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zoom RSS どちらでもいい アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 早川書房

<<   作成日時 : 2006/10/11 00:24   >>

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画像これもまた先日のボトルネックにも負けず劣らずの行き場のない
小説。最近アゴタ・クリストフの作品をまとめて読める機会に
恵まれていますが、「悪童日記」の諧謔とたくましさに比べると
彼女の行き場のない孤独がそのまま映し出されているようで
胸が苦しくなります。

以前「文盲」の時に書いた文章を少しあげておきます。

彼女はハンガリーの生まれ。東欧というのは、ロシア(またはソビエト)
と強大なヨーロッパ諸国にはさまれて、常に翻弄され続けた存在。
彼女の人生も、それにもまれ続ける。次々に違う国に支配される自国。
14才で牢獄のような寄宿舎に入り、21歳、ハンガリー動乱の時に赤ん坊
だった子どもを連れてスイスに亡命。時計工場で働き、子どもを育てながら、
こつこつと戯曲と小説を書いた人生。
唯一生き生きと虹のように輝いていたのは、兄と、家族と暮らした幼い日々。
この兄との思い出が、「悪童日記」に繋がっていくらしい。
その兄を、彼女は捨てて亡命した。離れ離れになった双子というモチーフには
彼女の実際の体験があったんだ・・。悪童日記の三部作で、この双子は本当に
双子だったのかで二転三転していたように記憶している。それは書いていくうちに
そうなってしまった、彼女は引き裂かれた自分の一部をハンガリーにおいてきて
しまったのかもしれない、と思ったりした。


もっと詳しく読みたい方はコチラ → http://oisiihonbako.at.webry.info/200605/article_10.html

壮絶です。奪われ続けた人生。
歴史という大きな渦の中でもまれ続けた人。
だから、彼女の文章にはいつも「帰れない」郷愁が漂っている。
その「帰れなさ」は、私たちが想像できる範囲を超えているかもしれない。
果てしなく続く線路のそばで立ち尽くし、彫像になってしまう男。
さまよい続ける街角。
決して届かない視線。
決して色づかない日常・・・。ただひたすら続くモノクロームの日々。
ここに書かれているどの情景を見ても、そこに生きている実感はなく、
すべてから切り離されたような寂寞が広がっている。
その彼女の気持ちを実感できるのは、今まだ北朝鮮にいる横田めぐみさんくらいな
ものかもしれない。

でも、そう思う一方で、この虚無になんだか慣れ親しんだもののような
感触を感じてしまうのは、なぜなんだろう。このモノクロームの世界に
身を浸しているうちに、ふっとこの流れに身を任せてしまいたくなる。
昔から、「帰れない」夢をよく見るせいなのか。
見知らぬ街角で(しかも、夢の中ではおなじみの場所で)ずっと歩きながら
帰り道を探す夢を見たことがありませんか?
遠くの灯を見つめながら、あそこに行きたい、と思いながら、どうしても
そこにはたどり着かない・・。ユング的な分析なども出てきそうですが、
この「帰りたい」感覚は、けっこう多くの人が心の内に持っているものなのでは
ないかと思ったりします。どこかに、自分の帰るところが、ある。
ここではない、どこかに・・・。そんな日ごろは深く眠っている何かを呼び覚まされて
しまうのかもしれない。

田辺聖子さんの小説に「人間嫌い」という作品がありまして。
どこからも取り残されたおばちゃんが、一人で大坂のほんとに片隅に
生きている。彼女は、長らく生きてきて「人間が嫌い」になっている。
でも、その「人間嫌い」の気持ちが、そこはかとなく自分を暖めて
くれるのだ、という小説です。
アゴタ・クリストフとおせいさん。ちょっとびっくりする取り合わせかもしれませんが、
私はこの短編集を読んでいて、なんだかこのおせいさんの書く思いを
思い出してしまった。この徹底した虚無を読んでいると、かえってこの
はかない、あっけなく大きなものに翻弄される人間、というものが愛しく
思えてくるんですよ。彼女の虚無の中に隠れてる美しい情景が見えるような気がする。
「ある町のこと」に書かれている林檎の実の甘さと、落ち葉の暖かさ。
「この世の何処にも、父が私と手をつないで散歩した場所はありません」
この言葉に含まれている憧憬の重さを、私は抱きしめる・・。
失い続けた彼女の人生は、「書く」ことで大きな力を放った。
「どちらでもいい」と突き放す人生ではなかった。そう思います。

おいしい本箱 → http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php



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