おいしい本箱Diary

アクセスカウンタ

zoom RSS きつねのはなし 森見登美彦 新潮社

<<   作成日時 : 2007/01/29 00:50   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 5 / コメント 3

画像京都を舞台にした、物語の中で時が止まっているような幻想を
描き出した、短編四つ。登場人物が重なる部分もあるが、どれもが
少しずつ違う位相の中に重なり合うような、ゆるい意味での連作である。
この作者は初読みだったのだが、その気配がかもし出す懐かしいような
でも思い出したくないような幻を、堪能しました。


ほんの小さい頃・・・多分3つくらいの時なのだが、京都の町中に住んで
いたことがある。いわゆる京都の、昔ながらの町屋だった。京都の古い家は
鰻の寝床、というように、門口は狭くて、奥が深い構造になっている。
そして、家の壁と壁は隣接していて、窓は道に面したところしかない。
だから、中庭があるのである。私が住んでいた家にも中庭があった。
小さな小さな中庭だったが、そこにはやはり小さな植え込みがあり、苔が
びっしりと生えていた。朝、太陽が昇り、そこに日が当たるとその苔から
陽炎のように蒸気が立ち上るのである。その光景が、今でも目に浮かぶ。
京都に住んでいたのはほんの一年半くらいの間なんだけれども、私は
その間に次々に病気やけがをした。京都は、夏が暑くて冬が寒い。
母親は、そのしんどさに疲れて、早々にまた大阪に戻ったんだけれど、
どうも、京都の町中というのは、そこに長く住んでいないと、居つきにくいもの
でもあると思う。その土地に沁みこんでいるものが大きすぎて、血の中に免疫の
あるものにしか、存在を許さないような感じかな。私は京都という町が大好きだが
やはり住もうとは思わない。
実際、私はその中庭が少し怖くて、遊んだ記憶はない。ただいつも眺めていた
ような気がするなあ。そこで、字を覚えた私は、今に繋がる活字中毒の幕を
斬って落としたわけで・・。短い間に、あそこから受け取ったものが大きいような
気がするのは、やはりその「土地」の力なのかもしれない。

・・・本題に入る前に、これだけ延々と語ってしまったのは、この本に収められている
4編の話がはらんでいる幻想に、やはり「京都」という町の持つ底知れなさが与えて
いる力というものが大きいと思ったから。梨木香歩さんが「そこに人が存在する、その大地の由来」を語りたい、とおっしゃっておられたのだが、人と土地というものは、密接に結びついて
いると思う。きつね、骨董屋、水、琵琶湖疏水・・・。いくつかのキーワードでおぼろげに
繋がっているような、この4編のお話に、水脈のようにたゆたっているものは、やはり
あの京都の町に流れる、気配のようなものかと思う。どの短編にもチラっと姿を見せて
物狂いへの呼び水となる、ケモノ。「魔」と呼んでいいのかどうか、その実態も何も
明らかにされないのだが、それは視界の隅を一瞬走り抜けていくような、異界への
道案内なのかもしれない。古い町には、様々な時代の空気が、層のように積み重なって
存在していて、ふっとそこに入り込むような気がするときがある。現実と夢のあわい
に入り込む酩酊感を味わうのは、物語を読む醍醐味の一つ・・・。
そこに人をきちんと引きずりこめる、力量を感じました。

幻想というのは、醒めない夢のようなもので、そのあわいを見続ける気力がいる。
「果実の中の籠」に出てくる先輩が、嘘を果てしなくつき続けたように。
嘘という繭にくるまるその快感を、私もよく知っている。嘘をつくという言葉を、
物語る、という言葉に代えてもいい。物語の異界を旅した心の揺れは、そのまま
私の中に、音楽の響きのように刻まれる。
どの短編も狂気というものを孕みながら、それを押し付けてこないのが、いいですね。
静かに、ひっそりと棲む、長く人間が積み重ねてきた魔の気配がにじみ出る。
にじみ出るほどに、それがたっぷりとたゆたっているように感じられる、そこがうまいです。
私の作家リストにまた一人、楽しみな作家さんが増えました。
うれしいことです。


おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
「きつねのはなし」森見登美彦
「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」の京の街が舞台の4編。 4編は別々の話ですが、ゆるく繋がっています。 ...続きを見る
宙の本棚
2007/02/05 09:51
「きつねのはなし」森見登美彦
きつねのはなし森見 登美彦 (2006/10/28)新潮社 この商品の詳細を見る 京都を舞台にした、幻想的で耽美、そしてちょっぴり怖い4つの短編集です。 ...続きを見る
しんちゃんの買い物帳
2007/04/12 17:33
きつねのはなし 森見登美彦
きつねのはなし ■やぎっちょ書評 森見登美彦さんの月、ということでこの本。 きっと100年後の人は平成を振り返っていうことでしょう。 「昔(平成)ってさ、こんな物の怪がたくさんいたんだねぇ」 「非科学的だよねー」 「良かった現代に生まれて」 とゆう感じ。 ...続きを見る
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書...
2007/04/20 01:17
「きつねのはなし」森見登美彦
タイトル:きつねのはなし 著者  :森見登美彦 出版社 :新潮社 読書期間:2007/04/30 - 2007/05/06 お勧め度:★★★ ...続きを見る
AOCHAN-Blog
2007/06/13 21:17
『きつねのはなし』/森見登美彦 ○
これは・・・判断が難しいな〜。たぶんね、この物語を最初に読んだら、森見登美彦さんにはハマらなかったような気がします。私的には、愛と笑いとツッコミ処にあふれる、モリミーワールドが好きなので・・・。 良くも悪くも京都な物語、って印象ですねぇ。魑魅魍魎・・・しかもダークなほうで。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2008/05/18 22:16

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさんの幼い頃の思い出が、そのまま「水神」の中庭のようですね。
粘り着くような古都の空気が感じられるお話でした。
この本を読みつつ「家守綺譚」を思い浮かべたので、
梨木さんのお名前に、にやりとしました。
小葉
2007/02/05 09:59
>小葉さん
「家守綺譚」、思い浮かべてしまいますよね〜。そういうところが、なんだか似てますね、お互い。京都に住んだのは少しですが、私にとっては色々と縁の深い町です。今、町中がどんどん変わりつつあるのが、寂しいですね・・。大きなビルは、京都には似合わないですよ( ̄_ ̄i)
ERI
2007/02/06 23:50
ERIさん、こんばんは(^^)。
いいなぁ〜、京都に縁があると、この物語の奥深くにあるものをちゃんと感じられそうですね。
私は、京都にシンクロできなくて、物語の外側をぐるぐる回っていたような気がします。
あの「ケモノ」は、長きにわたる「ヒト」の悪意や場所の怨念を吸って動いているような気がします。
水無月・R
2008/05/18 22:46

コメントする help

ニックネーム
本 文

記事一覧

きつねのはなし 森見登美彦 新潮社 おいしい本箱Diary/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる