おいしい本箱Diary

アクセスカウンタ

zoom RSS フィッシュストーリー 伊坂幸太郎 新潮社

<<   作成日時 : 2007/03/04 01:50   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 5 / コメント 3

画像短編というより、中篇か。
「動物園のエンジン」 「サクリファイス」「フィッシュストーリー」 「ポテチ」 の
4編所収。物語同士の関連性はあまり、ない。したがって「死神の精度」「チルドレン」の
ように伊坂ワールドを楽しむ、というところまでいかない。しかし、それぞれに
いつものように凝ったつくりで、楽しめる一冊になっております。

「動物園のエンジン」
地下鉄に乗っている少しの間に頭によぎった、昔の思い出。
さりげなく書かれているようで、凝った構成になってます。
次々に、断片と、その思い出した人の昔と今が浮かんでは消える
「記憶」をなぞるように書かれているんですよね。河原崎さんという先輩、
恩田という友達、それぞれ今はもう身近にいない人たち。
その彼らと、動物園の夜というちょっと日常からはみ出したシチュエーションが
形作る、そんなに心に食い入るほどでもないけれども、忘れられない記憶の
感触が、面白い。それぞれ心に抱えている屈折と、檻から抜け出す
シンリンオオカミのひたひたという足音が重なりあう。

主人公の男も、妻や子どもがいる今では、夜の動物園に忍び込むことも、
もうないだろう。そこにいるだけで、動物達に安らぎを与える永沢という男は、
ずっと彼のファンタジーとして心に残っていく。
そのファンタジーを覚えているかぎり、彼は心に違う世界の扉を持ち続ける。
・・・「エンジン」という言葉に誘われて何度も蘇る記憶の扉。
だれにでもある、そんな扉の感触を、さらっと書いて面白いと思う。


「サクリファイス」
久々に、黒澤登場。伊坂作品のかっこいいキャラ、黒澤。
今回もかっこいいんですが、その彼を取り巻く周りの状況が
どことなくショボいのに、笑えてしまう。人探しに行った山の奥の
集落でであった「こもり様」という風習の謎に関わってしまう黒澤。
「トリック」みたいな感じ。ちょっと胡散臭い匂いがする(爆)
92歳のばあちゃんに「泥棒」と連呼されながら、ちょっとギクっとする
ところが、おかしい。

こんな山奥の、小さな集落にも、それぞれの歴史と人間関係と、社会があって
それを、友情と引き換えにしても守ろうとする男達がいる。
社会に絶対に属さない黒澤と、頑なに小さな社会を守ろうとする二人の対比が
面白い。黒澤と彼らの対決は・・・一見黒澤の勝ちに見えるけど、これはやっぱり
負けなんでしょうね(爆)


「フイッシュストーリー」
表題作。これが、個人的に一番のお気に入り。
売れないバンドが録音した、曲の間に沈黙が入っているレコード。
その忘れられそうなレコードが、回りまわって、たくさんの人の命を
助けることに。この伏線の張り方が、伊坂節。

「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ
逃げ出すに違いない」

この「僕の○○が魚だったとしたら〜」という繰り返しがちょっと切なく、
それぞれのエピソードに詰め込まれている、ユーモアと温かみとペーソスの
配合が、なんだかとても心地いい。心地いい小説を書くのは、
居心地の悪い小説を書くより、難しそうだなあ・・。
飛行機の中の「正義の味方」に、うっとり。
「正義の味方」っていうものに、ちょっとうんざりすることが多いのだけれど
こんな正義の味方なら、いてもいいよなあ・・って思わせるところが、うまい。
その正義の小ささが、いいんですよね。
大きな正義は、違うものも呼び寄せてしまう。
ささやかな、ちょっとだけの、半径1.5m・・いや2mくらいの正義。
それなら、迷いなく、正義と呼べそう。
この世界、いろんな偶然のパズルが組み合わさってできている。
その偶然を、当たり前と思ってくらしているんだけど。
チェスの駒が動くのを俯瞰するような快感は、それが当たり前じゃないんだよ、
ってことを教えてくれる・・。楽しい小説でした。


「ポテチ」
またまた黒澤登場。この物語では、脇役です。
主人公は、やはり黒澤と同じく泥棒なんだけど、なんだか間抜けで、
妙にお人よし。泥棒中にかかってきた電話に出て、「自殺する」という
受話器の向こうの女を助けにいったり(爆)
この今村の、一見やる気のなさそうなある日のお仕事の裏にある気持ちが
ちょっとずつ見えてくる感じが、いいなあ。
自分って、大したことないヤツだなあって、投げやりになるわけでもなく
思ってる、そのありのままの感じ。
でも、母親に対して、こんな自分でごめん、て思っているところとか。


子どもって、お母さんに「よくやったね」と言われたいんだよなあ。
「お前が、私の子どもでよかったよ」って、言ってほしい。

・・・今日、ある男の子が、なくなったお母さんに呼びかける言葉を聴いた。
『・・・あの時、お母さんが、「よくやったね」って泣いて喜んでくれて、本当に
嬉しかった・・』と。その気持ちは、幾つになっても変わらないのかもしれないな。
そんなことを、この物語を読んで思ってしまった。
母と息子の、言葉に出さない気持ち。それが、ほのぼの暖かかった・・。


おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php







テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
フィッシュストーリー 伊坂幸太郎
装画は三谷龍二。装幀は新潮社装幀室。 過去の伊坂作品に登場した脇役たちが主人公に。デビュー第1短編から最新書き下ろし(150枚!)まで加筆修正の中短編集。表紙を開くと、作品タイトルについて「陽気なギャング」でおなじみの“ ...続きを見る
粋な提案
2007/03/04 05:40
『フッシュストーリー』 伊坂幸太郎
フィッシュストーリー新潮社価格: ¥ 1,470発売日: 2007/01/30 ...続きを見る
ついてる日記U
2007/04/08 20:08
フィッシュストーリー / 伊坂幸太郎
伊坂さんの13作目にあたる作品です。タイトルのフィッシュ・ストーリーはホラ話や大げさな話、作り話という意味を持つ単語。まさにこの本にぴったりのタイトルだった気がします。短編が4つで、それぞれは別のストーリーになっています。ですから、長編のような伊坂ワールドを堪 ...続きを見る
活字中毒
2007/04/23 12:19
「フィッシュストーリー」伊坂幸太郎
タイトル:フィッシュストーリー 著者  :伊坂幸太郎 出版社 :新潮社 読書期間:2007/05/11 - 2007/05/14 お勧め度:★★★★ ...続きを見る
AOCHAN-Blog
2007/07/02 21:56
フィッシュストーリー<伊坂幸太郎>-本:2010-42-
フィッシュストーリークチコミを見る ...続きを見る
デコ親父はいつも減量中
2010/10/02 00:41

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
派手さはないけれど、じっくり読めるドラマに独特の味わいがありましたね。「フィッシュストーリー」、スケールの大きなつながりが心地良かったです。“半径2mくらいの正義”いいですね〜。具現者(?)瀬川さん、頼もしかったです。「ポテチ」、今村の思いと気持ちいいラストが好きです。
藍色
2007/03/04 05:39
>藍色さん
「ポテチ」のラスト、良かったですよね・・。
今村のお母さん、いいキャラだけに、今村の思いが、しみじみ伝わります。
お母さん、実はうすうす知ってたりして・・なんて思ったり。
母親ですもん。でも、きっと彼女なら、そんなこともさらっと受け止めてしまいそう。。と思いません?
ERI
2007/03/04 21:45
ERIさん☆こんばんは
人を食ったような会話が相変わらずで、クスクス笑いながら読み続けてました。
4つの物語のどれもが愛に満ちていて、気持ちいい本だったなぁって思います。
Roko
2007/04/08 20:28

コメントする help

ニックネーム
本 文

記事一覧

フィッシュストーリー 伊坂幸太郎 新潮社 おいしい本箱Diary/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる