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zoom RSS たそかれ 不知の物語  朽木祥 福音館書店

<<   作成日時 : 2006/11/28 23:51   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 2 / コメント 2

画像前作「かはたれ」に続く、河童と人間の紡ぐ愛と信頼の物語。
泣きました。自分でも、おかしいくらいに。
読み進めるうちに、どんどん自分の中から涙があふれて止まらなくなり、
ほんと大洪水になってしまった。それは自分の涙であって、自分の涙で
ないような感じ。銀色の美しい河童の住んでいた淵の底からあふれて
くるような、何かでした。読み終わったあと、その涙に洗われたように
心がしんとして、美しい月の光が差し込んでくるような思いがいたしました。
月読の河童の霊力が私にも降り注いだのかもしれません・・。
「出会う」ということ。人と人が、そして人と人でないものが。
その美しさが、心を掴みます。

「かはたれ」については、前回に書いたレヴューがありますんで
こちらをどうぞ。 → http://oisiihonbako.at.webry.info/200602/article_11.html

前回、麻と八寸が過ごした稀有なひとときから四年がたった夏。
八寸は、また人間世界へ赴くことに・・。今回は、取り壊し間近の学校の
プールに一人残っている月読の一族の河童・不知を連れて帰ることが任務。
その月読の一族は、不知が幼い頃に、何者かに一族ごと皆殺しになっているのだ。
世にも稀な美貌に高い知性、強い霊力を備えた、たった一人の生き残りの不知。
彼が帰ってきてくれることを願う長老は、前回人間の世界から帰ってきた八寸に
願いをこめた。とは言っても、まだまだ子供の八寸。(なにしろ、人間界の四年は
河童の一年にも遠く満たない)もぐりこんだ学校で姿を垣間見られて大騒動を
おこし、女の子たちに追いかけられたり。(ここ、爆笑でした。もう、不器用な八寸
がかわいらしゅうて、かわいらしゅうて・・。助けにいってあげたかった・・爆)
しかも、やっと出あえた不知は、八寸のいうことなんぞに言葉を貸そうともしない。
困ってしまった八寸なんですが、なんとその学校は、麻が通っていた学校でもあったのです。
麻の懸命な努力のおかげで、再開できた麻と八寸。そこで不知がどうしてこの
学校のプールで待っているのかを聞いた二人は、音楽というやり方で、不知の
願いをかなえたいと願う。

今回の主人公は、なんと言っても美しい月読の河童・不知です。
月の光を浴びて銀色に輝く、またとない美貌の河童。
不知・・「ふち」と呼ぶのです。淵、ともかかっておりますね。
または、不二(二つとないもの)、そして霊峰であり、いつも銀色に雪をたたえる富士
ともつながる名前なのかな、と思ったりしますが。
幼いころに一家を皆殺しにされた彼は、たった一人。・・そう。特別な存在であるゆえに
河童の一族に溶け込むことはできない。その彼が唯一愛したのは、司という青年だった。
やはり聡明で美しく、バイオリンが上手な彼。その司の奏でる音に惹かれた不知の姿
を、司は見ることができたのだ。まるで兄弟のように過ごした日々・・。
この二人の姿が、なんとも愛しくて、美しくて・・・。
この散在が池のほとりで、山の中で、すごした二人の日々が目の前に浮かぶようでした。
月の光を浴びて奏でるバイオリンに聞き入る銀色の河童・・。
それは、目に見えないものを見、聞こえない音楽に耳をすますものだけが繋ぐ心と心。
違う存在だからこそ、魂で結びつく二人・・。これは、八寸と麻、そしてチェスも同じ。
存在する時間も、空間も、種族も違うものが通わせるものは、心しかないんです。
そして、そうだからこそ、その繋がりは他にはない、大切なもの。
しかし、その幸せな二人に、不幸が襲いかかる。戦争です。

出征していく司。戦争という恐ろしい体験は、司からバイオリンと奏でる腕と
美しさに心を開く心を奪ってしまった。そして、空襲で焼け落ちる校舎の下敷き
になって死んでしまったのだ。「プールのところで待て」という言葉を残して。
だから、不知は待ち続ける。その場所を片時もはなれずに・・・。
司を救えなかった、司を置き去りにした。その思いと、もう一度会いたいという願い。
麻は、この二人を結びつけた音楽の力を借りて、なんとかその願いをかなえたい
と願う。同級生の河井くんの力も借り、ありとあらゆることをやってみる、麻と河井くん
と八寸。なかなかうまくいかなかったその試みが、ふっと氷が溶けるように
実を結ぶ瞬間・・その光景の感動は、もうぜひぜひ読んでいただきたい。
忘れられない、心に刻み込まれる瞬間です。

自分が出合った美しいものを信じ、心に持ち続けること・・。
それができる人は、河童と出会えるのかもしれない。
「そんなことあるはずない」「そんなこと信じても仕方ない」
「もう子どもじゃないんだから」そう思ってしまったら、もう二度と
そのかけがえのないものとは、会うことはできないのだ。
麻は、八寸がいなくなってしまった後も、ずっと彼のことを考え、自分の
できる限り、あちこち聞いてまわり、何枚も絵を書いて、八寸に会いたいと
願い続ける。きっと、その思いがなければ、八寸と二度と会うことはできなかった
だろう。そして、ピアノが上手な河井くんも、幼いころ、一度捨てた音楽への
思いを、麻の言葉と絵に励まされて取り戻したときのことを、忘れない。
大切なものは、すぐに目に見えなくなってしまうから。
八寸と過ごした日々を大切にしていた麻と八寸が再び出会えた場面は
なんだかとても嬉しかった。今度は不知の霊力のおかげでちゃんと言葉も
交わせた二人。そんな再会の喜びを知る二人だからこそ、また不知の悲しみにも
深く心を動かされる・・・。

その悲しみのふたを開けるのは、音楽の力です。
音楽の力が、それぞれの魂に「耳に聞こえない音楽」を奏でたとき、
奇跡は起こる。その奇跡は、もう二度とは帰ってこない、瞬間の奇跡。
しかし、そのこの世のものではない奇跡は、確かなものをそれぞれの胸に
残していく。戦争という大きな暴力が奪い取った心を、また取り戻した一瞬。
それは、不知の、八寸の、麻の、河井くんの、そしてチェスの胸にいつまでも
鳴り響く永遠の音楽なのだ。それをこんなにも美しく鳴らしてくれた朽木さんに
心からのありがとうを・・。

今回、個人的に愛しくて仕方なかったのは、年老いたワンコのチェスです。
不知のように、きっと「待て」といわれたら、いつまでも麻のことを待っているチェス。
その絶対の信頼・・。河童よりも、人間よりも寿命の短い彼は、この中の誰よりも
早くこの世を去っていく。最後、八寸と最後のお別れをするチェスに、もう泣けて
仕方ありませんでした。それぞれの時間の中で、出合ったこと。
そして、別れていくこと。その中で美しい音楽を奏でていけたら、こんなに
素晴らしいことはないのだけれども・・。争いや戦争が砕いていくものの大きさに
暗然としてしまいながら、そこからまた歩き出すことが出来た不知の姿が
心を打つ物語。

格調高い日本語の美しさもさることながら、あちこちに散りばめられた深い人生の
言葉にも、色々と考えてしまったり。ああ、そう。そうなんやわ、と膝を打ちたくなる
言葉が随所に・・。それを読むのも、また面白い。
児童書、といいながら、大人の方にもぜひ読んで頂きたい本です。
失われていく自然に対する悲しみ、そして反戦への深い願いも・・・。
いろんな読み方ができる、それがまたこういうファンタジーの素敵なところ。
派手な謎解きや、戦いの物語に疲れた方へもオススメですよ!!


http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001152





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たそかれ
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1day1book
2006/12/29 14:37

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさんの言葉豊かな紹介文もすばらしいですね。

そして、日々これだけの読書を読んだだけで終わらせずに、その先にある残す楽しみにつなげてらっしゃるところがほんとにすごいです。
さかな
2006/12/15 15:35
>さかなさん
う〜ん、私はどうも饒舌に成りすぎるきらいがあります。本当に伝えたいことだけをきっちり書けたらいいんですが、あれも、これも、と欲張りすぎる。
この物語はもっともっと語りたいことがあったような気がしています。
折に触れてもう一度書いてみたいと思っています。あれ?やっぱり書きすぎですね。
ERI
2006/12/16 00:58

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