おいしい本箱Diary

アクセスカウンタ

zoom RSS ダーティ・ワーク 絲山秋子 集英社

<<   作成日時 : 2007/06/01 23:07   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 2

画像これが非常に凝った短編集であることに、しばらくは気づかないまま読んでいた。積み上げた短編のそこかしこに、見え隠れする、それぞれの登場人物たち。それがモザイクのように、一つの世界を作る面白さ・・。いつもの、会話のキレと緻密な構成が組み合わさって、独特の世界を作り上げている。

人は、自分の姿を見ることができない。どんなに頑張っても、自分の顔を直接見ることができない。自分という人間を、あちこちに写してあれこれと想像するだけ。自分が思う自分と、人から見た自分・・・。自分の声を録音してみたこと、ありませんか。びっくりしますね、あれは。何やねん、これは誰の声やねん!!て思います。自分で聞いてる声というのは、自分の体に共鳴しているので、ずいぶん低く聞こえるらしい。それから、自分の写真。最近、あれほど怖いもんは、ありません。薄暗い洗面所で化粧しているときは、「けっこうイケるやん」と思ってるのにあのレンズという容赦ないものにさらされた自分といったら・・(汗)ほんとセルフイメージって、あてにならない。
どう転んだって同じ自分であるけれど、それを客観的に俯瞰してみたいと思わない人間はいないんじゃないかな、と思います。その一つの試みのようなこの構成に惹かれました。どこで、誰がリンクしていくのかは、読んでいただくとして。



この物語の芯をつなぐ冒頭の「worried about you」に出てくる熊井という女性がやはり面白いですね。ギター弾き。この本のタイトル「ダーティ・ワーク」は、ローリングストーンズ(ああ、世代だわ・・)のアルバムのタイトル。熊井も、ストーンズのコピーからギターにはまり込んでいったらしい。そして、ギター以外は、何にも興味がなくて、ずっとそれだけの人生・・。(いや、音楽をする人って、こう言いますね。本当に)彼女自身は、そのことを、素晴らしいこととも、なんとも思ってない。自分に美点があるとも思っていない。さして女らしくもない。男運も良くない。ギターを弾くこと以外、本当に何もできなかったから・・という恬淡な気持ちで全てを流している。でも、たった一人、TTという一番初めにバンドを組んだ男だけが忘れられない。恋人でもなかったのに。

この、自分では、「死ぬ理由もなければ、生きていく理由もない」と思っている人が友人の目からみると、いつも暖かい、しんどい時に会いたくなる友人だったりする。また、その存在に惹かれて、写真を撮ってみたい人だったり。そして、やはりTTこと、遠井という男にとっても、忘れられない女だったり。あちこちでパズルのように、それぞれの人生と組み合わさっている熊井。一人の人間の持っている奥行きを、こういう形で表現する、そこが面白い。少しずつ登場人物がリンクしていく短編集、というのは伊坂幸太郎さんがよく使う手ですが、彼のプロットは、いい意味で、作為的。仕掛け、といったほうがいい楽しさ。そして、この絲山さんのプロットは、作為を感じさせないところが、面白い。ふと通りすがった人を、別の場所でみかけて驚くような、そんな雰囲気。その通り過ぎる背中に匂う人生を心に留めるような・・・。たくさんの人生が組み合わさって流れる、「今」という大きな川。それを橋の上から眺めるような、日常からちょっと浮き上がった視点。この、ちょっと具合が、絲山さんのユーモアであり、持ち味だなあ、と思う。

森の中で、命に抱かれて、また自分の人生に帰っていく、熊井。新しい命を自分の中に抱いて。このラストの「beast of burden」の瑞々しい美しさに音楽が聞こえるような気がした・・。たった一つの命のbeatを鳴らして歩くこと。
巡り巡ってそのシンプルさにたどり着くこの物語は、絲山さんの新境地ですね。この淡々として、世の中に揉まれ揉まれていきつつ、それでも一抹大人にならない感じがねえ・・ほんと、同世代なんですわ。肌合いがね、やっぱり同じです。人に見せない、心に自分だけのbeat。絲山さん・・かっこいいですわ。


おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
ダーティ・ワーク 絲山秋子
装画は長崎訓子。装丁は木村裕治・後藤洋介(木村デザイン事務所)。 「小説すばる」2005年10月号〜翌年10月号隔月掲載の短編集。ネタバレあり。 worried about you:ギタリストの熊井望は自分をもてあます。想い ...続きを見る
粋な提案
2007/07/19 12:11
ダーティ・ワーク 絲山秋子
ダーティ・ワーク ■やぎっちょ読書感想文 ...続きを見る
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書...
2008/05/21 00:33
『ダーティ・ワーク』絲山秋子 を読んで
ダーティ・ワーク (集英社)絲山秋子 内容紹介 今日もどこかで、あの人はきっと生きている 熊井はいつもギターを弾いている。もう何年も会っていないTTのことを考えながら……。 様々に繋がる人間関係、それぞれが誰かへの思いを抱えながら、地を這うように生きていく、希望と.. ...続きを見る
そういうのがいいな、わたしは。(読書日記...
2008/05/24 08:06

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
自分の声、自分の写真…ホラーみたいな気持ち、思いだしました。誰と誰がどんな関係にあるのか、完全に把握できてませんが、繋がりが微妙で面白かったです。ローリングストーンズ…“心に自分だけのbeat”に繋がるのですね。さすがです。
こちらと「きみはポラリス」にトラバしました。「家日和」反映されてなかったので、再トラバしていただいていいでしょうか…?。
藍色
2007/07/19 12:11
>藍色さん
再トラバ、してきましたm(_ _)m
微妙に重なる縁がぐるっと巡るようで、妙にリアリティがあります。
そのあたりの匙加減が絶妙ですね。
ERI
2007/07/21 01:12

コメントする help

ニックネーム
本 文

記事一覧

ダーティ・ワーク 絲山秋子 集英社 おいしい本箱Diary/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる