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zoom RSS 皿と紙ひこうき 石井睦美 講談社

<<   作成日時 : 2010/07/31 00:05   >>

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画像石井さんの物語は、いつもとても繊細で素敵です。
「心が動く」という事は、誰しも日々感じている事だけれど
その動きがさり気なければさり気ないほど、言葉にするのは
難しい。ふと吹いてきた風に波立つ、心のあれこれを、
風の匂いや、その時に映る空の色まで含んで文章にするのは
よほど言葉に対して感性が鋭くないと出来ないと想う。
石井さんの文章は、難しい言葉を使わず、見事にそれを
やってのける。この物語も、一人の少女の心象風景を、
丁寧に描き出して、爽やかです。

主人公の由香の家は、九州の陶芸の里にあり、
先祖代々続いた陶芸を生業としている。
家には、土をずっと動き続けている大きな臼がある。
ぎーっ、とん。ぎーっ、とん。その音を聴いて育った由香は
自分もそこで生きていく事が自然だと想っている。
ある日、由香の学校に、伊藤卓也という一人の転校生がやってくる。
東京からやってきた洗練された物腰の彼に、同級生たちは
騒然となるが、いつまでも馴染もうとはしない彼に、
いつか不穏なうわさが立ち始める・・。

この由香という女の子が、穏やかな湖のような、素敵な
女の子なんですよねえ。彼女は、幼い頃から、
鳴り続ける臼の音を聴いて育ってきた。彼女はそれを「恐竜」と
呼んでいるんですが、その音が、自分が生まれる前から、連綿と
続いている事を感じて育ってきている。それが、彼女の中で、
確かな芯となっているんですね。繋がってきた命の重みや、
守り続けてきたもののかけがえのなさ、それを理屈でなく
心で感じている彼女は、人に流されない静かな強さを持っています。
そんな由香は、静謐で、人の心を受け取る「皿」。
それに対して、東京からやってきて、クールな面持ちで同級生たちの
コンプレックスや憧れを刺激し、また去っていく卓也は紙飛行機。
ほんの一瞬、心を交差させた二人の、それぞれに揺れた気配が
余韻のように残るのが、美しかった。

「心」はいつも危険なものを孕んでいる。
この物語の中でも、動物たちを陰惨に殺害する事件が起こる。
いつまでも自分たちに馴染まない卓也が、その犯人ではないかと
同級生たちはひそかに囁く。何の確証もないのに・・。
そんな「よそもの」である卓也に対する共同幻想のような悪意を、
私たちはいつもどこかに持っている。
「あれをしたのは、たくさんのぼくたちじゃないかなって」という卓也の
言葉は、その悪意を持つ人間の普遍性に対する認識だろうと思う。
しかし、一方で、人は静かに土をこね、連綿と続く営みを守り、
美しい皿を作り続ける。それもまた、「たくさんのぼくたち」の
営みなのだ。私は・・私もまた、心に弱さと危険をはらむ人間だから、
こうして、恐竜の足音を聴くように、物語を読み続けるのだろうと思う。

装丁も優しい感じで、好感が持てます。
夏休みの読書に、いい一冊。
でも、こういう本は課題図書にはならないですねえ(笑)

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