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zoom RSS 映画 薬指の標本 小川洋子原作 ディアーヌ・ベルトラン監督

<<   作成日時 : 2006/11/02 23:32   >>

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画像昨日の夜、「そうそう、これ、いつまでの上映だったかしらん」と
HPを開くと・・。なんと、今日までじゃあありませんかあ!
いや、10日まではやってるんですが、今日を逃すとレイトショーのみ。
ミナミまで行かなあかんのに、レイトショーは見られへん・・ということで
急遽いってまいりました。しかし、一週間くらいしか上映してないやん・・。
どんだけマイナーやねん!!と思いながら、早くから電車に乗ってミナミへ。
(あ、ミナミというのは大阪弁で難波、つまり道頓堀やアメリカ村のある一大
歓楽街のことでございます)パチンコ屋に並んでいる、おっちゃん、おばちゃん、兄ちゃん
の横を潜り抜け映画館に・・・。あわや館内私一人かというくらいの入りでしたが
(私含めて最終的に5人くらい)これが、なんとも官能的な、いい作りの映画でございました。

小川さんの「薬指の標本」については、先日書いたレヴューがございますんで、
よければそちらをどうぞ。→http://oisiihonbako.at.webry.info/200609/article_27.html

この監督さんは、非常に小川洋子さんを読み込んでいる、とまずそう思いました。
まず、ところどころに、小川さんの作品の鍵がちりばめられております。
やけどした少女の頬の傷跡は、「沈黙博物館」の少女の傷跡を思わせたし、
桟橋から遊覧船に乗って標本室まで通う光景は、「ホテル・アイリス」の船を
思わせる。ホテルの受付のたたずまいも・・・。
そして、透明感があってなにやら微熱をはらんでいるような映像の
一つ一つが、なんとも小川洋子の世界なんですよ。
埠頭の、少しさびたような色合い。古い洋館の色あせた壁。
洋館に続く路ぞいの、うっそうとした植物たち。
そして標本室の古ぼけた木の棚。白く塗られた無機質な廊下・・・。
そこに並べられた標本の瓶の色。
あの、二人のひそやかな場所である浴室も、古い青のタイルが敷き詰められた
想像通りのものでした。小川さんがパンフレットに寄せた文章の中で
「十二年前、くまなく歩いた自分だけの標本室に、久しぶりに戻ってきたかのような、
あるいはその折り会った登場人物たちと、再開できたかのような気分だった。」
と述べておられる。長らく小川さんの物語の中を旅してきた私にも、それは
妙に既視感を伴う光景・・・。小川さんの小説は、日本ではなく、いつもどこか
異国の香りがするんですが、「ああ、ここだったのね」という感じです。


画像



その映像が物語るように、この監督さんは、小川さんの原作にある「官能」を
非常に忠実に描き出そうとしていた・・そう思います。
この物語のエロス・・官能は、決してあからさまなものではなく、非常に押さえ込まれた
「気配」のような独特のもの。「死」の匂いと背中合わせの、冷たい官能です。
主演の少女・イリスを演じるオルガ・キュリレンコは、この少女の役柄にぴったり。
美しく、清楚。そして、そのなかにうごめいていく官能を、見事に演じていました。
設定は夏で、いつも彼女は肌に汗をにじませているんですが、その発光している
かのような肌が触れる、浴室のタイルの冷たさ、染みとおる雨の冷たさ、
そして抱かれているときの技師の肌の冷たさを、ぞくりとするほど感じてしまう。
足にぴったりする靴をはかされた時から・・いや、初めてこの標本室にきて
呼び鈴を鳴らしてしまった時から、彼女が囚われてしまった世界への肌触り
を、美しさと繊細な表情で演じ切っておりましたよ。モデルもしてはるらしいんですが
その肢体の美しいこと・・・。素敵でした。
技師役のマルク・バルベという男優さんも、技師の持つ冷静な狂気をふりまいて
登場すると、画面がピシっと張り詰めるほどの存在感・・。
この役は難しいですよね・・。技師は靴を彼女に与えて、支配していくようでありながら
実は、彼女が体の内や、感受性の中に溜め込んでいく官能の気配に
耳を澄ませて違う世界にいざなっていくわけです。一歩間違えるとそのバランスは
崩れて、単なる支配と忍従の関係になってしまいそう。そのあやういところを
ちゃんとわきまえていて、演じていたのが印象的。
いやあ・・こういう風に小川さんの世界を描出することができるんだ。
これはハリウッドでは、無理。(いや、まず作らないだろうけど)
セリフも最小限で、ほぼ情景のみで語られ、そこから何を受け取るのか
大きく観客にゆだねられる映画。
「観客は歯が立たなくて挫折するか、あるいはその魅力にはまって席をたてなく
なるかのいずれかに違いない」・・というのはフランス・プルミエール紙の映画評ですが
全くその通り。R18指定につられて入ってこられたのか、ひとりおっちゃんがいはった
んですが、途中で眠りこけてはりましたからね(爆)
こういう微妙な官能は、amourの国・フランスでないと描ききれなかったでしょうね。
懐が深うございます・・・。

印象的なところを、抜書き。

・原作では「わたし」となっていた少女に、「イリス」という名前がつけられていたこと。
これは「ホテル・アイリス」から取ったのかな?と思ったり。

・少女の服装が、微妙に変化していく。
初めは子供っぽい感じなのに、すこしずつしなやかな、体に沿ったシックなドレスに
なっていくんですよ。シンプルなのに、それが非常におしゃれ・・・。
このあたりは、さすがです。特に最後のほうで着ていた赤い模様のくりの大きな
ワンピースが美しくて・・。ほしい!!(似合わんやろ)

・靴が、原作の黒から、深い赤に・・。
これは彼女の衣装に合わせた色の選択だと思うんですが、まわりの風景と
標本室の茶色の床に非常にあっておりました。そして、原作よりももう少し
色濃いエロスを漂わせ、この靴の役割を強調するのに役立っていたと思います。

・エピソードの追加
原作にはないエピソードが追加されているんですが、それがなかなか面白かった。
一番大きいものは、彼女の暮らすホテルの部屋の設定。夜勤の男性とルームシェア
をしている設定です。決して顔はあわさない。ただ空っぽのベッドにお互いの気配を
感じるだけ。その「不在」が、より強く少女の気配を漂わせる・・・。
自分の想像の中で育っていき、蓄えられていくものが、強く打ち出される効果に
なっていたと思います。

・少女がひっくり返すものが、和文タイプライターの活字から、麻雀牌のセット
になっているところ。和文タイプなら大変な拾い集める作業も、英文タイプ
(仏文タイプというのもあるのかしらん)なら、すぐに終わっちゃいますもんね。
一晩はかからない・・。だから、麻雀牌なのかな。東洋の香りをちょっとだしたかった
のかもしれない。しかし、これはどちらでもいいですね。
あれを一晩拾い集めたあとで、やさしく技師が少女を抱きしめるシーンは秀逸でした。
物を拾い集めて並べて溜まっていくうちに、その行為が別の意味を
帯びてくる・・・。ドキドキしましたね、なんだか。


・時折のぞく少年
時々、少女と技師をじ〜っと眺める少年がいるのですが。
彼はなんだったのかなあ、と。
ここに住んでいるわけでもなく。(だって、住んでいるのは老婆だけ)
あちこち見ていたら、この少年は死んでいるんだ、という指摘を読んで
おお、そうかと。やけどのある少女の、火事で死んでしまった弟なのかしらん・・。
ここに封じ込まれ「死」の世界から二人を見ている・・。ということなのかな。

・港を歩く光景
何度も繰り返される、少女が港を歩く光景が美しくて忘れられない。
飛ぶ海鳥、水色の海、鉄の塊の船や重機の間を華奢な靴をはいて
歩くイリス。孤独な感じなんですが、寂しそうではない。
風景と話をしながら歩いているような表情と、美しい背景が印象的でした。

・・・そう。これは、想像力の物語ですね。
預けられる標本も。少女が絡め取られていく過程も。
そして、ラストで暗い廊下から扉を開けて光あふれる地下室に入っていく
少女のその後も・・・。登場するもの、鑑賞するもの、そのどちらも、自分の中の
想像力をいっぱいにして「気配」を読み取り、蓄えていく。
失った薬指の欠落を埋めていく幻想・・・。
原作よりは、その官能的な部分が強調されているようですが、芯になるところは
きちんと余すところなく捉えられていた、と思います。
面白いものを見せてもらいました。DVDになったらもう一度見てみたいものです。

おいしい本箱 → http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php


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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
TBを返そうとして下さったのに失礼しました!
こちらにURLをペーストするので、よかったらお願いできますでしょうか。
http://xiaoguang.jugem.jp/trackback/31

お手数おかけしてごめんなさい!
よろしくお願いします○
hiki
2006/11/04 22:26
>hikiさん
こちらこそ、どうもありがとうございます。TBできたみたいです!!
ご丁寧な配慮、痛み入ります。ありがとうございました。
ERI
2006/11/04 23:27
この作品について書かれているブログの記事を色々と読んでみたのですが、先に小説を読まれている方が多いですね。そして概ね小説の世界観を崩さずに映画化されているという感想でした。いいことですよね。あまりに崩されてしまうと、たとえそれが映画としては完成していても原作ファンは不満に思うことが多いですから。
h
2006/11/10 01:25

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