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zoom RSS 麗しき花実 乙川優三郎 朝日新聞社

<<   作成日時 : 2010/04/08 01:37   >>

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画像時代小説が大好きなんですが、最近はなかなか読む暇がない。
でも、乙川さんの本は、出たら必ず読むようにしています。
独特の、乙川さんだけの世界が色濃くあるのがいいんですよね。
みっしりと内容が詰まっているのに、いつも、言葉で語られる事よりも
語られないことの方が多く心に残る。
乙川さんの物語の主人公は「突き詰めていく」人が多いです。
この物語の主人公・理野もそうですが、その突き詰め方の厳しさは
乙川さん自身にも繋がっていくものだろうと思います。
そのマニアックな徹底ぶりが気持ちいい。

主人公の理野は、蒔絵の修行をする兄について、江戸にやってくる。
今を時めく原羊遊斎の工房に入った兄は修行に没頭するあまり
その疲れからか早逝してしまう。過去の恋愛で傷をうけた故郷に
戻りたくない理野は、兄のかわりに自分が蒔絵師として修業することを
決め、果てしない美の旅へと没頭する・・。

文化文政年間、江戸の職人文化が一番花開いた時期に、綺羅星の
ごとく集まった「美にとり憑かれた人々」の群像が面白い。
男の世界である職人という修行に、頭から突っ込んでいく理野が、
独特の感性で新しい作品を生み出していく、その過程が
非常にスリリングで、読むのをやめられませんでした。
理野が働く、今で言うと工房のような場所の社長(笑)である
羊遊斎という人は実在した人。作品も多く残っています。
巻頭にカラーで紹介されている作品たちの、何とも精緻で素晴らしいこと・・。
まさに、小さな宇宙。この作品の中で理野が作ったと設定されている
狐の嫁入りの櫛が、大きい写真で載っているのですが、これが、ほんとに
素晴らしい。この小さな櫛の中に、世界があり、物語がある。
こんな作品を作ろうと思ったら、これはもう、命がけの事だろうと想ったり
します。

えーっと、でも、たった一つ読んでいて気恥ずかしかったのは、
理野が、自分の作品世界を表現するのに、「女の情念」という言葉を
使う事。情念かあ・・。女が、女としての気持ち、心を持つのは当たり前で
それが様々な感情として渦巻くことも、もちろんあります。
でも、それを「情念」と言ってしまうと、何かがこぼれ落ちてしまう気がする。
些細なことです。でも、簡単に使ってしまう言葉の一つが、大切な想いを
のっぺらぼうにしてしまう事は、よくある事。
好きな人を、好きと云うこともできなかった理野の悲しみや、苦しみ。
でも、誰かを愛していたくて、心にぽかりと穴があく寂しさ。
彼女の気持ちが、しっかりと書き込まれているだけに、それを「情念」と
いってしまうと、余計な手垢がついてしまう。
そんな簡単な言葉を、この「美」に対する繊細な感性を描く小説の中で
使ってほしくなかった。こつん、とこの言葉にぶち当たるたびに、小石を
噛んでしまう感じでした。

私は乙川さんが描く女性がとっても好きです。
いつも、一生懸命生きてるから。
その時々の時代と、運命の中で、頭を上げて、まっすぐ生きていこうとする
主人公たちに、いつも心洗われます。
数少なくなってしまった、自分から読みたい時代小説を書かれる作家のお一人です。
次の作品も、楽しみです。

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