ただ、タイトルに惹かれて読み始めたのですがまず引き込まれたのは、文章の力。そして、少しずつ 明らかになっていく、主人公アディーナの生活の異様さ。 非常に悲惨な話でありながら、独特の詩情をたたえる、その 語り口が印象的な物語でした。 物語は主人公アディーナの小学校入学から始まる。 母のカーラと弟のボルコの3人家族なのだが、 どうやら、彼らは家族以外の人間を「ノック人」と呼び、 なるべくコミュニケーションを持たないようにしているらしい。 アディーナは、初めて触れる「学校」という異界で、なるべく 人と付き合わないように心がける。ノック人である他人は なんだかヘンな匂いがして、自分たちとは異質な気配を 漂わせている。何かがおかしい。 しかし、アディーナは、ヘンなのは自分たちだと、徐々に気づいていく。 アディーナの家の中は、「なんてきれいなの」「よく見てみなくちゃ」 「とても捨てられないわ」「ああ、これは大切」が山のように積み上げられ 迷路のように部屋と廊下をふさいでいる。それは、母であるカーラが 拾って集めてきたもの・・・。人はそれを「ゴミ」と呼ぶが、カーラに とってはそれは宝物であり、カーラの生活は、その宝物を集めることに ほぼ費やされている。どうやら夫が死んでから始まったらしい、その 癖は、段々エスカレートし、家の中を侵食していく。 アディーナとボルコは、カーラにきちんとした食事もあたえられず、洗濯も してくれない。もちろん身体を綺麗にすることもない・・。 友達ももちろんできない孤独の中で、アディーナは、自分の置かれている状況や 母の身勝手な愛情のゆがみに気づいていくが、彼女自身、それを どうすることもできない・・・。 幼い頃、息子と同じクラスだった同級生の女の子に、やはりこんな境遇の 子がいて・・。彼女を見るたびやるせなかったことを思い出す。 別に家が貧しいというわけでもないのに、いつも異様な匂いを漂わせていた。 お母さんも同様で、クラス会で会うと、皆自分の不快さを隠す気持ちと、 なんともいいようの無い、一言忠告したい、でも、何もいえないという 複雑な感情で胸が痛んでいた。 担任の先生が尽力して、やっと世話をしてくれるおばあちゃんのところに 移れたのだが、その女の子は、まず開口一番「お風呂に入りたい」と 言ったそうで、それまでの彼女の苦しさを考えると、まるで自分が責められるような 気持ちになったことを覚えている。 「家」というのは、ある意味不可侵な領域。 それだけに、その中で暮らす子どもが、苦しい状況にあっても、 外からはわからない事が多い。アディーナの弟は、そのゴミの下敷きに なって死んでしまうという悲しい最期を迎えることになってしまうし、 水道さえも出なくなってしまう生活、とうとう玄関までゴミがいっぱいに なってしまう家の中で、たった一つの救いは、近所のエアラという女性と 一緒に、森に住むツルを観察しにいけること。 優雅で、誇り高く賢いツルに、アディーナは生きる輝きを見つける。 踏みにじられようとする人生の中で、たった一つ灯す明かり。 その美しさに息を呑むアディーナの感性が、愛しくなる。 段々激しくなる、母カーラの奇行、同級生の激しいいじめ、 そのストレスから、ゴミの上におしっこをしてしまうアディーナの行動、と 物語は悲惨なのだが、作者アクセル・ブラウンズは、独特な言葉遣いと リズムのある文章で、そこから生理的な不快感をあまり感じさせない。 アディーナという少女の視点で描かれる世界は、まさにミクロな価値観に 支配されていて、独特の美意識の世界。モノも、動物も、人間も、 筆者の目を通すと、別の輝きを帯びるようで、なにやら懐かしい気配なのである。 そのせいだろうか、舞台はドイツなのだが、隣近所で起きていることのように 身近な気持ちで読むことができた。非常にやるせない物語ではあるが、 その苦しみを救うことができるのは、周りの大人しかないんですよね、結局。 アディーナの状況を、見てみぬふりしなかったアエラの勇気が嬉しい。 そして、どんなに苦しい状況であっても、子ども自身に、それを乗り越えようとする 意志の力がそなわっていることが、希望だった。力のある、いい小説でした。 おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php |
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専門家や海外ジャーナリストのブログネット... 2009/01/27 11:16 |
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