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zoom RSS テロル ヤスミナ・カドラ 藤本優子訳 早川書房

<<   作成日時 : 2007/08/30 02:26   >>

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画像自分の人生がひっくり返る。それまで信じていたものを
根こそぎ奪い取られる・・それも、一番愛しているものの手で。
非常に残酷な一撃から始まるこの物語は、自爆テロというショッキングな
テーマを扱いながら、同時に繊細な心の襞を追う愛の物語にも成りえていて
読み応えがありました。

イスラエルの都市・テルアビブの瀟洒な高級住宅街に住む医師・アーミン。
彼は、最愛の妻・ヘシムと、穏やかな幸せな日々を送っていた。
ところが、ある日、19人もの命を奪う自爆テロが起こり、どうやらその
犯人が妻であると知らされる。全く思想的な活動をしていたと思わずにいた
妻。彼女は妊婦を装い、腹部に大量の爆弾を抱えて、子どもを含む19人を
巻き添えにして死んだのだ。その事実を受け入れることができずに
苦しむアーミン。自分がこの手で幸せにしたと思っていた妻のことが一切
わからなくなる恐怖・・。アーミンは、自分の手で、妻が何を考えていたのか
突き止めようと無残な旅に出る・・。

アーミンは、イスラエルに住むアラブ系。つまり、非常に難しい立場にある。
アラブ系の人間から見れば、違う民族の中で暮らしている、裏切り者。
ユダヤ系の人間から見れば、何をするかわかったもんじゃない、胡散臭いヤツ。
一歩間違えるとこういうレッテルを貼られてしまう恐れがある彼は、細心の注意を
払って、自分の人生を築き上げてきた。そして、美しい妻は、自分の人生の成功の
象徴なのだ。自分の手で守り、いい暮らしをさせ、人生を楽しむ。
それで、妻もすっかり満足していると思う男の心理。
ああ、男の人って、基本世界中かわらないのね、と思う・・・。
ここまでなら、日本でも、よくある話である。仕事で成功し、裕福な生活を
妻にさせている、ということがこの上なく男の自尊心を満足させる。
自分が満足なのだから、相手も満足なはず、と思ってしまうことって・・男女の
間では、多いかも。この、夫婦の間の心のすれ違いの書き様が、なんともうまい。
アーミンの描きだすヘシル・・妻は、いつも切ないほど美しい。
生身の女ではないみたいに。本当にこう思われていたのなら、やはりヘシルは
辛かったのかもしれない・・。ただ、そこから自爆テロへと進む道は、やはり
アーミンが抱く疎外感と同じ、まるで手がかりのない壁に向かうようだ・・。
私は、イスラムに対して通りいっぺんの知識しか持たない。
ましてや、その原理主義ときては、もう、一枚岩のような大きな、はてしなく
分厚い壁に立ちふさがれてしまった感がある。これは、きっと私だけではなく
非イスラム社会に生きているものなら、多かれ少なかれ抱く感情ではないのだろうか。
アメリカの、イスラムに対する、エキセントリックともいえる行動は、一つ
そんなわからなさがあるからに、違いない・・・。
したがって、このアーミンが知りたいと思う、ヘシルの内面への旅は、そのまま
私達が臨む旅でもあるのだ。私も、そこが知りたくて、必死で読んでしまった。

・・・最後まで読んで、そのヘシルの取った行動の意味や必然性を、やはり
理解したとは、言い難い。理不尽を理不尽で返す・・それが、何か前向きなものを
生むとは、どうしても思えない。ただ・・彼女が、自分の、民族の尊厳を取り戻そうと
必死で戦っていたことでかは、わかる。そして、そんなヘシルを追うアーミンは
自分の世界から切り落とした、自分の家族、親戚、つまり自分のルーツに
もう一度戻っていく・・。幼い頃の自分を確かめるように。
人が、自分のあるべき場所に、自然に暮らしていくこと・・。
人間としての尊厳を侵されることなく、尊重しあって生きること。
本来そうあってしかるべきことが、こんなにも難しい世界がこの世には溢れてる。
その重みが、心を刺して、貫いていくような物語だった。
一人の人間の人生にとって大切なものと、その一人の人間を潰していく
国家や社会というもののずっしりのしかかる重み・・。その対比は、何千年も
何百年もおなじみなものなのに、未だに何の解決策も打てない悲しみが
静かに漂う。物語にちらっと顔を見せる、ユダヤのホロコーストの生き残りの
老人の存在が、その悲しみを裏打ちするようだった・・。
この人の本を、あればもっと読んでみようと思います。

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