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zoom RSS あるキング 伊坂幸太郎 徳間書店

<<   作成日時 : 2009/10/21 01:23   >>

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画像ここまで面白くなさそうな人生を送っている男の話を
初めて読んだ(笑)もう、読んでいて、気の毒になるくらい
しんどい人生・・・でも、彼は天才なのだ。
マクベスが題材になっているのだから、これは悲劇なんだろうけれど
段々、それがホラーのようになっていくところが、面白い。

王求は、仙醍キングズという弱小球団の熱烈なファンを
両親として生まれた。彼の生まれた日は、キングズの
南雲監督の引退試合、ギリギリでひっくり返され、その後
ボロボロに打たれ、その試合中がきっかけで南雲監督が
命を失った日だった。霊感に打たれた両親は、自分の息子に
王求という名前をつけ、いつか、仙醍キングズをしょってたつ
バッターになる事を運命づけて育てる・・・。

「きれいはきたない、きたないはきれい」
王求の前に現れた魔女たちは、マクベスのセリフを投げかける。
白雪姫にしても何にしても、魔女たちの祝福というのは、呪いの
ようなもの。幼いころに、魔女たちが息子にかけたこのセリフを、
もし自分が聴いたら、「いやいや、そんな怖いもんはいりませんわ」と
辞退申し上げるやろうに、このお父さんは
「本当だろうな。この子は王になれるのだろうな」とか、聴いてしまうんだから
始末に悪い(笑)やっぱり、文学は読んどかなあきません。(そこかい!)
というのは冗談にしても、息子に、「役割」しか与えなかったという点において
私は、この両親はどうかと思う・・。これは、愛情じゃないよなあ。
しかし、その辺りの不自然さも、全てわかって、伊坂氏は、両親に
この役回りを与えているんだろうと思う。
この物語の全ての登場人物は、俯瞰で語られる。
両親も、父親に殺される少年も。王求の周りを通り過ぎていく誰もが
百鬼夜行のように、王求を取り巻いて彼に自分の勝手な想いを
押しつける。

「フェアネスを貫こうとする者は不幸になるぞ」
「その通り、この物語はそういう物語になるぞ」
「おーく。それでも王になるお方。めでたいね」


王求は、魔女の言うとおり、多くを叶える男になる。
打率八割。敬遠か四球以外は、必ずホームランを打つバッターに
なる。しかし、その彼の天才ぶりは、なぜか誰も幸せにしない。
父は、彼に暴力をふるった男を殺して殺人犯になり、チームでも
その並はずれた能力故に、人からうとまれる。そして、彼だけが
ホームランを打っても、チームは常に万年最下位からは脱出できない。
「天才」という役割だけを与えられた彼は、全てを満たした王になりながら
誰にも愛されない・・。この絶対的な孤独の中で、やっぱり、王求は
最後まで、自分の役割を果たそうとする。
どれだけ、この世の中が百鬼夜行でも。周りに理解されなくても。
「野球をする」という事について、とことんフェアネスであった男は
最後までバッターを振る。最後まで彼は、愚直なまでに、野球に誠実だ。
その彼が、最後まで正当な評価を受けられない・・。
この「人心」というものの冷たさと理不尽さは、この世界にざらに
転がっている。そう思う苦さが、今の時代の、いろんな事を思い出させて
ため息が出る。

最後に彼が命をかけて放ったホームランは、きっと語り継がれて
いく事になるんだろう。この後のお祭り騒ぎが、しっかり想像できるあたり、
私にも、すっかりマスコミの毒が注入されているんだなあ、きっと。
でも、最後の最後に残るのは、その人が何をしたか、なんだろうと思う。
どんな偉そうな事をマスコミが言ったとしても。
昔の友達、なんて人が、どんな風に彼を語ったとしても。
彼は打率8割を打ち、死に直面しても、最後まで彼のやるべき事をした。
その事は、絶対に消えない。
ホラーのようなもの・・それは、人の不幸を願う漠然と寄り集まる人心というものなのかも。
ねたみ。嫉妬。どろどろと渦巻く汚泥の中で、ひたすら野球にかけた王求の人生の
物悲しさと純粋さが、最後にまぶしく光るのが、伊坂節でした。
いつも、何かしら、新しい試みをしてくる伊坂氏は、やっぱり読み応えありますね。

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2009/10/24 23:10
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「あるキング」★★★ 伊坂幸太郎著、徳間書店 2009年9月25日、1.260円、221ページ ...続きを見る
soramove
2009/12/05 22:23
『あるキング』/伊坂幸太郎 ○
本当の天才って・・・すごいけど、ここまで来ると全っ然、羨ましくないな・・・。 いつもの伊坂幸太郎さんの作風である、張り巡らされる緻密な伏線、そして見事に回収され収束するラスト・・・というのは、本作『あるキング』にはなかったな〜。まあ、伊坂さんご本人も、あとがきで雰囲気が違う小説って言ってらしたしね。 まあ、こういうのもありかな〜と思いつつ、主人公・山田王求は人生楽しかったのかしらん・・・と思わずにはいられない。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2010/02/26 22:58

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん☆こんばんは
モンスターになってしまった王求くんの存在に、周りが付いていけなくなってしまった所が悲劇だったんですよね。
でも、彼自身は幸せだったんじゃないかなぁって思いました。
Roko
2009/10/24 23:08
>Rokoさん
ほんとにね・・彼は幸せだったのかもしれないですね。
野球が楽しい、って言ってましたもんね。
その彼が、あんなラストを迎えなければいけなかった・・その事が切なかったです。
ERI
2009/10/27 00:47
ERIさん、こんばんは(^^)。
私はずっと〈王求は幸せなのだろうか〉ということが気になって読んでいました。
余りにも淡々としていて。
野球、仙醍キングスのために生まれ、生き、そして死んでいった王求・・・かわいそうな男だと思いました。
多分、余計なお世話なんでしょうけど。
水無月・R
2010/02/26 23:31
>水無月・Rさん
強すぎる男の悲劇ですよねえ。マクベスなんで、悲劇には決まってるんですが。とことん、自分をまっとうして生きる王求が、人に苦しみしか与えなかったという事が、私には悲しく・・・彼の孤独が辛かった。
でも、これは真理でもあるんですよね。真理は苦くて、心を痛めつける。真理は非情なものだから。そこから逃げずに立ち向かい続けた彼を、私は美しいと思います。幸せではなかったかもしれないけれど・・。美しかったというそれが、彼には一番大切だったかも。
ほんと、人間って。難しいです。
ERI
2010/02/28 02:17

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