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zoom RSS 食堂かたつむり 小川糸 ポプラ社

<<   作成日時 : 2008/05/16 23:06   >>

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画像ピン、と一本糸が張っているような、強さを持った作品でした。
ちょっと気力が弱っていた私は、この物語を読むのに、何日も
かかってしまった。読み流すことができない、というか。
目をそむけたくなるものを、ちゃんと見なさい、と言われる感じ。
いや、そんな命令口調ではないな。
流し込んだり、よそ見しながら食べたりできなかった。
丁寧に作られた料理を前にして、背筋を伸ばして、ゆっくり頂きました。

主人公の倫子がある日仕事から帰ってくると、恋人が
家財道具一切とともに、いなくなっていた。ひとつずつそろえた
料理器具も、二人で貯めたお金も、何もかも。
ショックで言葉をなくした倫子は、一人で、母のいる故郷に帰る。
そこで、母にお金を借りて、山あいの静かな村で
食堂「食堂かたつむり」を始める・・。

このお母さんが、非常に強烈。
飲み屋さんのママをしながら、一人で倫子を育ててきた女性である「おかん」。
一人ぼっちで帰ってきた倫子を、どろぼうと間違えてカマで襲撃する
シーンに、圧倒されました(笑)
倫子は、この「おかん」に、非常に複雑な感情を抱いている。
父親のいない自分の出自。水商売、という生業に対する嫌悪。
自分の存在を認められていなかのような不安を抱えながら、
倫子は、料理をすることで、生きてきた。
その必死な思いが、山間の自分の店に、結実していく様子を
読むのが、とても楽しい。小さな小さな桃源郷を作っていくような気配。
ふっと迷い込んだ場所で、こんなお店にたどりつけたら、どんなにか
楽しいでしょうね。
そして、倫子の考えるメニューの数々が、とてもいい。
「命」を大事に頂く、そして、それを自分の力に変える、という「生きる」
基本が見える、献立。このお料理を、食べたいですよ。
ちょっと冒頭にも書きましたが、少し心が弱ってて。
テンションが落ちていたので、この倫子のお料理のエキスを、
たっぷり想像して、パワーを、貰いました。

しかし、一番読むのが辛いところで、私は、はたと立ち止まり
なかなかそこから進めなかった。
それは、可愛がっている「エルメス」という豚を、解体して料理するシーン。
この豚は、「おかん」が非常に可愛がっている豚。
そして、故郷に帰ってきた倫子を、いつも慰めてくれた、可愛い可愛い豚。
でも、癌で、余命半年、とわかった「おかん」は、エルメスを殺して食べることを
決める・・。
なぜエルメスを食べなければならないのか、よく納得できなかったんですよね・・。
始めは。そのシーンを読めなかった。
でもねえ・・私たちは、こうして殺された豚を、毎日食べている。
「エルメス」と名前がついていて、ペットのように可愛がっているから
食べられない、と思うだけで、私たちは、毎日こうして殺されていく
豚や牛を、食べている。そうなんだよな、と、ぐっとこらえて
エルメスが解体されていく過程を、つぶさに読みました。
そうすると、やはり、この物語の中で、このことは、必然なんだなあと。
エルメスの命の美しさ、それが、そのエルメスの体を使った数々の
料理に結実していく様は、悲しくて、でも感動的でした。
食べる、ということの残酷さ、生きる、ということの抗いがたさというか。
何かの命を頂いて、生きているという、これが厳然とした事実なんですよね。

私たちは、生きている。
だから、生きているものしか食べられない。
命を貰って、自分の生を繋ぎ、そして、また次の命を生んでいく。
言葉にすると綺麗に見える営みが、実は非常に厳しく、激しいもの・・。
今、この時代の、この場所にいると、それが見えなくなっているけれども。
その厳しさに、正面から立ち向かわせられるような物語でした。
母と娘を繋ぐ、命。
生き物と、生き物を繋ぐ、命。
命を貰って、太陽の光と水を貰って、私たちは、生きている。
目が覚めるように、そのことを再認識させられる強さに満ちた、いい物語。
でも・・どうだろうなあ。繊細な人が読むと、豚さんが食べられなくなってしまうかも、
とはちょっと思う、やはり動物に弱い私でございました・・。


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タイトル (本文) ブログ名/日時
『食堂かたつむり』/小川糸 ◎
食べる、という行為は他の命を繋いでゆくということなのだなぁ・・・。 普段、主婦として毎日漫然と料理をしていることを、ちょっと反省する。 (まあ・・・向き不向きというのもあるからな、と逃げておくことにするが。) 小川糸さんの『食堂かたつむり』は、前から読みたいと思いつつ、なかなか手に取ることが出来なかった一冊ですが、ひょんなことから、リアル友人から借りて読むことになりました。 Oさん、ありがとう。とても、良い物語でした。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2009/02/08 22:16
『食堂かたつむり』小川糸 を読んで
食堂かたつむり (ポプラ文庫) 小川糸 souiunogaii評価 とにかく料理がすごくおいしそう! 内容紹介 同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。 山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始め.. ...続きを見る
そういうのがいいな、わたしは。(読書日記...
2010/04/12 23:22

コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
人は、誰かにたしかに愛されていたのだと、実感することが、生きる原点になるのかもしれない!と、読みながらふと思いました。
らぶほん
2008/05/17 10:59
こんにちは。
人は、誰かにたしかに愛されていたのだと、実感することが、生きる原点になるのかもしれない!と、読みながらふと思いました。
らぶほん
2008/05/17 10:59
ERIさん、こんばんは(^^)。
なんだか、沁み入るお話でしたよね。
エルメスの解体シーンは、読み始めは私も悲しかったです。でも、次々と無駄なく料理および素材に変わっていき、命を無駄にしない、食べるものへの祈りにも似た感謝の気持ちが描かれるのが感じられて、いいシーンだなと思いました。
料理は不得手な私ですが、食べるものへの感謝を忘れないようにしよう、と思った一冊でした。
水無月・R
2009/02/08 22:29
ERIさん。こんにちは♪
今回映画化されたと聞き、初めて読んでみました。以前、ストーリーを聞いた時に、やはり動物に弱い私は無理だろうと思い、読むのをやめた時がありまして。。。
やっぱりエルメスを食べると決まった時から、辛くて悲しくて、目が腫れるほど泣いてしまいました。
でも目をそむけず読みました。エルメスの生命が、ひとつの無駄もなく料理に結実していく・・・美しかったです。おかんがそうしようと決めた意味も、何となくですが、わかるような気がしました。

食べ物、料理と、真剣に向き合うことは、生きることに真剣に向き合うことなのかもしれませんね。
ERIさんがこの本を読まれた時と同じ。ちょっと弱っていた私は、身体の中から湧いてくるようなパワーを、この物語から受け取りました。
心から想いを込めて作る料理は、食べた人は本当に幸せになれる・・・。ふと、そんな風に誰かに想ってもらって、お料理を作ってもらうことなんて、長いことなかったなぁ・・・っと、少々寂しくなってしまいました(笑)
食堂かたつむりに行ってみたいですねぇ・・。

2010/02/19 12:50
>花ちゃん
私たち、日ごろ、あまりにも簡単に食材を手にいれすぎていて、自分たちに与えられる「命」の意味を見失ってるのかもしれない。
料理する事、食べる事は私も好きやけど、なにせ、主婦は日常の中で、常に料理に追われてしまうから。私も、心込めてお料理を作ってもらうことなんて、ないわあ(笑)ちょっとさびしいね。
命を貰って、自分の命を繋ぐ。やっぱり、人は一人では絶対に生きられない。たくさんの命と一緒に生きていること、忘れたらあかんね(>_<)
食堂かたつむり、私も行ってみたい!!
ERI
2010/02/20 23:27

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