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zoom RSS どこから行っても遠い町 川上弘美 新潮社

<<   作成日時 : 2008/12/07 00:52   >>

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画像川上さんの、短編連作集。
雑誌で連載されていたものを、拾い読みしたことは
あったのだけれども、こうして一冊に纏まると、
それぞれが響きあって、一つの世界になるのが
楽しい。
東京の、どこかの下町。ごちゃごちゃした界隈の中に
たくさんの人がいて、何となく関わりあって生きている。
小さな円が、すこしずつ重なり合って、交じり合い、滲み、
色が重なっていく・・。
いつだったか、画家の安野光雅さんが、風景を描くところを
NHKの番組で見たことがある。安野さんは、キャンバスに、おおまかな
色を置いたあとで、もう、全く無造作にあちこちに色を置いていく。
そのあまりの自由さに、一体どんな絵になるのかしら、
と思ってみているうちに、いつのまにか、適当に置かれていると
見えた色たちが響きあい、霧が晴れるように、その場の風景が
現れていくのに、驚いたことがある。

川上さんの、この短編も、なんだかそんな気配。
とりたてて変わった人生を歩いているのではない、人たち。
その中に潜む、人という生き物の不思議さ。
彼らの中から聞えてくるささやかな音に耳を澄ませているうちに
やっぱり、私は川上さんの世界に、引きずり込まれてしまう。
それは、ここに生きているはずなのに、半身だけ違う場所に体を浸す感覚。
体ごとのめり込むのではなく、半身だけ、ずれる。
ずれた私は、半分目を閉じて、川上さんの世界の空気を吸う。
その空気は、いつも、ちょっと彼岸の匂い・・。まだ見ぬけれど、懐かしい
世界の匂いがする・・・。
川上さんの、天衣無縫な筆が、ちょいちょい、と置いたような短編たちが
描き出す風景は、いつか、自分が一番遠いところに旅に出た後で
たどりつくところかもしれない。そこは、「どこから行っても遠い町」。
でも、誰もがたどりつく町・・・。

そんな風に思うのは、川上さんの言葉が、いちいち忘れがたい
匂いに満ちているからだろう。ああ・・知ってる、私、この言葉が聞える
風景の中にたったことがある、と思うんですよね。
川上さんの言葉の力は、半端ない。

いろいろなことなど、見たくない。つくづく思った。
でも、見なければ生きてゆけない。そのことを、残念ながら
私はいつしか知るようになっていた。ここまで生きてくるあいだに。
      ―「小屋のある日常」より―

ぜんぜん何も混じっていない「好き」だから、あたしはやがて、この町を
忘れる。  ―「夕つかたの水」より―

男なんかと一緒にいて、女が幸せになるものかしらと思ってさ。
        ―「長い夜の紅茶」―

おれが決め、誰かが決め、女たちが決め、男たちが決め、この地球を
とりまく幾千万もの因果が決め、そうやっておれはここにいるのだった。
      ―「どこからいっても遠い町」―


好きな言葉を引用してるときりがありません(笑)
さっきも書いたけれども、この言葉たちを、私は、実は知ってて、
川上さんに言ってもらった、と思うような、胸に深い言葉たち。
人生は、滑稽で、愛しくて、哀しくて、面白くて、はかなくて強い。
最後の短編「ゆるく巻くかたつむりの殻」は、この町にちらちらと
見えかくれしてきた、魚春の奥さん、もうこの世にはいない真紀の
独白だ。子を産むことができなかった真紀が、この町に生きて
いる人間たちを抱きかかえるような視線で包み込むような短編で、
私は読んで泣けてしまった。
どこにでもある町で、人として生きている。その不思議さ。
たくさんの雨粒のように、命が生まれ、かさなり、目に見えないところで
大きな川となり、海に流れ出していく。
その音が聞えてくるような物語たちでした。

あー・・川上さんの物語のレビューは、書いても書いても言いたいことが
伝わらないようで、やめどころに困ります(笑)
つまり・・川上さんの新刊を読めて幸せでした。マル。(笑)


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タイトル (本文) ブログ名/日時
「どこから行っても遠い町」知り合いの誰かに会えそうな本
「どこから行っても遠い町」★★★★★ 川上弘美著、294ページ、1500円 ...続きを見る
soramove
2009/04/10 07:59
『どこから行っても遠い町』 川上弘美 (新潮社)
<川上弘美の世界観が十分に表現された作品。> ...続きを見る
続 活字中毒日記
2009/04/14 23:24

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん、こんばんは♪
ちょっとご無沙汰しております。
TB失敗しましたがコメントさせてください。
この作品、心地よいですよね。
最後で真紀が登場してかなり引き締まったような気がします。
温かく見守るって本当に癒されますよね。
まるで作者が読者の明日からの12番目の物語のスタートを祝しているように感じました。
トラキチ
2009/04/14 23:29
>トラキチさん
コメントありがとうございますm(_ _)m
この、川上さんの作品世界の空気感が、私は大好きです。発売と同時に、買ってしまいました(笑)
真紀さんの物語、ほんとに素敵でした。また読み返したくなってきました・・。
ERI
2009/04/23 01:10

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