尽くすリョコウバト
の大群。その爆発するような「量」の放つ命の生々しさと、それに群がって
銃で殺戮する人間の残酷さ。美しいリョコウバトが、ボロ屑のように撃ち殺されて
いく様子は、背筋に寒気が走る。稲見さんは狩猟を趣味にされていたよう。
釣りも、狩猟もどちらかというと男の趣味ですね。私にはその快感はわからぬ
までも、動物や魚と命のやり取りをする瞬間のドラマが、その衝動の根底に
あるような気がします。そして、そのドラマを味わうものにとって、「命」という
ものに対する敬意は必然なのでしょう。それを踏みにじるものに対する
悲しみがこめられた作品。

「密猟志願」
ガンという病気から再生した初老の男。仕事をやめ、キャンピングカーで
気ままに生きている彼が、一人の少年に出会う。
パチンコ一つで鳥を打ち落とす、若さと野山を縦横に駆け巡るたくましさ
を持つ少年。意気投合した二人は、近所にあるいけすかない男が密猟の
ために作っている「男爵の森」の鴨を根こそぎいただく計画をたてる・・。
少年と初老の男、という二人の人生の対比と、野山の自然が持つ懐の
深さ。人生の黄昏を迎えた男の人生の残り火が少年の頬にさまざまな
色になってゆらめきを映すような、洒脱で洗練された一編。
料理シーンも涎モノです。そして、彼らと友達になる車椅子のヘップバーン
(あ、キャサリン・ヘップバーンの方)に似た老婆が、また粋でかっこいい。
彼らのクリスマスの夜の楽しさは、私の心に残っていくでしょう・・。

「ホイッパー・ウィル」
二系二世で、大戦にアメリカ軍人として参戦し、数々の武勲をたてた男。
今はひっそりと自然を相手に暮らす男が、保安官らとともに脱獄した囚人を
追うはめになる・・・。父母を強制収容所に収監されながら、母国と戦わなければ
ならなかった記憶。有能な軍人であればあるほど、その相克は激しかったに
違いない。その過去と、脱獄した男達の人生が交錯する、非常に渋い短編に
なています。インディアンのオーキィのたたずまいが、素晴らしい。
彼の奏でたホイッパー・ウィル(鳥です)の鳴き声が聞こえたような気がした・・。

「デコイとブンタ」
口のきけない少年と、物言わぬうち捨てられたデコイ。デコイというのは狩猟用の
模型のカモです。デコイの「俺」の口から語られる、繊細でしなやかな少年の姿
が、愛しい。二人でともにした一夜の冒険は、少年の人生に輝くようなメルヘンを
書き加えたに違いない。


この多彩な六つの作品を、プロローグ、モノローグ、エピローグという
三つの掌編が繋いで、見事な叙事詩に仕上げています。
この石に鳥の絵を描き続ける男は、稲見さん自身ではないかしら。
そして、彼に出会う自分の人生を見失って旅にでた男のような読者への
これは大切なプレゼントなのかもしれません。
彼の小説を読んでいると開高健の「悠々として急げ」というセリフを思いだして
しまう。限られた時間の中で、稲見さんは心血を注いでこれらの物語を
書かれたことだろうけれど、その物語には大人の男としての余裕、が感じられます。
献辞が「妻 笑子へ」とあるのも素敵でした。
残念なことに、私の読める彼の未読の作品は限られている。
大切に読もう・・・。

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2006/09/15 00:01

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