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zoom RSS まつりちゃん 岩瀬成子 理論社

<<   作成日時 : 2010/10/29 01:39   >>

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画像先日、理論社の事を書いた時に装丁の事に触れたんですが、
この本も、まずこの装丁の良さに、心惹かれました。
四角い、窓の小さな家の扉から、ほんとに、小さな小さな女の子が
覗いています。家の大きさに比べても、この女の子は小さくて、
か細くて、何だかとってもいたいけな感じなんです。
手を差し伸べたら、消えてしまいそうな・・家の扉の奥の闇に
溶け込んでしまいそうな風情。この女の子が、まつりちゃんです。

まつりちゃんにまつわる短編が8つ収録されています。
初めのほうの短編では、まつりちゃんの事情は明らかにされません。
ただ、小さい子が一人でいるには、不似合いな場所にいる。
そして、まつりちゃんは、いつもひとりです。
町のコンビニや、河原や、公園で、カーテンを引いた家の中で、
ポツン、と一人でいるまつりちゃんと、触れ合う人たちの、
ほんとに小さな小さな接点が語られていきます。
まつりちゃんは、普通の小さな女の子と少し違う存在感を持っています。
それは、薄い肩のあたりに滲んでいる、理不尽の中を生きている気配の
ようなもの。小さな自分のままで、じっとこの世界の重みに耐えている。
そんな気配がして、私は一つめの「おお、川だ」から、ドキドキしてしまった。
理不尽を抱えた妖精のようなまつりちゃんは、出会う人たちの心の中に
そっと入ってくる。そして、違う世界からやってきたもののように、
不思議な煌めきを残して去っていく。その煌めきが、とても儚げで美しい。
そう、まつりちゃんは「非日常」の存在なのだ。
この社会の枠外にひっそりいる、その気配が、人の心を照らすのである。

お話が重なるにつれ、まつりちゃんの抱える事情も段々明らかになってくる。
なぜ、彼女が一人でいるのかもわかってくる。
それを書いてしまうと、ネタばれになってしまうから、あまり書かないでおこうと
思いますが。まっさらなところに、点々を打つように、まつりちゃんの
足跡を追っていくうちに見えてくるその事情は、私たちの社会に口をあけている
落とし穴の一つだ。誰もが見たくない、関わり合いたくない、その落とし穴の
暗い縁にまつりちゃんはいて、一人でふんばっている。
言葉遣いが丁寧なのも、きちん、と言われたことを
守っているのも、ふんばっているからだ。
ふんばっている子を見ると、私はいつも切なくなる。
そんな彼女の小さな身体に張りつめたものが、それでも「人」の心に触れ合うとき、
じゅわっと溶ける。そんな時、小さなガラス玉のように転がり出るまつりちゃんの
言葉は、恨みごとでもなんでもない、彼女の周りの小さな小さな美と、
生きる喜びへのオマージュで、私はそれにも心打たれてしまった。
まつりちゃんのつぶやきのような「クモ」という短編は、そんな彼女の、
一人でいることで、蓋をしたままうごめいている気持ちと、研ぎ澄まされていく
感性が、見事に書き記してあって・・心がきゅうっとした。

この世は理不尽で出来ている。そして、弱いものにはとことん噛みつくように
出来ている。この世界で対等な契約が交わされるのは、同じ力を持つ者同士だけ。
弱いものは、騙していいし、搾取していい・・・それが資本主義というものである。
そんな大人の騙し合いに、一番傷つくのは子どもだ。
でも、この物語は、いわゆる「可哀そうな子」を描いたものではない。
まつりちゃんも、彼女を取り巻く人たちも、幸福への意志を捨てずに生きている。
その中で、まつりちゃんの感じている小さい幸せは、この世界を読み解く鍵だと思う。
最後の短編に出てくる「アリさん」のように、ゆっくりゆっくり歩きながら
自分の生活の中の美しいもの、輝いているものを感じて生きるようになりたい、と
まつりちゃんのお母さんが言っているけれど、まつりちゃんにはとっくに、そんな事は
わかっている。そんな小さな喜びを見失っていく大人が増えれば増えるほど、この世界は
生きにくくなるような気がするんだなあ・・・ほんとに。
この本は、大人の方に、ぜひ読んで欲しい。

心に響く素敵な一冊でした。
やっぱり理論社だよね、こういう本が出せるのは。図書館で借りたけれど、
これは買おうと思います。理論社頑張れ!!

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん、こんにちは(^-^)日に日に冷え込んでまいりましたが、お元気にお過ごしですか?勝手ながら少々心配になっておりました・・・。

初めの方、ふと現れて消えてしまうまつりちゃんが、ちょっと、この世のものではないような(笑)感じがしてドキドキしながら読みました。事情がわかって、あぁそうかと思いながらも、それでもこんな小さな子供が独りなんて・・っと、現実的に憤ってみたり(苦笑)
でも、まつりちゃんと触れ合う皆さんの心に小さく灯るものが、あたたかくて・・。生きてるということが、嬉しくなってくる・・。そんな素敵な物語でした。
本当に、この世は理不尽が溢れていて・・。真面目に生きている人が報われる訳では、決してない。それでも人の心は、そんなものに負けない強さや美しさを絶対に持っているはずですね。昨夜読み終えて桃の散歩に出た時に見た星は、いつもよりずっと輝いて見えました゚・*:.。.
ERIさんのおっしゃるように、装丁もとっても綺麗で・・。う〜ん。私もこの本欲しくなってきましたよ(*^◇^*)(笑)

2010/11/11 09:50
>花ちゃん
ご心配かけました。ごめんなさいね。大丈夫です。また、ぼちぼちやっていきますので、よろしくお願いします(*^-^*)
私も、まつりちゃんのあれこれをどうしても現実的に考えてしまいましたよ。つい、母性本能が全開になりますよね。ひっそりとニャンコと暮らすまつりちゃんの夜を想像してしまったりして。この世界のあちこちに、私たちには見えないまつりちゃんがいる・・そんな気もします。岩瀬さんの書く女の子は、いつもとっても小さくて、この世界の生き難さをそっと見つめてる。その気配がとても好きです。そっと時々読み返したくなると思いますよ〜(^◇^)
ERI
2010/11/11 21:19

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