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zoom RSS やがて目覚めない朝が来る 大島真寿美 ポプラ社

<<   作成日時 : 2008/01/10 20:45   >>

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画像饒舌に語る物語と、語らないことによって何かを描き出そうとする物語がある。
この大島さんの「やがて目覚めない朝が来る」は、後者だ。
何も、詳しくは語られない。それは、すべて耳の大きな有加という女の子が
その耳で聞いたことだけ。しかし、そこから放たれる「いつかあったこと」の香りは
どこからか匂う薔薇のように「生」の輝きを放ち続ける。

この物語の芯になるのは、有加の祖母である蕗という女性。
元々天才的な舞台女優であった彼女は、高名な作家の子を生み、
その作家の死とともに引退し、静かに暮らしている。
その息子の舟と結婚した母と有加は、舟が家を出て行ってしまったあと
蕗のすむ洋館に移り住む。薔薇の匂う洋館には、蕗に繋がる様々な
一癖ある人たちが出入りし、一種特殊な雰囲気を作り上げていた。
その中で、父の死を知り、有加は大人になっていく・・。

命を紡いでいく、女という存在の、強さと美しさと潔さ。
それを見事に描き出しています。大島さんの文章は、いつもたっぷりと
気孔のようなものを含んでいて、噛んだときに、言葉にならないニュアンスが
溢れてこぼれるんですが、最初から最後まで、その香気が変わらず立ち上り
続けてすっかり酔わされました。夜に匂う薔薇のように。
この物語に咲いている、蕗、のぶ子、有加、という三つの薔薇・・特に蕗という
女性の放つ香りは馥郁としていて、非常に魅力的。
例えていうなら、真っ赤な薔薇かな。その激しさとコントラストで周りを魅了し続ける。
その蕗の傍をずっと離れなかったのぶ子は、血は繋がっていないものの、
確かに蕗の精神的な娘のようなもの。彼女は陽気な黄色い薔薇。
そして、孫の有加は、おっとりとした、人の話をじっと聞いている女の子・・。
彼女は、うっすらとピンクな、優しい薔薇。
物語は、この三人の女の半生をゆっくり綴っていきます。
しかし、語られるのは、冒頭にも言ったとおり、ごく曖昧な、例えていうなら
立ち上る蜃気楼のような出来事ばかり。姿を消してしまう舟が、どんな経過で
死ななければならなかったのか、蕗の昔の激しい恋はどんなものだったのか、
舟とのぶ子は、どんな恋を経て結婚したのか。
具体的なことは、何も語られない。
ただ、様々な出来事が、この三人の、そして、この屋敷に集う個性的な人々に
寄せては返す波のようにやってきて、引いていく。
そのたびに、この三人に、消えない香りを残して。
人生の・・人というものが生きている切なさと一瞬の証が、立ち上っては
消えていく。それは非常に儚いものであると同時に、この命を紡いでいく
連鎖の確かな証なのだ。

この物語に登場する男たちは、女達のもとにひらひらとやってくる蝶々の
ような心もとなさなんですが、その男たちを、包み込むように慈しむ
女の母性の描き方が印象的。しかし・・・一番愛された舟は、その愛を受け取る
ことに臆病すぎた。いや・・そうじゃないな。きっと一番愛されたがりだったん
だろうな。もっと、もっとと愛されたがる自分が、恐ろしくて逃げ出してしまったのかも
しれない。そんな不器用な舟を、女達がどんなにまた愛しいと思っていたか・・・。
古語では「悲しい」という言葉には、「愛しい」という意味がふくまれる。
その古い言葉を思い出して、泣けてしまった。

「やがて目覚めない朝が来る」・・・人は生まれてから死ぬまで、たった一人で
あるということ。空や、星や、草花のように、ただそこにひっそりと存在するだけ。
それは、悲しいことでも、苦しいことでもなくて、ただ、そこにある厳然とした
生き物としての在り方。そんな大きな川の流れとしての命と、その流れの
中で精いっぱい開く花の香りへの愛しさと。色とりどりのタペストリーのように
それを書き上げた大島さんに感嘆しました。これは、ぜひぜひ女性に読んで
いただきたい本です。

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