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zoom RSS 言葉のなかに風景が立ち上がる 川本三郎 新潮社

<<   作成日時 : 2007/02/25 22:29   >>

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画像川本さんの文学論は、けっこう昔から好きで、目に付いたら読みます。
文学論って、理屈だけでも、感覚だけでも面白くない。
その折り合い方が、自分の感じと重なることが多いんですよね・・。
あ、私のはただの感想です・・言うまでもないですが。

この本の中で語っておられるのは、風景から見た文学。
川本さんが惹かれるのは、現実と非現実の境目にあるような光景
らしい。

人間の住まう現実を近景、神のいる場所を遠景とすれば、そこは中景と
いえるだろうか。現実の暮しをしている人間、日常の営みをしている人間が、
一日の中で、ふと空を見上げる時に感じるような透き通った気持が中景という
境界線上の風景を引き寄せる。
 いわば、日常生活のなかから一瞬、こぼれ落ちた時に、目の前に現れる風景。
それにこそ惹きつけられる。


風景というものに心惹かれるとき。それは、川本さんもおっしゃるように、
この現実から、ちょっと心が離れるときなんだろう。
旅先で見る風景が、やたらに心に沁みるのも、「旅」という非日常にいる
から。そして、心に何か思いを抱えているとき、やたらに視界に映る風景に
心が持っていかれるのも。好きな人が出来たとき、妙に空を見上げたりするのも。
心の中にあって、形にならず定まらないものを風景に写してみる・・・。
自分の心の中にある、裂け目のようなものからあふれてくるものを、
目の前の風景に溶け込ませる。その距離感が、心を寄せる、ということなのかも。

各章の構成は、次の通り。

風景の発見と創造
干潟のある地峡の町―野呂邦暢『鳥たちの河口』
マンションとショッピング・モールの郊外―角田光代『空中庭園』
物哀しさの詩情―井川博年『そして、船は行く』
わが街、ニュータウン―重松清『定年ゴジラ』
山あいの「美しい町」と実直な人々―堀江敏幸『雪沼とその周辺』
古い町はさびれ、新しい町はまだ育っていない―佐藤泰志『海炭市叙景』
別荘という夢の場所―水村美苗『本格小説』
郊外団地という仮の住まい―後藤明生『四十歳のオブローモフ』『挟み撃ち』
母と子の住む海辺の地方都市―長嶋有『猛スピードで母は』〔ほか〕



この評論で、川本さんはそれぞれの作品の中の風景について考察していく。
読んでいる作品ばかりではないのだが、私は角田さんの「空中庭園」と
堀江さんの「雪沼の周辺」の章が面白かった。角田さんの風景は、背景のない
書割のような郊外が、ぐずぐずと崩れていく様子。対照的に堀江さんの
風景は、「暮らし」が溶け込んだ、生き物のような共同体。
ベクトルは反対でも、風景、その土地、というものと人間との関わりが
強く印象付けられる作品。その関係を、川本さんはわかりやすく解きほぐしていく。
この「わかりやすい」ということは、評論においては、なかなか得がたいもので・・。
本当に頭のいい人は、わかり易い文章を書く。
難しいこと、言葉にしにくいことを、きちんと、誰が読んでもわかる文章に
するということができる人は少ないと思う。そういう意味で故堀田善衛氏が、
個人的には理想の方であったが、この川本さんも、その一員だと思うんですよ。
読んだあと、自分がちょっと賢くなれたような気がする(爆)

文学というものに心を惹かれる心の動きは、風景に対するそれと似ている。
その作品に、心を映してみること。
なにやら、心にあって、うごめいているものを、その中に発見すること。
風景と、文学と。その二重写しの関係を、味わってみてください。

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