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help リーダーに追加 RSS 大きな熊が来る前に、おやすみ 島本理生 新潮社

<<   作成日時 : 2007/05/11 01:31   >>

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画像島本さんが、一つ階段を登りはったな、と思う中篇三つ。
私としては、これが芥川賞でも良かったと思う出来でした。
おっかしいな、何でこれやなかったんやろう、と思いましたね。
男と女がいて、なぜか恋愛をしたりする。
その、不思議さと、不気味さについて。
手がかりのない壁のように立ちはだかる、「分かり合う」という願い・・。
その壁の向こうから、おずおずと伸ばした指の、冷たい感触を感じるような。
同じ体温を持っているのに、全く違う「種」として在る、ということ。
そのことに対する、女が抱く、小さなタメイキのような絶望感を、繊細に
書き上げています。
日ごろ見ないようにしている、パンドラの箱を開けられてしまったような。
一作ごとに、真摯さが増す感触に、ちょっと興奮しました。

「大きな熊が来る前に、おやすみ」

父親に虐待されて育った少女。その暴力に、おびえて育ったのに、やはり
その父親の気配を持つ男性に惹かれてしまう。
「私、徹平のことは好きだけど、そんなエネルギーのある愛情じゃやなくて、
自分から真っ暗な深い穴に潜っていくような気持ちで毎日を過ごしているんです」
「私が徹平のそばにいたのは、あなただったら、きっと私を殺してくれると思ったから」
自分の心の洞に落ちていくようにしか、男を愛せない女。
その危うさにチラチラと反射するように書かれている、男の傷。
女は傷を抱え込んで自分を傷つけ、男は、相手を傷つけて、より一層自分を痛めつける。
そのベクトルがかみ合ってしまうところに、愛情が生まれるのか・・。
最後にほのみえる希望を、この二人は持っていることができるのか。
それでも、二人で生きていこうとすることが、救いなのかどうなのかはわからない。
愛情だけではないところで結びついているこのあり方が、やはりどの男と女にも
あることにも、うっすらと気づかされてしまう、そのうっすら加減が、骨身にこたえた。


「クロコダイルの午睡」

家庭的に恵まれない自分と、反対側にいる男。
自分の優位を、謙遜しようとも、隠そうともしないで、痛いところを平気で突いてくる
男。いやだ、と思いながらも、味覚という共通点を足がかりに、その男に惹かれて
しまう・・。しかし、その無神経さに、とことん傷ついて、そばアレルギーである
男に、そば茶を飲ませてしまうのだ。このそばアレルギーというのは強烈で、ほんとに死んでしまうこともある、危険な体質なんですよね・・。
「言葉」というものは、簡単に人を傷つける刃になる。
その力を自覚して使う人も困るんだけれど、無意識にふるう人を目の前にすると
その無意識に傷つく、その自分に傷ついてしまうのだ。自分の感情が、その無意識の
跳ね返されて、またしても自分に刺さるように。
その積み重ねが、リアル。ユニットバスが小道具なのには、感心しました。
うまいな〜。


「猫と君のとなり」

この物語は書き下ろしで、唯一のハッピーエンド。
昔同棲していた男性に、手ひどく傷つけられてしまった女が、
昔告白してくれた後輩に再会して、ゆっくり心を開いていく物語。
その、女側の、ためらい方、凍った気持ちがじわりと溶けていく感じが
猫を小道具に、おずおずと描かれる。
何しろ、前二つが負の緊張感に満ちているものだから、この物語も
こちらとしては、非常に臆病に読むわけで・・。
その、抱かれながら感じすぎまいとするような用心深さがこちらにも
余計に伝わってくるんですよね。
その緊張が、最後にふっと溶けて、なんだかほっとする。
いや・・これも計算なんかなあ。すっかり、そこにはまってしまいました。


恋愛をする、誰か人を好きになる。
一緒にくらす、人生をわけあう。
それは、絶対に傷つけあうことを伴うのだ。

男と女は、違う生き物だから。だから惹かれあうし、壊しあうし、愛し合うし。
どこまでも傷つけあってしまう。
この三つの物語を繋ぐものは、暴力という糸。
暴力を振るわれる、ということは、どうしようもない恐怖だ。
しかし反面、振るうほうも、実はおびえているのだと・・・。思う。
ゴヤの、「我が子を食らうサトゥルヌス」が、自分におびえているように。
その恐ろしさを、落ち着いた文章と美意識で描きながら、そこからまた歩き出す
微かな光を纏わせる。やはり、歩いていくしかないんだと・・・。
次の作品が、非常に楽しみです。酒井駒子さんの装丁も、印象的で素敵でした。

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「大きな熊が来る前に、おやすみ。」島本理生
大きな熊が来る前に、おやすみ。島本 理生 (2007/03)新潮社 この商品の詳細を見る 「大きな熊が来る前に、おやすみ。」 普段は優しい撤平から、一度だけ暴力を受けた珠実は、どこか遠慮な態度で接している。 珠実は幼い& ...続きを見る
しんちゃんの買い物帳
2007/05/19 17:25
大きな熊が来る前に、おやすみ。 島本理生
装画は酒井駒子。装幀は新潮社装幀室。 「新潮」2006年1月号(推敲)、9月号掲載に書き下ろし1編を併録した短編集。 ・大きな熊が来る前に、おやすみ。―同棲して半年の私・珠実と徹平。完全に均等に、途方に暮れていた ...続きを見る
粋な提案
2007/07/16 14:57

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
男女の仲って、大なり小なり諍いはあると思うのですが…
>男と女は、違う生き物だから。だから惹かれあうし、壊しあうし、愛し合うし。どこまでも傷つけあってしまう。
わかっていてもこのお話は、傷つけられた記憶を持つ女性たちが痛々しかったです。なので
>島本さんが、一つ階段を登りはったな
までは、思い至りませんでした。
こんな風で、寄らせていただいて今回も発見と驚きのレビューでした。
7月のカレンダー、土日しかアップされてなくてお忙しそうなのでこちらから二つは酷かも。なので、うかがうとコメント書きたくなるんですが、ご負担にならないように、もうひとつ(今回は「まんまこと」)はトラバのみにします。ERIさんからこちらに書き込まれたコメントに答える形でいかがでしょう?。
ここへのコメントがご負担になるようでしたら次回から、すべてトラバのみにしましょうか?(でもこちらへのコメントはほしいんですけど…ワガママな私です、汗)。
藍色
2007/07/16 14:56
>藍色さん
恋愛って、綺麗ごとじゃない。それを描きながら、やはりその奥底にある光を描いてみせるあたり、ただものじゃないですね、島本さん。
才能をしっかり磨きつつある頼もしさがあります。

いつもお気遣いありがとう。コメント、うれしいですよ。
両方にコメントしたり、そちらにだけになったりするかも知れませんが、コメントいただくのは、いつも有難く思ってます。
何だかね、言葉を紡ぐことが時々ふっとできなくなる時があります。
あれ?私、どうやって書いてたかしら、なんて。大したこと書いてないのに考え込んだりしちゃって。でも、ぼちぼち自分のペースでやっていくんで、気にせずTB,コメント、お願いしますね(⌒0⌒)/
ERI
2007/07/16 20:41

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