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zoom RSS 獣の奏者 闘蛇編 T 上橋菜穂子 講談社

<<   作成日時 : 2007/02/07 20:18   >>

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画像上橋先生、面白すぎます、これ!!
と、読み終わった途端に続きが読みたくなり、じたばたしてしまいました。
冒頭、暗い水の底から、滑らかに水をまとって浮かび上がる
巨大で神性を持つ闘蛇の姿に魅了されるエリンに、一瞬にして同化してしまった。
主人公に、思い切り感情移入して、物語の中にひきずりこまれること。
これは、素晴らしいファンタジーの第一条件です。もう、掴みから、上橋さんの
語り部としてのうまさが際立っていて、鳥肌が立ちました。

主人公は10歳の少女・エリン。母は、腕の良い「獣ノ医術師」である。
巨大な戦闘用の闘蛇のうち、「牙」という最も巨大な闘蛇の飼育を任されて
いる。闘蛇は、大公領のもっとも強い武器であり、飼育に携わるものは
「闘蛇衆」として尊重されるのだ。エリンの母は、「霧の民」(アーリョ)という
人から敬遠される一族で、しかも女性であるにも関わらず、その任につく
人だった。しかし、ある日、その闘蛇が、何頭も一度に死んでしまう。
エリンの母は、その責任を問われて、野生の闘蛇に食い殺させるという
残酷なやり方で処刑されてしまう。たった一人、その母を助けようとした
エリンだが、その願いもむなしく一人神王国にたどり着き、そこで鉢飼いのジョウンと
いう男に拾われ、暮らすそうになる。その中で、神の獣と言われる王獣と出会い
その美しさに魅了され、自分の王獣の医術師になりたいと願うようになる・・・。


この物語の中に流れているのは、「生」もしくは「命」への畏怖である。
畏怖・・敬意と言ってもいいかもしれない。この世界に満ちている命が、どこから
やってきて、どこに行こうとしているのか。美しい真理(ことわり)に満ちた生き物
の世界の中で、なぜ人間だけが自分の意思と言葉、はてしなく広がっていく欲望
と悲しみを持つのか。・・・いや、それは人間だけであるのか。この世に生きている全て
の命の流転は、何に繋がっているのか・・・。そんな大きすぎる問いを胸に自分の人生を
生きようとする少女が、エリンだ。

彼女は、霧の民・アーリョと大公領民との混血である。アーリョは、どうやら流離の民であり
まだ詳しくは述べられていないが、地に生きる民からは忌み嫌われているらしい。
アーリョであるというだけで、エリンは母と自分が、生まれ育った村でも疎外された存在
だと感じて育ってきた。そして、あげくに母を殺されてしまう。自分と血の繋がった祖父たち
も、たった一人母を助けようとしたエリンを、冷ややかな目で見殺しにしたのである。
なぜ、アーリョだということが、そんなに嫌われることになるのか?母は、なぜ見殺しにされたのか?その自分の存在の不確かさを肌で知っている彼女は、「生」に対して敏感になる。
なぜ自分は生まれてきたのか、という問い。そして、母について幼い頃から人に恐れられる
闘蛇を観察しつづけてきた彼女は、肌でその命に対する畏怖を知っている。

闘蛇は恐ろしい生き物なのよ。おまえが近づけば、その気配を感じて鎌首をもたげ、
ひと口で、おまえの頭から腹まで噛み裂いて、飲み込んでしまうわ。
・・・中略・・・闘蛇はけっして人に馴れない・・・馴らしてはいけない動物なのよ。


そして、ある日であったもう一つの聖なる獣・王獣も、またエリンに命の不思議を
吹き込む。水の生き物であり、戦闘に使われる闘蛇とは対照的に、王獣は
翼のある、神王国のシンボルとしてひたすら敬われる生き物。
しかし、やはり闘蛇のように、囚われて人という存在に利用されているという点では
同じなのである。野生の、誇り高い王獣に魅せられたエリンは、その王獣を世話する
医術師になりたい、と思う。


ジョウンという、教養のある男に拾われ、山奥で心安らかに過ごした数年間はエリンに
とって心休まる日々だったが、エリンの聡明さと、自分の生い立ちからくる使命感は
彼女を、困難な道へと押し出していく。静かで、常に「なぜ?」と考え、自分の感覚を
いつも全て傾けてものごとを捉えようとするエリンは、これからきっと自分の抱く永遠の
謎を追いかけて、険しい道を歩いていくことになるのだろう。そして、私達はそのエリンと
共に一歩一歩歩きながら、その尽きせぬ命に対する問いを、共に考えていくことに
なるのだろう・・。これは、本当に難しい問いだと思う。

―この世に生きるものが、なぜ、このように在るのかを、知りたいのです。


この果てしない問いを、こうやってドキドキさせる大きな架空の王国で
繰り広げて描き出す・・それは、言うまでもなくファンタジーの王道です。
それは、人が人として在る限り追わざるを得ない、もしかしたら答えのない問い。
でも、それを問い続けることに、文学の、そして物語の真実はあると思う。
エリンと共に生きる物語を、手にする喜び・・・。それを味わうことができることが
喜びやなあ、と思いますよ。これは、大人も子どもも夢中になること、間違いなし。
ぜひぜひ読んでいただきたい、ファンタジーです。

これは余談なんですが、孤独で、なかなか人に心を開けないエリンが、
獣医師をめざす学舎で出合った心優しいおおらかな少女、ユーヤン。
アーリョの血をひくエリンをそのまま受け入れ、何の偏見も
もたない彼女。初めてエリンが心許す友達が話す言葉が、大阪弁に近いのである。
それが、なんだか大阪者の私には妙に嬉しく、一気にこの少女が好きになってしまった。
ドキドキの2巻を、早く読みたいものです。

http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001180





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