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zoom RSS くじらの歌 ウーリー・オルレブ 母袋夏生訳 下田昌克絵 岩波書店

<<   作成日時 : 2010/07/22 02:07   >>

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画像なぜだろう、一目みた時に、予感のように心通じる本がある。
「待ってたよ」という、本の呟きが聞こえるんですよね。
私のこの予感は、まず外れた事がない。
久々に「来た!」と予感の働いたこの本は、これから
何度も読み返す心の友になりそうです。

主人公は11歳の男の子、ミハエル。
アメリカで生まれ育った彼は、祖父の住んでいる
イスラエルに一家で移住します。
おじいちゃんのお屋敷はいろんな古い道具や骨董、
本がいっぱい詰まった宝箱のような家。
元々「物」に対する深い愛情を持つミハエルは、
そこに住むおじいちゃんと、心通わせていきます。
まるで魂を分け合っているような二人。
そして、おじいちゃんには、ある才能がありました。
それは、人を自分の夢の中に連れていく能力。
二人は、夢の世界を共有しながら、より深く心を
繋いでいく。しかし、おじいちゃんには、老いの影が
日に日にしのびよってくる・・・。

この物語には、様々な魅力が詰まっています。

まず、このミハエル、という男の子と、彼のおじいちゃんの、
人間的な魅力。彼らは、物の心がわかる。物の値段的な価値、
というのではなくて、そこに込められている人の想いや、祈りに想いを
馳せる事が出来る。そして、自由に羽ばたく想像の翼を持っている。
彼らは、様々な愛するものを二人で見つけていく。
古いレコード、足踏みミシン、昔のおもちゃ、ゲーム、骨董の家具。
愛するものを自分で見つけ、慈しんでいく。
そんな人生の喜びを、ミハエルはおじいちゃんと見つけ、おじいちゃんは
心柔らかいミハエルによって、その喜びを再び心新たに自分に刻む。
二人の眼差しの優しさに、心震えます。

そして、二人が彷徨う夢の世界の、奇妙で深い美しさ。
タイトルになっている、二人で見るくじらの夢。
自転車に乗って空を飛ぶ、宮崎アニメを体感するような浮遊感。
「現実がちょっとゆがんだ夢」とよぶ、人の深層心理や、心の裏側を
覗き見るような世界は、ミハエルに人という存在の不可思議さを
教えていきます。人の心には、見えている以上に、深い暗闇と
果てしない奥行きと、何かしら永遠と繋がる鉱脈がある。
おじいちゃんと、彼の夢の中を旅しながら、ミハエルはそれを
肌で学んでいく。その心の旅の、何と魅力的なこと。
宗教も、人種も、言葉の違いも、何もかもを超えて、この二人が
出会っていく風景は、誰しもが持つ心の中の懐かしい場所であり、
脈々と流れる、真実の在りようを映したものだと思います。
この物語は、綺麗事だけでは出来ていません。
おじいちゃんの傍にいて、常にミハエルに嫉妬心を燃やす
「公認の」家政婦さん、という女性も出てきたりします。
おじいちゃんは、ミハエルに言います。
「嫉妬は愛の暗いがわなんだ」
夢の中で出会う、ミハエルを引っ張り合う、二人のおじいちゃんの
姿に、ミハエルは怯えますが、おじいちゃんは、そんな自分の
暗い影も、包み隠さず孫に見せていきます。
ある意味、危うい旅とも言えますが、その危うさに触れることが
あって、初めて人は心の眼を開く事が出来る。
この二人の夢の旅・・ぜひ、たくさんの子ども達に読んでもらいたい。

ミハエルは、おじいちゃんから夢の鍵を受け継ぎます。
二人でくじらになって泳いだ夜の海で、言葉ではない言葉で
語り合っていたように、ミハエルはずっとその鍵を持っている事で
おじいちゃんと繋がっている。
夢の鍵は、心の自由を開くもの。決して失くさない想像の力を
持ち続けること。
耳を澄ませば、聞こえないはずの音が聞こえ、見えないはずの
世界がミハエルを待ち受ける。それこそが、人間なのだという
心の讃歌が、この一冊に詰まっています。
装丁も、挿し絵も、心ゆくまで考え抜かれた気持ちよさ・・。
こういう仕事は、実に岩波らしくていいですね。

作者のウーリー・オルレブは、苦しい戦争を体験している人。
ユダヤ人である彼は、ゲットーや、収容所という地獄の場所を
経験しています。その彼の紡ぐ物語が、人の暗闇も見据えながら
こんなに暖かいユーモアと、愛情に満ちている。
その事にも心打たれます。
図書館で借りたんですが、今、アマゾンで在庫見たら、3冊って(びっくり)
あわてて、ポチっとしてしまいました。
地味な本だから、あんまり作ってないんかな?
危ない、危ない・・。

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