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zoom RSS 光車よ、まわれ! 天沢退二郎 ジャイブ ピュアフル文庫

<<   作成日時 : 2008/12/12 02:44   >>

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画像この本の初版は1973年。実に30年以上前に
書かれた物語ですが、このファンタジーの放つ
強烈なインパクトは、全く衰えていません。
2004年に、読者の熱い希望で、復刊ドットコムから
再び発行され、ジャイブから文庫になりました。
この文庫版が、定本になるようです。

実は、私はこの物語をずっと読もうと思ったまま
置いてあったんです。やっと読んだわけですが・・。
読んでいる間中、デジャブとも、なんともつかない
強烈な脳内イメージに翻弄され、右往左往でした。

ある激しい雨の日・・。一郎は、遅れて教室に入ってきた3人の
同級生が、怪物に変わっているのを見る。
その瞬間から、一郎は、あやかしの世界に引きずり込まれて
しまったのだ。彼らは、水の悪魔に取り付かれているという。
一郎は、同じクラスの、龍子・トミー・弘子・弓子・サッチャン・そして
違う小学校のルミたちと、その水の悪魔と闘うために、
光車を探すことになる・・。

この物語は、説明されていない部分が多い。
最後まで、この光車が一体何なのか説明されないし、
一郎たちのリーダー・龍子の正体も、謎のまま。
そして、彼女たちを助けていた龍子の祖父も、最後まで
読むと、味方だったのか、敵だったのかわからなくなる。
彼らが闘い続けている組織も、結局何だったのか
自分で想像するしかない。
でも、私は、この本を読んで、思い出してしまった。
子どもの頃の冒険には、理屈がなかったことを。
私は、一郎たちと同じ年代である。
子どもの頃・・町の中には、たくさんの欠落があった。
まだ、防空壕も残っていたし、この物語に出てくるような
子どもだけがくぐる、秘密の下水管もあった。
そこを抜けると、一面の蓮華畑であり、古い崩れかけたオバケ屋敷に
もぐりこんでは、かび臭い空気の中で秘密をわけあった。
親たちは忙しくて、子どもはほったかされていたので、
どこにでももぐりこむことができた・・・。
欠落の非日常にいるのは、後ろめたくて、ドキドキするのだが、
そんな中で、友達と秘密を共有するのは、一瞬の了解で言葉はいらなかったのである。
「ナイショやで」と約束する時の不思議な快感と、恍惚。
その一瞬に理屈なんかいらない。
横殴りの雨が吹きつける冒頭から、私はその快楽への堕ち方を、
堕ちるときの冷たい肌触りを強烈に思い出して、夢中になってしまった。
解説を書いてらっしゃる三浦しをんさんは、子どもの頃に、血肉をわけるようにして
この物語を読んだという。さもあらん・・。

龍子をリーダーとする仲間達は、自分たちの町を駆け回り、
不思議な力を持つ「光車」を探す。その彼らにたくさんの危険な罠が
待ち構えるのだが、雨にけぶる町のそこここに、極彩色のあやかしが
口を開いて待っていようで、イメージの一つ一つが強烈だ。
緑色の制服を着た男たち、黒い水が生き物になって追いかけ、
ふっと落ち込む上下逆さまの世界では、逆立ちをしたほうが早く走れる。
水たまりはタイムスリップのようにあちこちを繋ぎ、黄色く光る目が
一郎たちを付けねらう・・。なんと、児童書では珍しく、この物語では
欠落は、やはり欠落のまま。大体、児童書の冒険では、命が失われることは
少なく、また、行方不明になっても帰還したりするのだが、この物語では
仲間の弘子も弓子も死んでしまうし、敵がわについたルミコの
兄も戻ってこない。次から次へと溢れるエピソードの喚起力の強さと、
失うことがそのまま描かれる喪失感は、
この物語に、くっきりした深い陰影をつける。
それは、「死」の気配でもある。
「死」は、子どもにとって、遠くにあるものではない。
子どもの頃、あんなに怖かった「死」の手触りの冷たさを、大人は忘れている・・。
この物語は、その恐怖もリアルに思い出させてくれる。

日常に潜む、深い穴。暗がりに潜む、負の力。善悪、というだけでは割り切れない
混沌のようなエネルギーが暴れ、世界を飲み込もうとする。
その暗がりの中で、ひたすら光を放って回り続ける光車は、ひたすら美しく、
妖しく、この物語を読んだ子どもたちの胸の中で回り続けるだろう。
それは、命の灯でもあるだろうし、自分の手で取り戻す希望であるかもしれない。
子どもたちの力だけが、光車をまわすことができるのだ。
その記憶を、持つことができる子どもたちは、幸いだと思う。

この世は、理不尽でできている。
目に見えるものだけで幸せを得ようとすることに、私たちは限界を
迎えているのではないか・・。毎日、世界中からあふれるニュースを
見ながら、つくづくそう思う。私たちは、そろそろ、長らくほったらかして
散々バカにし続けてきた、目に見えないものの大切さにいい加減気づくべきなんだと思う。
優れたファンタジーは、異界という非日常に、魂だけ旅をする機会を読者に与えてくれる。
できれば、私も、幼い頃にこの物語に旅をしたかった。
今、この大変な時代を生きる、
感受性の強い子にこそ、この強烈な物語を読ませたいと思う。
生きる力を、一郎たちから、たくさんもらえるはずだから。


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