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zoom RSS 怪訝山 小池昌代 講談社

<<   作成日時 : 2010/06/14 00:36   >>

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画像梅雨に入ったようです。一日中、雨。
珍しく家にいた週末は、目が溶けるほど眠い。
ぼんやりした頭でこの作品を読んでいたら、
どこまでも地中に沈み込んでいきそうな気がした(笑)

この人の作品を読んだ事があるように思うのだけれど
何を読んだか思い出せない。言葉に力のある人だから、
忘れるはずはないと思うのだけれど・・・。
奇妙な味わいの中篇が三つ。
「性」が中心にデン、と据えられ、その周りを所在なげな
人間がうろうろする。怖いから、あまり近寄らんとこ、と
思いながら、やっぱりにじり寄って行って、ずどん、と
暗い穴に堕ちる。もしくは、いやな所に迷い込んで
汗をかいてしまう感じ。うーん、汗というより「汁」(しる)かな。
その汁で小説書いたら、こんな物語になりそう・・。
そういえば、「ことば汁」という作品を書いてはったような気が(笑)

「怪訝山」の主人公のイナモリは、いかがわしい絵を、
女たちを使って売りさばく会社に勤めている男。
彼が仕事の無い時に逢いにいく女の名前が「コマコ」という所に
笑ってしまった。川端康成の「雪国」で、主人公の男が夜の底を
渡って逢いにいく女が「駒子」だったなあと思って。
「雪国」の駒子は、美しい芸者さんだったけれども、
この主人公が逢いにいく「コマコ」は、太っちょで、野卑で、男のような
話し方をする、あけっぴろげな女。
彼は、山のようなその女に埋もれにいく。
コマコにいざなわれるままに、洞窟の中に迷い込み、
その中でコマコの肉の中に埋没する。
そのまま消滅できたら、幸せ・・という現代文学的なシチュエーション
なんだけれど、そうは簡単にいくかいな、というのが持ち味ですね。
図式的には「自然への回帰」とか、「失われた人間性の希求」とか
言ってしまいそうになるんだけれど、小池さんの描く「汁」は、そんなに
簡単に出てくるもんじゃない。山奥でぶよぶよの塊になってしまった
コマコから逃げだすのだが、帰還した彼を、今度は美枝子という女が
山になって待ち構えている。
捕まっちゃったねえ・・と、ちょっといい気味だと思うのは、私が女だからか。
川端康成の小説の、グロテスクなまでの美しさを私は愛しているけれど
「女」を「美」として扱う、徹底的な冷たさに、時折深いところで反感を感じる
事がある。女に対する男性的視線に対する反感、というか。
その川端の「駒子」と正反対のコマコが、雪国へのアンチテーゼだとしたら
面白いな、と想う。

二つ目の「あふあふあふ」は、真面目に小心者として生きてきた男が
「町内」というちっさい枠の中で悪い噂を立てられてるうちに、罠に
はまるように「覗き」をしてしまう話。
これもまた、捕まっちゃうんですよ、最後に。こっちは警察にだけれど。
これも、やっぱり、ちょっといい気味だと思う。
そんな意地悪さが、心の底からふわっと浮かび上がってくるのは
何だろう。男性の中にある、女に対する「甘え」というか、無防備に
自分を投げかけてこられる事に対する、苦々しさが喚起されて
しまうのかもしれない。
いつも思うんですが、男の人って無防備じゃないですか。
基本、女に、にこにこ受け入れて貰えて当たり前、と思ってる節がある(笑)
女は、男を受け入れるたびに、ちょっと痛んでる所がある。
その痛みを知らない男に対する、密かに持っている棘が、ちくっとして面白い。
川端の「眠れる美女」では、女は無防備に見られるだけだった。
その為に薬まで飲まされて「見られる」。
この作品では、覗かれる女と覗く男の力関係が逆転するんですね。
「見〜た〜な〜」って、いきなり女が変貌する。
あったりまえじゃん、って「ふふ」って思えることの楽しさと言ったら(笑)
何や知らん、今日は、私、意地悪やな。

三つ目の「木を取る人」だけ、語り手が女性。
急にいなくなってしまった義父の事を語る言葉にじわっと滲んでいる「気配」が
色っぽい。不在だからこそ膨れ上がっていく義父の気配に、今度は女が
にじり寄っていく。一生言葉にしないままの恋情・・ともいえない性の気配が
うまく描かれているなあと思う。
連想したのは、やっぱり川端の「山の音」。あれは、義父の立場からの
嫁に対する想いを描いたものだった。
これを反対の立場から書いた小説って、あんまり無かったかも。
ゆらゆら揺れて、沈み込む感情のひらひらを、裏表紙の金魚のように
描いてあるのが美しかった。

言語感覚の繊細な人です。
紡ぎ出す言葉に力があり、生命力がある。
独特の文体があるのが、いいなあ。
詩人でもあるんですね。やっぱりなあ・・。
他の作品も読んでみよ。

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