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zoom RSS 星と半月の海 川端裕人 講談社

<<   作成日時 : 2007/01/17 23:44   >>

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画像動物をテーマにした短編集。
自然というものを長らくテーマにしてきた川端さんの生き物に対する考え方
は、深くてまた瑞々しい。種として繁栄し、命を繋ぎ、そして滅びていくこと。
その命の連鎖の中に人間もいて、同じ時をゆっくり刻んでいる・・・。
その生き物たちの心臓の鼓動を聞かせてもらうような気がした。

「みっとないけど本物のペンギン」

いわゆる「ペンギン」と「オオウミガラス」が似ているようで違う種であり
ペンギンが絶滅しなかったのに比べ「オオウミガラス」がなぜいなくなって
しまったのか、という理由が人間の食欲にあった、ということを初めて
知った。オオウミガラスは美味しかったのだ。そして、人を恐れず、すぐに
捕まえられてしまう。北極でその理由で絶滅し、たった5羽北海道に船で
たまたま運ばれたオオウミガラスは繁殖していた、という設定を追う
話となっている。食べられても食べられても人懐こく、ペンギンほど可愛くなかった
オオウミガラスはやはりそこでもひたすら食べられてしまう・・・。
「ペンギン」という言葉の元々の語源は、この鳥にあるという。
「かわいい〜!」と私達は勝手に動物のランキングをつけてしまう。
ペンギンは確かに可愛い。動きもユーモラスで、人間好み。
でも、その言葉に含まれる人間としての傲慢の匂いを忘れまい・・・。

「星と半月の海」

もっとも巨大な魚類・ジンベエザメ。
獣医として水槽の中のジンベエザメを見つめ続けた女医。
女であることのハンディを跳ね返そうとがむしゃらに突き進む彼女と
ただひたすら自己完結して悠々と泳ぎ続けるジンベエザメ。
その対比が面白い。
その時はまったく、意思疎通の手がかりがないように思えた
ジンベエザメと、十数年たったあとの海洋調査で再会する奇跡。
その一瞬のふれあいは、命を繋ぐ母性としての共感なんだろうか。
海の中で、巨大なジンベエザメの口に薬を入れるシーンがいい。
海がまるで大きな宇宙で、そこでコンタクトした奇跡のように感動的。


「ティラノサウルスの名前」

ウチの長男が、小さいとき非常に恐竜マニアでした。
各地の恐竜展、化石堀り、博物館、いろいろつれて行ったものです。
そして、どこに行っても花形なのは、やはりティラノサウルス。
その時代の食物連鎖の頂点にいる華やかさと、強さ、大きさ。
恐竜好きで憧れない男の子はいないでしょうね。
その恐竜の象徴ともいえる「ティラノサウルス」という名前が
もし学術的な理由でなくなってしまったら?
専門的な道を進むうちに忘れかけていた、情熱の初期衝動を
取り戻す男の気持ちの変化が、面白い。永遠の少年、ですね?


「世界樹の上から」

ごく短い作品だが、世界を包む大木のような樹の上で確かめる
新しい命の気配が、爽やか。「ここは海で、私は海だ」
この思いは、命を宿したことのある女の人なら、一度は感じる思い
なのではないかしら。満ち潮の時間は出産が多いという。
月や海のリズムと同じ鼓動を刻む女の体が不思議でもあり、
また当たり前だとも思ったり。


「パンダが町にやってくる」

ちょうどNHKの番組で、アメリカの動物園でのパンダの妊娠出産の
記録をやっておりまして、つい見入ってしまいました。24時間態勢の
何十人という人がチームを組む、その飼育。生まれた赤ちゃんは、ほんまに
たまらん可愛い。そして、やはりこの「可愛い」ということの影に私達が
忘れかけているもの。パンダという動物の野生としての力や、生き方。
ツートンカラーの配色と仕草にころっとやられてしまうが、パンダの目は
獰猛だ、という吉行淳之介のエッセイを思い出した。
たった一度中国で見たパンダは、人気のない動物園の隅で、あまり
かまわれずに凄い格好で寝ていたなあ。なぜか白い毛が黄緑になっていて
「これ。パンダ?」と息子に聞かれた記憶が・・・。そのほったらかし加減が
恐るべし、中国、なのかもしれません。

「墓の中に生きている」

M島と書かれていますが、これはマダガスカル島ですね。
独自な進化を遂げた霊長類と、カメレオンの島。
バオバブの木。比較解剖学者である男が、その島の霊廟で
見た、死者たちが織り成す幻想。この国の埋葬の形態は独特
で、死者の骨を非常に大切にする。その命の痕跡の積み重なる
場所で見る、宇宙から見られているような星の瞬き・・・。
一瞬で消えていくかのような人と、動物と、永遠のような時間を生きる
星と。それが脈々と繋がるような、不思議な感覚。
解剖学者という一見非情に見える仕事の中に生きている命への
賛美の気持ちが、伝わってくる。一番気に入った短編。


動物も人間も、縁あって同じここに、生きている。
動物という違う種を通して描かれる生と死の手応えが、掌にずっしりと重い。
その手ごたえこそが、川端さんの思いの深さだと思う。
この短編を通じて、日ごろ接点のない職業のあれこれに触れるのも、興味深い。

そして、川端さんの書く死の気配に、なんだか私の心はやすらいでしまう。
生も死も、つきつめれば同じ地平にあるもののような、そんな平らかな気持ちに
ちょっとの間だけど、なれる。それは、川端さんの視野の広さに心が同調するからだろうか。
いろいろ考えさせられるいい短編集でした。

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星と半月の海<川端裕人>−(本:2007年2冊目)−
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デコ親父はいつも減量中
2007/01/18 00:37
星と半月の海 川端裕人
装画は山田博之。装幀は坂川事務所。小説現代2005年6月号から2006年9月号まで不定期掲載。動物テーマの短編集。4は書き下ろし。すべて加筆修正。 1みっともないけど本物のペンギン―語り手のぼくはペンギンの飼育& ...続きを見る
粋な提案
2007/02/01 12:32
「星と半月の海」川端裕人
タイトル:星と半月の海 著者  :川端裕人 出版社 :講談社 読書期間:2007/07/31 - 2007/08/02 お勧め度:★★★ ...続きを見る
AOCHAN-Blog
2007/09/26 19:17

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
川端さん生き物への視線が感じられる、独特の味わいのある動物小説でしたね。描かれる子どもがやっぱり魅力的です。“そのほったらかし加減が恐るべし、中国”に笑いました。未読ですがいくつか動物にまつわるノンフィクションも書かれているみたいなので、そこで培ったことからのアプローチのような気もしました。
藍色
2007/02/01 12:31
>藍色さん
自然、動物、命、少年。川端さんの世界ですね。この世界にいるときの川端さんは生き生きして見えます。愛情が伝わってくる本というのは気持ちいですよね!!中国のパンダは、なんだかのびのびしておりましたねえ。でも、それも結構昔の話ですんで、今はどうなのでしょう。文中にも書いたNHKの番組えを見ると、今パンダの繁殖に力を入れているようです。あんな風にほったらかされてることは、もうないかもしれませんね・・・。
ERI
2007/02/02 09:23

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