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zoom RSS 切羽へ 井上荒野 新潮社

<<   作成日時 : 2008/06/27 17:35   >>

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画像井上さんの小説は、いつも読んでいるのにレビューを書くのは
久しぶり。何でやったんかなあ・・。
大体、ここに書くより、何倍かは本を読んでいるんですが
レビューを書こう、と思う本は割りと少なかったりするんですよね。
面白い、と思っても何も書けないこともあるし、あかん、悪口になるで、
と思って書かないこともある(笑)
書きたい、と思う引っかかりが自分の中に、その時あるかないか、なのかも
しれません。タイミング、みたいなもんですねえ。


これは、非常に色っぽい小説でした。
と言って、何も過激なラブシーンがあったりするわけでもなく、
淡々と、小さな島での日常が綴られていくだけなんですが、
ギュっと抑えた蓋の中で、どんどん密度が増していくような
濃縮されたエッセンスのような、そんなエロチシズム。
主人公のセイは、人妻で、しかも画家の夫とは仲が良い。
小さな、住人みんなが知り合いのような小さな島で、養護教諭をして
暮らしている。そこに、ふらりと一人の若い男・石和が、音楽の教師として
赴任してくる。なにやら屈託を抱えているようなその男を見たセイは
胸騒ぎを覚える・・。

理屈ではなくて、体の中の何かがざわめく。
「恋」と名づけていいものなのかどうか、いや、名づけてしまうことを
避けて通っても、なぜか、体のアンテナがぴくぴくと動いて
その存在を感じてしまう。夫には不満などなくて、愛していて、
満たされているというのに、勝手に蠢いて生まれようとするものがある・・。
その気配が、シンプルで穏やかな島の暮らしの中で
不吉な「ミシルシ」のように染みを広げていく。
その、言葉にならないものは、ある日、自分を突き破って出てくるかも
しれず、周りを巻き込んで全てをなぎ倒してしまうかもしれない。
そんなおののきを抱えながら、一見何事もなかったように暮らしている
緊張感が非常に面白かった。
静かな湖面に投げ込まれた石。
それに揺れる波にゆさぶられる甘美と苦痛。
セイの体と心の波紋は、当然相手の石和にも伝わり、同僚の色っぽい月江にも
伝わり、勿論夫にも伝わっている。でも、誰もそれは口にしない。
口にした途端、それは別の魔物になってしまうかもしれないから。
女のこういう部分、男の人は怖いでしょうねえ。
浮気、とかいうものでもない。
多分、男の人が愛人を作ったりするのと、全く違うことなんだろうと思う。
満たされていないから、とか、寂しいから、とか、そんな理由は
全くなくて、ただ、自分の中の何かがざわめいて、動いて、対象に
にじり寄ろうとする、その衝動。
それを、静かなエロチシズムとして書き上げた井上さんの力量に
正直驚きました。


その勝因は、このエロチシズムが、島の、牧歌的な暮らしの中で描かれて
いることと、セイの横で段々「死」に近づいていく老女と対比して描かれていることに
あるのかもしれない。
島の自然の中で、月江の、そして、セイの体の中から溢れる「性」のエネルギーは、
自然のエネルギーと呼応して、ひたすら溢れる生き物としての強さを感じさせる。
そして、生き物であるが故に、常に「死」と裏返しのものであるという、悲哀も帯びる。
命の光を放って乱舞する蛍をみつめるシーンは、その象徴のようで印象的だった。
最後、新しい命を宿しているセイが埋めるクルスは、何の象徴だったか。
その掘り返した土の生暖かい感触は、セイに何を感じさせたのか。
こうして「秘密」をたくさん埋めて人生を送る、また楽しからずや。
セイの行った「切羽」(行き止まり)に、でん、とお手つきして旅して帰ってきたら
私も、一つ恋を終えたように、ぐったり疲れた(笑)
夏の午後、寝ている猫を起こさないように風に吹かれて読むのに相応しい本でした。

余談ですが、この小説を、蒼井優さんのセイで映画にしてほしいなあ、と
妄想しました。清潔で、それでいて、煙るような色気のある彼女がセイの
イメージだなあ・・。途中から、勝手に彼女を主人公にしてこの物語を読みました。
いつも自分のイメージが先行する私にしては珍しいことです。


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