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zoom RSS 流れ行く者 ―守り人短編集― 上橋菜穂子 偕成社

<<   作成日時 : 2008/06/04 02:20   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 7 / トラックバック 2 / コメント 2

画像本編が完結した後の外伝。
短編というか・・中篇が三つ入っています。
バルサの少女時代の出来事を描いてあるのですが、
一つ一つが、とても深い。
上橋さん、今更言うのもなんですが、さすがです。

タイトルは「流れ行く者」。
少女の時に、父を殺され、国を追われ、逃亡の日々の中に
生きていたバルサ。一つところに一生動かずに住み、
根をはって生きるという、本来のあり方から外れて、
流れ行く人生・・。その厳しさと、悲哀。表紙に、二木さん描く
バルサとジグロの絵がありますがこちらを見る厳しい視線に、
この二人が背負うものが浮かび上がって切なく、感動的です。
今、この守り人シリーズはアニメになっていますが
私は、やっぱりこの二木さんの絵が好きだなあ・・。
アニメも、丁寧に作ってあって、なかなか面白いんですが、私はもう
この絵で、イメージが出来上がっているので。
ジブリで映画にしてくれたらいいのになあ、と想ったりします。

でも、こういう生き方に対する憧れ、ってありますねえ。
私は、何でも、ヒフティヒフティやな、と思う性質で。
人が手にしているものは、多くのことが、
幸せも不幸せも表裏・・。
バルサの人生は、さすらい続ける、厳しく、
辛いものであるけれども、その人生でなければ
見えないもの、手に入らないものがある。
そして、タンダのように、一つ所に住んで、
じっくりと物事を観察し、生きているものにしか
見えないものもある。
「浮き籾」は、そんな二人の感性の違いが、
見事に描かれていて、秀逸です。
バルサとタンダが魚釣りに行くシーンがあるんです。
一直線に、ただ魚を採ることしか考えないバルサと、
その魚が何を考えているのか、
なんてことが気になり、魚の上に、自分の掌をかざしてみるタンダ。
このタンダの柔らかい感性に、バルサが、この時、ぐっと惹かれて
心を開いたのが、何も説明されなくても伝わってくる、素晴らしい描写です。
母親に「ふわふわしたところがある」と言われるタンダは、自分の心を含めて
物事の本質を見ようとする。「見る」という事は、客観的な幾つもの目を持つ、
自分から離れて「あくがれる」・・魂が体から抜け出てふわふわする、という事に
つながるんですが、そのタンダの感性と「目」が、バルサの中の悲しみと
切なさを探し当て、彼女の強さも含めて、全てを受け入れようとする・・・。
村人にバカにされ、死んでも仲間はずれにされ、とうとう祟りガミにされてしまいそうになる
「おんちゃん」の悲しみと本質を、ただ一人タンダだけが見つめていた・・。
いや、きっと、皆が漠然と感じていたことを、タンダだけが直視する真っ直ぐさと強さを
もっていた、ということなのかもしれません。
そんなタンダのところに、さすらいの果てに帰ってくるバルサの気持ちが、なんだか
痛いほどわかるじゃありませんか。
この三つの物語の最後、タンダのところに、ひっそりと帰ってくるバルサの姿を、短い短編で
付け加えてあるのは、そんなタンガが、バルサの唯一の「帰る場所」であることを
思わせて、心が和みます。
運命に押されて、流れ行く者と、その魂を迎えることになるもの。
二人の絆が、こうして培われていったことを感じるのは、嬉しいことです。

「ラフラ」「流れ行く者」は、バルサの漂泊の日々の一こま。
この「ラフラ」に出て来る、年老いた賭事師・アズノがとてもいい。
女の身で、たった一人で、この年まで生き抜いてくる間に、どれだけのことがあったのか。
五十年もの間、ずっと一つの闘いのゲームを争ってきた、ターカムという武人との
間に培われてきた信頼を見せられるだけで、このアズノという女の
生き方が、浮かび上がってくる。上橋さんの筆が冴えます。
これぞ、物語の力です。そのアズノが、バルサに見せてくれた、最後の勝負の行方・・。
それは、読み手の感性で、どんな風にも受け取れることなんですが、
この、自分の生き方を貫いた人生に、心がざわめきますね。
もしかしたら、ターカムとの間に、若い頃ひそかにあったかも
しれない恋心も含めて、人の人生が川のように流れていく中で
凛として立っている気配が、素敵です。

「流れ行く者」は、そのアズノとは対照的な男。
自分の人生に、自分をあざけることでけりをつけようとした、その苦しみが胸に迫ります。
バルサが始めて人の命を奪うことになった相手、その
スマルという男の人生。それは、用心棒という生き方の悲しみを通じて、
「生きる」という事の切なさがあふれ出てくるようで、
バルサが流してしまった血の重みが、ひたすら熱く、悲しかった。
焚き火の傍で、バルサに話を聞いているような気持ちで、この二編を読みました。
本編が完結してから、やっと描けたという、その余裕が、このしみじみと
趣深い深さを生んでいるのかもしれません。

もっともっと、読みたいなあ、バルサの物語を。
そして、大好きなチャグムのその後・・なんかも、読んでみたい気がします。
上橋さんの頭の中には、どれだけの物語が詰まっているのか、
それを考えると、ドキドキします(笑)
新しい長編も読みたいけれど、この形での短編も、これから期待してしまいそうです。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。YO-SHIと言います。「本読みな暮らし」という読書ブログをやっています。

「流れ行く者」を読み終わったところです。
読み込みが深いですね。魚釣りのシーンで、そこまで感じることはできませんでした。脱帽です。
私としては、ジグロの心根が少し垣間見えたことが収穫です。もっともっとこのお話を読みたいですね。
YO-SHI
2008/06/21 17:24
>YO-SHIさん
TBありがとうございました。このシリーズの背景には、無尽蔵に物語がある・・そんなことを思わせてくれる短編たちに溜息でした。上橋さん、さすがです。
もっと、もっと読みたい。私も、そう思います。
ERI
2008/06/24 21:59

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