綿矢さん、ひさびさの長編です。これが、なかなかの力作。 やっぱり彼女は、力量がありますね。これだけの長編に、一本芯が 通ってる。一人の少女が、何を失っていったのかが、しっかり書かれています。 チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。 〜河出書房新社HPより 題材としては、けっこう普通かもしれない。 普通の、健康で無邪気な女の子だった夕子が、芸能界をいう世界で どんどん生きる生命力のようなものを奪われ、吸い取られていく過程。 これって、ほんとによく見る・・よくあることですよねえ。 芸能界というところ、それもアイドルと呼ばれる少女達が、あっという間に 洗練され、少女から「女」の顔になり、ふっとしたことで、スキャンダルをすっぱ抜かれて 叩かれ、いなくなってしまう・・。まるで若さという犠牲を差し出すように。 芸能界、というところは、常に若さを求めているところで・・。 その残酷さを、私達は何となく感じてはいて、でもそれを、芸能界という ところにいるんだから、仕方ないよね、なんて思ったりして テレビ見てすき放題言ったりする。 「ねえ、この子もすれてきちゃったよねえ」なんて・・。 それが、一人の人間として、一つの人生としてどんな意味を持つことなのか 深く考えてみることも、ない。 「ゆーちゃん」と「夕子」との間にある、たくさんの傷。それが、なんとも痛い。 夕子は幼い頃から働く大人に囲まれて育ってきたから、どんな衣装も自然に 夕子がいろんなことに引っかかり、深く考えようとすることを、周りの大人は、とめる。 そんなこと、考えても仕方ないんだよ、適当にやりなよ・・・。 それは、本当はよく考えなければいけないことなのに。 なのに、これでもか、というくらい喋らせる。 「好きなものは?」「好きな人のタイプは?」「将来、何がやりたい?」 それに答えれば答えるほど、夕子は自分が空っぽになっていくように感じる。 だって、それは自分の言葉では、ないものね。用意された、無難な言葉。 その一つの、「夢を与える人になりたいんです」という言葉の中に含まれるもの・・。 それは、「夢」という名の虚構、幻想なのである。 始めは自分で作り出したことでも、そのうち、それを自分で演じてしまうようになり、 段々それに疲れてしまうやろうなあ・・。 「自分」ではない、幻に生きること・・。残酷やなあ。 どんどん「自分」が一人歩きして、自分ではそれに追いつけなくなる・・。 その中で、夕子はたった一つ手に入れた恋愛を、必死で守ろうとして壊れてしまう。 この物語に書かれている実感は、綿矢さんが自分の身に感じていたことでも あるんじゃないかしら。若くして芥川賞を取った、才能あふれる美少女。 もう、追っかけてください、といわんばかりのシチュエーションだし。 たくさんしんどいことが、あったんやないかしら。 貪欲な大人は、彼女を放ってはおかなかったろうし・・。小説を書くくらい 人の心に敏感で、たくさんのことを考える彼女にとって、そのアプローチは 耐え難いものだったかもしれない。 そしてね、今これだけネットが発達してしまうと・・・。 素人が、自由に何でも言えてしまう時代。もちろん、私などはその恩恵にあずかって いる人間なんですが、誰かを傷つけようとすれば、こんなに簡単な時代は ないものね。何万人もの人がパソコンや携帯の向こうにいて、すぐに ネットで情報が広がっていく時代。その中で、たくさんの人の目にさらされて生きる ことの大変さを、しみじみ感じてしまった。この作品を書かずにいられなかった 綿矢さんの気持ちが、なんだかちょっとわかるような気がするのだ。 誰かに愛されることは、誰かにとことん攻撃され、嫌われてしまうこと。 そして、長く積み上げてきたことでも、たった一つの石の置きそこないで すべてが崩れてしまうこと・・。 それが、こんなに先鋭化している時代もないかもしれない。 小説を書いて、発表する。以前なら、それを批評するのは一部の批評家だけ だったのに、今は、すぐに俎上に乗せられ、いろんな意見に切り刻まれていく。 そのコワさの中で、やはり彼女が書き続けることを選んだこと。 そのことに対する痛みと決意を、私は感じてしまうのだ。 はっきり言って展開は読めてしまうし、結末も想像がつく。 この夕子という少女が、あまりにも幼く、空っぽであるのも気になったりするんだが いま、この物語を書いたことは、綿矢さんにとって必要なことだったのではないかしら。 この救いのない結末・・・。もう泣くこともできない乾いた瞳で、夕子は真実を見据えてしまった。「空を飛び続けることのできる鳥など、いない」 失った、この世界に対する信頼を取り戻すのは、容易ではないと、しみじみ思う。 一つずつ、自分をゆっくり取り戻していくこと。 何でも、いい。ゆっくり散歩するだけでもいい。自分の、自分だけの世界を一つずつ 積み重ねていくこと・・それしかないような気がする。 夕子のように極端な例でなくても、自分に疲れ果てて、苦しくなる子たちは たくさんいると思う。たくさんの、薄暗いことが野放しにされているのに、 小さな、ほんの個人的なことが許されなくなっている、なんだか価値観が おかしくなりつつある、この世界で呼吸をしていくのは、若い魂には なかなかしんどいことだと、思うから。 そんな痛みを、自分に溺れず、プロとして、客観的に書き出そうとした試みとして、 この物語は意味があったと思う。綿矢さん、急がなくていいと思うよ。 ゆっくり、のんびり、自分の世界を旅して、またその目に映ったことを 教えてね・・・。 おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001183 |
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綿矢りさ【夢を与える】
幼いころからモデルとして活躍し、やがて芸能プロダクションに所属して人気タレントの座に登りつめた18歳の「阿部夕子」。親の期待、プロダクションの期待、スタッフの期待、ファンの期待を一身に背負って、ドラマや映画& ...続きを見る |
ぱんどら日記 2007/02/21 15:31 |
「夢を与える」綿矢りさ
レールの上を走らされている…昔に比べ、今の子はそう感じることが多いのじゃないかしら? 親は我が子の幸せを願い、よかれと思ってレールを敷く。その上を無心に走ってゆく子ども。ある日ふと「走らされている」と感じても、そこから降りることは怖くて出来ない。 夕子の.... ...続きを見る |
宙の本棚 2007/02/21 19:21 |
「夢を与える」綿矢りさ
夢を与える綿矢 りさ (2007/02/08)河出書房新社 この商品の詳細を見る 芸能界で生きるゆーちゃんこと夕子が主人公。 夕子の18年間を描いた本です。 ...続きを見る |
しんちゃんの買い物帳 2007/03/10 09:52 |
夢を与える 綿矢りさ
夢を与える ■やぎっちょ書評 綿矢りさ新刊として発売されてからしばらく時間が経っています。本ブロガーさんの記事もちょくちょく見かけていたし、本屋さんでこの表紙がとても目立っていました。 表紙いいですよね。 ...続きを見る |
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書... 2007/03/19 16:58 |
綿矢りさの「夢を与える」を読んだ!
ちょうど1年前の1月の中頃だったでしょうか、第130回の芥川賞と直木賞が決定したのは。芥川賞は、綿矢りさの「蹴りたい背中 」と金原ひとみ「蛇にピアス 」のダブル受賞でした。綿矢は1984年生まれ19歳、金原は1983年生まれ20歳の受賞、ということで、最年少の記録更新な ...続きを見る |
とんとん・にっき 2007/03/23 16:05 |
「夢を与える」綿矢りさ
タイトル:夢を与える 著者 :綿矢りさ 出版社 :河出書房新社 読書期間:2007/05/08 - 2007/05/09 お勧め度:★★★ ...続きを見る |
AOCHAN-Blog 2007/06/25 22:02 |
「夢を与える」
「夢を与える」 綿矢りさ チャイドル(ジュニアアイドル)が生まれてから18歳になるまでの生活を綴った物語。 中身は普通の少女なのに、芸能界で成功して ...続きを見る |
青いblog 2007/09/11 18:14 |
夢を与える<綿矢りさ>−(本:2007年105冊目)−
夢を与える 出版社: 河出書房新社 (2007/2/8) ISBN-10: 4309018041 ...続きを見る |
デコ親父はいつも減量中 2007/09/24 23:35 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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自分で選んだわけではないのに、その世界でしか生きられないということ。 |
小葉 2007/02/21 19:33 |
>小葉さん |
ERI 2007/02/22 00:04 |
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