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zoom RSS 水深五尋 ロバート・ウェストール 金原瑞人・野沢佳織訳 宮崎駿絵 岩波書店

<<   作成日時 : 2009/06/26 20:37   >>

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画像ウェストールです。何とも重厚な、訳者の金原さんも
おっしゃってますが、非常にウェストールらしい作品。
戦争という中で、少年がたくさんの現実を見据えて
成長していく。社会という、不条理が詰め込まれた
世界にこぎ出していく若い心が捉えた真実を、深く、
広く掘り下げながら描いた骨太の作品です。
この作品は「"機関銃要塞"の少年たち」の続編にあたりますが
前作を読んでいなくても十分に楽しめます。

主人公のチャスは16歳。ある夜、彼の住む近くの浜辺が
ドイツ軍のUボートの攻撃を受けた。その場面を目撃した
彼は、翌日浜辺で不思議なものを拾う。
それがスパイの使った無線ではないかと思ったチャスは
友人のセムと、オードリー、ガールフレンドのシーラと
一緒にスパイ捜索を始める・・・。

始めは面白半分のノリで始めたスパイ捜索なのだが
次々に鍵がつながっていく、その手ごたえに、彼も
仲間たちも夢中になってしまう。
若いからこそできる無謀さ加減に、読みながら冷や冷やして
しまいながら、このあたりの上手さは、さすがです。
この4人の若者たちが持つ家庭の背景と、出会っていく
たくさんの人々の抱える歴史が交錯して、読み手に
様々なことを考えさせる。
主人公のチャスは、中産階級、労働者の父を持っている。
学力があるので、大学進学を予定している彼に対して、
セムは「あんな子と付き合っちゃダメ」とチャスの母に言われる
ようなやんちゃなタイプ。卒業後は多分、チャスとは生き方が
離れてしまうだろうという感じ。そして、オードリーは家の事情で
もはや働いている。ガールフレンドのシーラは、町の権力者の
娘で、大金持ち・・。既にこの4人の中でも、これだけ違う。
その彼らが生きている街には、もっとたくさんの階級差と人生が
横たわっている。移民の人たちが作る界隈、ユダヤ人が経営する
質屋、売春宿・・・・。お行儀にうるさいチャスの母親が見たら
卒倒するような事を、次々にやってのけながら、チャスは彼らの
姿から、その人生を感じとる。

その出会いの中で、チャスの価値観がひっくりかえっていく。
誰もが嫌う売春宿のおかみのネリーが、実は誠実な優しい
人間であり、威張っている警察署長が、実は権力に弱い
卑屈な人間であること。みかけや肩書と、その人の内面的な
価値は、どうやら関係がないということ。
恋人のシーラとの別れや、様々な大人との出会いを通して、チャスは
真実が一面だけのものではないことを学んでいく。
その成長がもたらす視線が、ラストの息を飲むような緊張の
シーンに見事に結実していく流れが、素晴らしい。

大勢のドイツ兵の中にある、たった一つ見知った顔。
彼がスパイだと知っているのは、チャスだけ。
やつは、チャスを殺そうとした男。
しかし、今、チャスが一言を告げれば、やつは絞首刑になる・・。
その男の妻と幼い子どもをチャスは知っている。
そして、やつのために失われた命のことも、チャスは知っている。

そこでチャスの下した決断は、物語を読んでもらうことにして・・。
何もかも信じられなくなったチャスが、最後にたどりついた信頼が
毎日を誠実に生きる、その生き方に向けられたということが私は
嬉しかった。たゆまず、名もなく、誠実に生きる、変わらない人。
人としてぶれない、揺るがず生きるということは、大人になるに
つれて難しい。その揺るがぬ姿の美しさは、チャスの芯になって
また、そこから新しい歴史が始まるだろうと思わせます。
父から子へー・・。
「良心」というものが受け継がれる親子の姿が、さわやかなラストです。

これまで読んだウェストール作品のエッセンスがあちこちに感じられ
る楽しさありです。すっかり女の子にリードされる10代の初恋は
「禁じられた約束」を思い出させ、戦争の戦闘シーンは、「海辺の王国」や
「ブラッカムの爆撃機」を思わせます。
ぽっかり口をあけた人間の暗黒部分を感じさせながら、そこに
引きずり込まれず踏ん張って生きる「市民」の生き方の健やかさを
描ききる、しなやかな強さ。その「ドラマ」を見事に浮かびあがらせる
さすがの宮崎駿氏の挿絵も味わい深い一作です。
これは、男の子に読んで欲しいなあ・・・。しみじみ、そう思います。

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