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zoom RSS エスケイプ/アブセント 絲山秋子 新潮社

<<   作成日時 : 2007/01/25 22:48   >>

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画像昨日は、青春のロードムービー。今日は、中年の旅の話。どっちが胸に沁みるか。この正臣という、オジさんのする空っぽな旅の手ごたえが、なんだか心に染み渡る。ああ、私も同じように空っぽだあ、って思うと、なんだかほっとする。お互い、空っぽだねえ、って。でも、空っぽでも今の私は風通しよくないんだが、この男の今は、やたらに風通しがいいのだ。この、からんとした虚無と、ちょっとそっぽむいた気配。ふっと思い出したのは、金子光晴の「おっとせい」。


だんだら縞のながい陰を曳き、みわたすかぎり頭をそろへて、拝礼してゐる奴らの群衆のなかで
侮蔑しきったそぶりで、
ただひとり、 反対をむいてすましてるやつ。
おいら。
おっとせいのきらひなおっとせい。
だが、やっぱりおっとせいはおっとせいで
ただ
「むかうむきになってる
おっとせい。」(金子光晴「鮫」より)



主人公の正臣は、いわゆる「活動家」というヤツだった。ん?年上?と思ったら、なんと、これが同世代。・・・ということは、この私らの世代で「活動家」にハマっていた、ということ自体がもうけっこう時代にそっぽ向いているんですよね。やっぱり、「全共闘」とか「革マル」とかいうと、一世代上が、一番熱かった。団塊の世代、です。しかし、私らの世代になると、これがもうすっかり意気消沈してましたねえ。まあ、私の通っていた大学は女子大で、そういうところとは遠くにあったというのもありましたが。この物語にも出てきますが、京大なんかには、いっぱいゲバ字の看板が立っていた記憶がありますが、やはり世の中の流れはもうそこからは遠かった。そこに、その時代にはまっていたというところが、おっとせいやな、と思う所以です。でも、やっぱりおっとせいはおっとせい、ということを40まで引きずってしまった正臣。活動をする、ということは世間的に「不在」になるのと同じ。その彼が、一人の可愛い姪っ子のために、その時代遅れから抜け出すことにしたのだ。その不在であった過去から現実に戻る間の、それこそかわらけに書いた「自由」一枚くらいの旅のあれこれが、なんだか身に染む。それは、なんとなく、自分のこの人生も、エスケイプなんじゃなかったか、という気持ちがどこかにあるからかもしれない。

それは逃げたんじゃない、選んだんだと思いながら生きてるんだけど。その苦さの中に、この中年の青臭いセリフが、やけに突っ込んできてなんだかイタ可笑しかった。わかるよ、わかるけど、そんなにまともに突っ込んでこんといてや、て感じです。その成熟、とか完成、とかいう言葉からの遠さが、この物語の共感かもしれない。つかの間滞在する京都という街の懐の深さが、その正臣の空っぽさをその重みで埋めていくようで、またいいですね。エセ神父のバンジャマンと世話焼きの歌子ばあさんのコンビは、なんだかこれまたエセ親子みたいな風情。血の繋がらないもの同士の愛情は、ゆきずりの人間の心を暖める。これから人生をやり直すわけじゃなく、比叡山の山頂から見た風景のように正臣は、これから違う景色の中に降りていくんだろう。

この「エスケイプ」の対になる「アブセント」には、正臣の双子の弟が出てくる。同じように活動にはまりこんで、長らく連絡のつかない、弟。表裏のようなこの和臣は、京都から福岡に逃げていて、やはりもう活動からは足を洗っているものの、何となくまだ落ち着かない。正臣が比叡の山に上から琵琶湖を見下ろしているとき、どうやら正臣は琵琶湖のほとりから比叡を見上げているようだ。お互いの不在を意識する視線がそこで交差するような、印象的なラスト。

「悪いな、おれは必死だよ。でも、必死って、祈ることに少しは似てないか」

ほんとにまあ、生きるってことに不器用なんだもんなあ。お互い、うまくは生きられないねえ・・・。そんなことを一人ゴチて本を閉じ、昔の同級生と青臭く語り合った気分でなんだかちょっと照れくさいながら心ほのぼのした。絲山さんの書く話し言葉のテンポに引きずり込まれる小説。・・・同世代にオススメです。

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エスケイプ/アブセント 絲山秋子
装幀は池田進吾(67)。初出「新潮」2006年11月号。 エスケイプ・・・闘争と潜伏にあけくれ、20年を棒に振った「おれ」。主人公で語り手の江崎正臣四十歳の、二00六年夏。故郷、仙台にいる妹のやよいが念願の託児所を& ...続きを見る
粋な提案
2007/01/26 16:07
芥川賞作家の新作小説 絲山 秋子著 「エスケイプ/アブセント」
著者の本は、確か二冊目。 ...続きを見る
本読め 東雲(しののめ) 読書の日々
2007/05/30 19:43
絲山秋子『エスケイプ/アブセント』
絲山秋子『エスケイプ/アブセント』 新潮社 2006年12月20日発行 ...続きを見る
多趣味が趣味♪
2007/06/09 14:03
「エスケイプ/アブセント」絲山秋子
タイトル:エスケイプ/アブセント 著者  :絲山秋子 出版社 :新潮社 読書期間:2007/05/07 お勧め度:★★★ ...続きを見る
AOCHAN-Blog
2007/06/14 22:58
エスケイプ/アブセント 絲山秋子
エスケイプ/アブセント ■やぎっちょ書評 絲山さん久々です。 いきなりクライマックスからですが、本当なら和臣の物語をもっとぐーっと書いて、第3部で2人が会うかどうかすれ違うのかっ!という展開が正しい小説のあり方?だと思うんだけど、ここで終わる絲山さんが好きで... ...続きを見る
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書...
2008/01/14 22:39

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
訪問大丈夫のお知らせ、ありがとうございます。また少しづつ来させていただきますね。
主人公、江崎正臣四十歳のキャラクター。普通だったら同世代でも何の接点もないのに、自然に物語に引き込む独特の語り口がお見事でした。教会を探す時のボヤキ「三親等以外散歩禁止みたいな閉鎖性」に笑いました。
“京都という街の懐の深さが、その正臣の空っぽさをその重みで埋めていくよう”のフレーズがいいですね。イタ可笑しいっていうのがぴったりでした。今回のレビューもいろんな発見をさせていただいて、納得しながら深くうなずけました。
寒い時期、体調に気をつけられて家庭優先でお過ごしくださいね。私も2月からは超多忙になってしまいますので記事の更新は滞るかと思います。
藍色
2007/01/26 16:06
>藍色さん
気を遣ってもらって、どうもありがとうm(_ _)m
いつでも、待ってます♪京都の裏町って、ほんとに迷路みたいですよ。
でも、やはり他の町にはない、独特の雰囲気があります。裏道が面白いんですよ。時々ふらと行きたくなります。藍色さんも忙しくなられるんですね。お互い、胃腸に気をつけて、がんばりましょうね!!
ERI
2007/01/26 22:07

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