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zoom RSS シューマンの指 奥泉光 講談社

<<   作成日時 : 2010/09/08 03:14   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 4 / コメント 0

画像8月最終土日、ENDLICHERI☆ENDLICHERIのツアーに
行ってました。で、終わってからこの方、ずーっとライブレポ
書いてました・・。で、それが終わったら今度、脱力して
ちょっと腑抜けになりまして(笑)
やっと、少しだけ人間に戻って、この本を読んだのだが、
二日間のライブで「音楽」について色々考えたところだったので
この本に書かれている「音楽」も興味深かった。

物語は、語り手の「私」が昔を振り返る形で進行する。
ドイツに留学した友人からの手紙に、一人のピアニストに
再会したことが書かれている。
しかし、そのピアニストである、永峰修人は、昔ある事件で
シューマンと同じ、中指を失っているはずなのだ。
そこから、ピアニストを目指し、音大受験を目指す「私」の前に現れた
天才・永峰修人をめぐる回想が始まる・・。

死体も出てくるし、謎もありで、ミステリーとして読んでも面白いと
思うのだが、やはり読みどころは、あちこちで展開される、音楽論
でしょう。シューマンについて、通りいっぺんの知識しか持たない
私が「面白い」と思うのだから、クラシック好き、シューマン好きの
方が読んだら、これはけっこうツボにはまるんではないかと思う。
特に、修人が夜の音楽室で奏でる幻想曲についての描写は、
圧巻だ。私のように、言葉からイメージが湧く人間には、堪えられない
美しさ。こんな言葉で語られたら、シューマンもさぞかし満足だろうと
思う緻密さだった。

ネタばれになるので、あまり詳しい展開は書かないけれど、
この作品全体を覆うのは、音楽という「美」に取りつかれてしまった
狂気ですね。ほんとに、この「音楽」というのは、一回性の魔物です。
どんなに美しい演奏も、一回きり。絶対帰ってきません。
もちろん録音する事も出来るけれど、しょせん録音。
その時の空気感、音の伝えてくる風圧というか、迫力というか。
そんな五感をフルに使っての体感は、ほんとに一回きりなんである。
そのあたりが、絵画や小説と、決定的に違います。
だからこそ面白いとも言えるし、だからこそ辛い面もあるでしょう。
完璧な演奏・・なんて無いんだろうと思う。
その、「無い」という天秤の反対側に、「絶対的な音楽」がある、という
ものが乗ってしまうと、こういう狂気に落ちてしまうのかもしれないですね。

私も、よくライブに行きますが。
この夏も、ENDLICHERI☆ENDLICHERIのライブに3回行ったんですよね。
「同じライブ行って、飽きひん?」と云われるけれど、これが、やっぱり、
一回一回、絶対的に違う。特に剛くんのライブは半分くらい即興なので
その時々の彩りや輝きがあって、何度行っても馴れないというか、
その時にこぼれ落ちてくるものが楽しくてやめられない。
特に、今回のライブツアー最終日には、「奇跡」と思える瞬間がありましたねえ。
ダブルアンコールも入って、4時間半近いライブだったんですが、その最後の
最後、全くの即興から生まれたバラードが素晴らしかった。
以前にも書きましたが、彼は音楽を「捧げよう」と思っている。
オーディエンスに、今自分が生きていることに、自分を支えてくれる全てに、
ここに繋がる全ての命に、捧げようとして音楽を鳴らしている。
その高まりが最高潮に達して、無私になった時に、ふっとどこかから
やってくる音楽の神様からのプレゼントのようなバラードでした。
それは彼の才能や努力、その日のテンション、観客の送る喝采、
一緒に音楽を奏でる人の力量・・。
すべてが溶け合ってのものだろうと思うけれども、音楽には、それが
奇跡と思えるような瞬間がある。でも、多分その奇跡は・・「捧げる」という
気持ちからしか生まれないのじゃないか・・そんな気がしました。

だから、この修人が・・というか、主人公が月の夜に、一度だけ叶えた
至上の音楽の記憶が、切なかった。その至上の音楽を誰も聴いていなかった、
というのが、この物語のキモですよ、私としては。
誰も聴いていなければ、その音楽は無かったことなんですから。
完璧な音楽が、実は無かった。ここに、この修人の苦しみがあるのかも
しれないですね。

修人が語ったシューマンの楽曲への理解と愛情は、まっすぐな
美しいもので、その言葉は、奥泉さんのシューマンへのラブレター
なんでしょう。よっぽど好きじゃなければ、こうは書けない。
そして、修人の狂気と、シューマンの狂気は重なっていくものなんだろうと思う。
シューマンには詳しくないけど。
「美」の悲しみというか。音楽の一回性の悲しみというか・・。
そんなものが胸を焦がす物語でした。

でも、帰ってこないから、一度で失われてしまうから、かけがえなく美しいんだと
私は思います。でなければ、誰が音楽をその場に聞きにいくもんですか。
CDでは体感できないものを、そのたった一回を求めて、聞きにいく観客が
いる・・それが音楽のいいところ。そう思います。

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書籍「シューマンの指」才能というこの不可解さをミステリーで
「シューマンの指」★★★★ 奥泉 光 (著),、講談社 、2010/7/23/1版 ( 322ページ , ¥ 1,680 ) ...続きを見る
soramove
2010/10/28 21:23
「シューマンの指」感想
映像化出来ない様な内容なのが面白い反面、そのオチが・・・賛否両論だろうな。 ...続きを見る
ポコアポコヤ
2011/02/04 10:50
奥泉光『シューマンの指』
シューマンの指 (100周年書き下ろし)奥泉 光講談社 ...続きを見る
itchy1976の日記
2011/02/28 19:15
シューマン愛
小説「シューマンの指」を読みました。 ...続きを見る
笑う学生の生活
2011/08/06 14:31

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