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zoom RSS ソーネチカ リュドミラ・ウリツカヤ 沼野恭子訳 新潮社 

<<   作成日時 : 2009/10/08 15:57   >>

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画像物語というのは、不思議だ。
国境とか、人種とか、言葉とか、そんなものをひらりと飛び越えて
胸のうちに、熱いシンパシーを呼び起こす。
ウリツカヤは初読みなんですが、ここに描かれるロシアの女の
一生に、深く感じ入ってしまった。ロシア文学には、一代記が良く似合う。
大きな大地から、生まれいずるもの、という懐の深さがあります。
その懐の深さは、ロシア文学というものが持つ深さに通じているのかも
しれません。アンナ・カレーニナとか、好きだったなあ〜・・。

舞台は、第二次世界大戦後のソビエト。
主人公のソーネチカは、本の虫。ただひたすら本を読んで生きてきた。
「七歳のときから、二七歳になるまで、まる二十年というもの、ソーネチカは
ほぼのべつまくなしに読書してきた」
耽溺する物語の中で、ひっそりと息をしていた女が、27歳のときに
運命の人と逢う。それは、中年の芸術家・ロベルト・ヴィクトロヴィチ。
反体制的なアーティストである彼は、ソーネチカに一目ぼれし、二人は
結婚する。反体制者として転々とする彼にソーネチカはよりそい、
二人には娘も生まれる。しかし、芸術家の熱い血を持つ夫は
娘の友人である若いヤーシャと恋仲になり、ソーネチカを捨てる。
しかし、ソーネチカは、変わらず、夫とその若い恋人、娘に愛を
注ぎ込みながら、最後まで彼らを支え続ける・・。

こう書くと、単なるいい母、妻の話かいな、と思われそうですが
そうでないんですよねえ。
ソーネチカは、本の虫。「それまでに読んだ何千冊という書物でできた
繭にしっかりくるまれて」いる心の持ち主なんです。
本を読む、その中に展開される人生に心を浸す、という事をたくさんしていると
段々自分というものを、相対化していく事になる。
物語の中の出来事と、現実の出来事の区別が、あまりつかなくなる(笑)

書物に対してあまりに鋭く感受性がはたらくので、架空の主人公が
実在の親しい人と同等に思え、たとえば、死んでいくアンドレイ公爵の
枕元で、気高くもナターシャ・ロストワが苦しみに耐えている場面と、
愚かな不注意で四歳の娘が嘆いている痛々しい姿とが、どちらも
真にせまって感じられるのだった・・・


これは、清水眞砂子さんもお書きになっていたかと思うけれども、
例えば、現実で辛いことがあっても、ああ、あの物語の主人公は
もっと辛い目にあってたよな、とか。自分の周りには、今、こんな
いやな人たちしかいないけれども、この本を開けば、私は尊敬する
この人に会える、とか。それを、無理やり思うのではなしに、
どんな時も、これまで自分が読んできた幾つもの物語の情景や
主人公たちの心情の中から、改めて今の「自分」を眺める作業を
無自覚にしてしまう癖がついてしまう。
私もそういうところがあって、結構自分自身に起こることには
いつも冷静だ。でも、とっても欲が深いし、怠け者なので、
こんなソーネチカのような美しい人生は歩めそうにない。
歩めそうにはないのだけれど、このソーネチカの中に漂う、
明るい虚無感のような、大きな川の流れは、私の中にもある・・と
感じてしまう。それは、私がこれまで読んできた物語で出来た
川であり、どこか果てしない、命がたどりつく場所へと続いて
いる川だと思えるから。

ソーネチカが、夫の裏切りと、大切にしてきた家の二つを失うことが
わかった日、空っぽの心を抱えながら、そっと好きな本の頁を開いて
静かな幸福感に包まれるシーンが、好きだ。
夫も、自分のものではない。もちろん、娘も。
そして、いつか形を失うモノとしての家も。
物語の中の幻想と、現実が等価に感じられるソーネチカは、
現実の中で自分が持っているものに、執着がない。
人生も、ある物語の一頁なら、それははじめから持っていたのかいなかったのか、
問いかけることで自分の価値観の中に流れていってしまうことなのだ。
大阪弁でいうたら、「ま、ええか・・。それがなんぼのもんやねん」っていう事(笑)
ただ、その物語から受け取った幸福、自分の心が感じる真実だけが
彼女の心をそっと照らして、温める。
その潔さが、秋の日差しのように静謐で、鮮やかだ。
物事に執着しない事を善しとするのではなくて、人生の理不尽に
見舞われたときに、そっとそこから回復する力が、物語には
備わっている・・・その見事な例を書きだしてあることに感動してしまう。
作家の筆は、ソーネチカと、その周りの人々の人生を淡々と描いて
過不足ない充足をもたらしている。その充足感の重みが、とても
気持ちいい。何というか・・掌にすっぽり収まる、いい感じの重み。
愛しい気持ちでいっぱいになる。

この人の作品を、もっと読んでみようと想う。
ウリツカヤという人は、ナボコフに影響をうけているらしい。
最近、気になる作家さんが、ナボコフの名前を出すことが多くて、
かいつまんで読んだことしかない私は、ちょっと焦ってしまう。
人生短いからなあ・・早く読まなきゃ。

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『ソーネチカ』 リュドミラ・ウリツカヤ
ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)posted with amazlet a ...続きを見る
Roko's Favorite Thin...
2009/10/11 22:10

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん☆こんばんは
幸せって誰かから与えられるものじゃなくて、自分で見つけ出すものなのだとソーネチカに教えてもらいました。
読書する喜び、それは何ものにも替え難いという彼女の気持ちに同感です。
Roko
2009/10/11 22:14
>Rokoさん
TBとコメントありがとうございます。
「幸せって誰かから与えられるものじゃなくて、自分で見つけ出すもの」
ほんとですね。色んな植えつけられた価値観に左右されずに、心の自由を持って自分の幸せを感じること・・。ソーネチカの喜びがわかる私たちは、幸せものですね!
ERI
2009/10/13 02:14

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