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zoom RSS 風花 川上弘美 集英社

<<   作成日時 : 2008/05/06 00:05   >>

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川上さんの小説は、いつもながらレビューが書きにくい。
ここに描かれているのは、徹頭徹尾、言葉にし難いその時の
一瞬の空気、匂い。心に差し込む光に刻々と映っていく風景・・。
主人公の「のゆり」の記憶が、自分の中に積み重なっていくうちに
私は、この自分のいる場所から、、のゆりの心の中の迷路に迷い込んでしまう。
そこから、私はずっとのゆりの中に潜んだまま、ただ「感じて」いた。
理屈も理由もなく、のゆりの目に映り、その指先が感じることを・・。
いつもそうなんですが、川上さんの小説の主人公と自分の間の
境界線が、読んでいる間に、どんどんあやふやになってしまう。
にじんで、ぼやけて、曖昧になって、読み終わったあとも、その
世界から・・のゆりの心から、しばらく帰ってくることができなくて
ぼーっとしてしまう。この独特の、憑依されるような時間を感じさせる凄みは
川上さんの独壇場ですね。

「夜の公園」のように、粗筋らしきものは、全くなし。
のゆりと卓哉という、一組の夫婦。
卓哉は、他の女性と恋愛をしている。
その状況のまま、流れてくのゆりの日常が、ごく淡々と描かれる。
大した事件は、起こらない。
なのに、小説の緊張感は途切れない。
気持ちがかみ合わなくなった時の、結婚生活の緊張感と空気感が
息苦しいほど伝わってくるんですよね。
伸ばそうとした手の筋肉が、視線にこわばってしまう感触や
目の前にいる、誰よりも親しい人のはずの人間が、まったく
見ず知らずの人のように感じられてしまう時の、よそよそしさ。
すれ違う心が感じる痛みをやりすごすために、うずくまるように過ごす
のゆりのじくじくした傷なんかが、ほんとにリアル。

「心」とかいうもの・・。
私たちは、それがあるから人を好きになり、くっついたり離れたりするんですが
そのありようを言葉にしようとしても、それは難しい・・。
好きだから一緒にいようと思ったり、離れたいと思ったり。
でも、なぜその時、そう思うのか、を説明しようと思っても難しいじゃないですか。
自分が相手を求めている時にその思いは届かなくて
もういい、と思った瞬間、振り向かれたりする。
のゆりも、何度も卓哉と話し合おうとするのに、どうしてもそれはうまくいかない。
気持ちの前で、言葉はいつも色を失う・・・。
その一瞬を言葉で再構築するという、世にも難しいことを川上さんはやってしまう。
どこから来て、どこにやっていくのかわからない、この捉えがたいものを
「言葉」という檻の中に閉じ込める。
にこにこしながら、川上さんが蓋を開けてまっているところに
言葉達がすっぽり、なつくように飛び込んでくる光景を私はいつも
想像してしまう。まさか、そんなことはあるまいね、と思いながら
川上さんの魔法に身を浸す不思議な時間を貰いました。

自分とは違う人生の中に心を浸すことに、なぜ人は魅かれてしまうんだろう。
まだ私の中に、リアルに息づいているのゆりの息遣いを感じながら
私は、今日小説を読み始めたかのように、そんな事を思ってしまう。
のゆりと心が重なるということは、この物語の世界にも、私の心の痕跡が残るということ。
扉を閉じて見送ったのゆりの背中に、少し心預けて、帰ってくる。
なぜか、「彼岸」という言葉が浮かぶんですが・・。
彼方にある岸。ここではない場所。
一度死んで、違う生を生きて、またふわっとここに帰ってきた、そんな感じ。
肉体を持ったままそこを潜り抜ける、この感覚が、たまらないですね。
それができる小説に出会うことは、本読みの幸せ。
私は、この人の文章が、好きだなあ・・。
川上さんに、感謝。

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『風花』 川上弘美
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猛読醉書
2008/05/11 17:05
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