おいしい本箱Diary

アクセスカウンタ

zoom RSS 臍の緒は妙薬 河野多恵子 新潮社

<<   作成日時 : 2007/06/16 01:37   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像久々の河野多恵子さんの短編集。

河野さんは大学の先輩です。非常に大先輩なんですが、いつまでも
「人間」に対する好奇心と驚きを持っておられるところが素晴らしい。
「物分りのいい人」とか、「悟ったような人」には、ならないんである。
河野さんは、いつまでも、ちょっと不気味な河野さんで、そこが嬉しい。

月光の曲

これは、戦争前、日本が身動きとれなくなる前の風景。
泣いたり笑ったり、修学旅行へ行ったり、お昼にかかる「月光」の
調子はずれのレコードに笑ったり。生活のあれこれが、そのままある。
覚書のようなこの文章に、過ぎた日々があるんですが・・。
人の変わらなさというものに、心打たれます。
ラストシーンで、子供の早生まれ、遅生まれについてのお母さんの愚痴めいた
ことが書いてあるんですが、ああ、こんな会話、今でも変わらずするよな、と。
そんな毎日をあれこれ送っていた人たちが、これから怒涛の日々に巻き込まれて
いくんやな、と思う。同世代の方たちには心に食い込む文章なんだろうと思いますね。

星辰

よく当たる、という評判の占い師に、なんと、自分のなくなった連れ合いの運勢を
亡くなったことを伏せて見てもらおうと思いついた女の話。
長年連れ添った夫の話を、誰かとしたい。
しかし、人生を忙しく送っている子どもたちとはテンポがあわないし、
それを気軽に話せる人もいない・・。
そこから思いついたことなのだが、その奇妙な思いつきは、彼女の心を
震わせる。この不思議にウキウキする感じが、よく伝わってくるんですよね。
よく当たるというう占い師を試してみようという、ちょっと意地悪な気持ちもあり。
夫と自分との歳月を、かみ締めてみたいという気持ちもあり。
ペロっと舌を出す気持ちと、真剣に向き合う気持ちと、両方がないまぜになる
気持ちの奇妙さ。・・・それに対する占い師の言葉がねえ。
効いてます。この最後で落とすうまさは、さすがです。ピリっときますね。




短編三つ目で、段々不気味になってくる。
コーンスターチを女が買うんですが。
それで何をするかと言うと・・。
産まなかった自分と夫の子の顔を作ってみるんですね、夫の留守の間に。
コーンスターチって、とろみをつけるのに使う、あれですよね。
あんなんで、そんな胸像が作れるのかしらん・・。
いつの間にかどこかにいってしまう、「失くし物」というヤツ。
うちでは「四次元ポケットに紛れ込む」と称しておりますが・・。
今まであったものが、なぜか無い。
いくら探しても、無い。
これは私も非常に得意なんで、あるある、と頷くんですが・・。
その失くし物が、真っ白なコーンスターチで作る子どもの像と関連すると
背筋がゾクっとしますね。文字で表されないものの気配が、ふっと匂う。
まるで、夫に見せまいと隠した子どもの頭が、その存在を主張するみたい
じゃありませんか。

子どもの顔を作っているときに、その頬を夫が叩くところを想像して
「このくらいの頬のほうが夫の掌の音は際立つのではないだろうか」
と淡々と述べているところが、また恐ろしい(爆)
ふっと心にそんな影が射すこともありな人間の奇妙さが、描かれています。
「みいら採り猟奇譚 」などをここでちょっと思い出してほくそえんでしまう。
夫婦の隠れた嗜好が、ちょっと匂う、匂うか匂わないかの気配で。
子どもの耳の孔を作る女は、「幼児狩り」の暗い孔を覗く女と重ならないか。
いろいろ深読みしてしまう、一篇。


臍の緒は妙薬

自分の臍の緒が、大病の特効薬になるという話が頭から抜けなくなって
しまった女の話。保管されていた兄弟の臍の緒が、なぜか自分のだけ
開封の痕があった、というのが発端。肺炎で二度死に掛けた、その時に
母が自分に飲ませたのではないかと思う・・。

臍の緒。確かに自分のも息子達のも置いてあります。
昔、自分の臍の緒というものが、どんなものだか、桐の箱の中を
覗いてみたことがある。クチャっとしてて、ガーゼに張り付いた大きな
耳垢みたいで、あんまりいいものとは思えなかった・・。
こんなもので母と繋がっていたのかと、不思議な感じもありましたが・・。
今は臍帯血などが利用されることもあるということで、臍の緒というものが
どういう形で渡されるのか知りませんが。誰でも持ってる割には日ごろ
思い出すこともないモノですねえ・・。
河野さんは、臍の緒のことをけっこう調べておられるようですが、
そんなものが気になって、あれこれ調べる河野さんが、ほんまに面白いと
思いますわ。どう考えても、あれが大病の特効薬になるとは思いがたい。
でも、もし、そうなら・・と、兄弟が癌になった時などに、ぐるぐると考えてしまう。
その喉に小骨がひっかかって取れないような気分は、よくわかる。
こういう思いは、理屈では割り切れないもの。
その思い切れなさに、人としての人生や、重みがありますね。
その重みが、臍の緒、というもので書かれると、なんだか妙なおかしみを誘う。
普通、臍の緒を貸金庫には入れないよなあ。
「段々怖い女になりつつある」自分を嗤う視点がある限り、人はユーモアを
失わない。私は、河野さんのお年になったときに、それが出来てるかな。
やはり、なかなか偉大な先輩です。


おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文

記事一覧

臍の緒は妙薬 河野多恵子 新潮社 おいしい本箱Diary/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる