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zoom RSS この世のおわり ラウラ・ガジェゴ・ガルシア 松下直弘訳 偕成社

<<   作成日時 : 2010/12/03 23:04   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 4 / トラックバック 0 / コメント 1

画像この方の本を読むのは2冊目です。
前作の「漂泊の王の伝説」がとても良かったので、
期待しながら本の扉を開きました。
読み始めたら、やはり止まらず(笑)
この本が、20歳でのデビュー作だったらしいのだけれど、
そう想わせないほど、力強い作品になっています。

紀元997年、フランス。
襲撃された修道院から、貴重な写本を持って、命からがら
抜けだした修道士・ミシェルと、旅から旅へと放浪しながら
歌い続ける、吟遊詩人・マティウスが出会う所から、物語は
始まります。ミシェルが持ちだしたのは、「この世の終わり」に
ついて書かれた写本。それによると、紀元1000年に、この世界は
終わりを迎えるという。千年に一度、計り知れない力を持った
「過去の時間軸」「現在の時間軸」「未来の時間軸」という
3つの胸飾りを誰かが集めて、「時をつかさどる零」を呼びだして
お祈りをし、人間が次の1000年を生きるに値するかどうか、
裁いてもらう必要があるらしい。その使命を、自分が果たさねば
ならぬと心に誓うミシェルは、マティウスについてきて欲しいと頼む。
いったんは断ったマティウスだが、いかにも世なれない
ミシェルを放っておけず、二人は一緒に旅をすることになる。
様々な困難を乗り越えながら、二人はひとつひとつ、胸飾りを
手に入れていく。途中、ルシアという、女でありながら吟遊詩人を
目指す少女も仲間に迎え入れ、一行は最後の胸飾り、「未来の時間軸」を
求めて、はるばる船に乗り、ブリタニア(イングランド)
にまで旅をする。最後の目的地は、「石の輪」。だが、ミシェルを利用して、
胸飾りを手に入れようとする秘密結社や、自分がこの余の支配者に
ならんとするレディー・アリノールの邪魔にあい、絶対絶命のピンチを迎える。
はたして、3人は、「この世の終わり」を阻止できるのか?

この物語は、マティウスとミシェル、という対照的な二人の旅が軸です。
この世界の現実を、嫌というほど見てきたマティウス。
それに対して、修道院の中で、勉学にいそしんできた、ひたすら
純粋な理想に燃えるミシェル。
その彼に、マティウスは言います。
「現実の世の中は本にえがかれているようなものじゃないし、
さらに千年続かせたいほど、美しいものじゃない」と。
これは、また更に千年が経った今でも、変わらぬ現実です。
吟遊詩人として、「現実」を嫌になるほど見てきたマティウスの
この想いは、「今」を生きる私たちの虚無感に繋がるもの。
それに対して、ミシェルは、あと千年あれば、人間はより良いものを
築くことが出来る、と想っている。人の、理想に向かっていこうとする力を
信じている。現実主義と、理想主義、という言葉に置き換えてもいいかも
しれないほど違う、二人。
でも、この二つは、全く違うようでいて、常に私たちの心の中で
繰り返される問いでもあります。
その問いは、個人的なレベルから、世界の政治的なレベルまで、常に
人を二分し、永遠に繰り返される問い。

その全く違う二人が、一緒に旅する事によって、お互いに影響を
与えあい、自問自答を繰り返しながら、固い絆を結んでいく。
そこが、この物語の読みどころ。
「見捨てられない」と道連れになったミシェルに、マティウスは段々
惹かれていく。ミシェルには、打算や、欲が、何もない。
ただ、この世界を救いたい・・その一心のみなんです。
その願いが、段々マティウスの旅に目的を与えていく事になります。
一方、ミシェルは、それまで知らなかった現実を、マティウスと旅する事に
よって学んでいきます。たった一日だけの村人の祭りを踏みにじり、
殺戮を楽しむ騎士の姿。働いても働いても報われない、貧しい生活。
胸飾りを自分のものにしようと付け狙う秘密結社。
自分だけなら、きっと挫折していた理想の横に、現実を支えるマティウスが
常にいてくれること。それが、ミシェルを支え、進ませます。
この物語を読みながら、私たちはマティウスとミシェル、そのどちらもが
自分の心の中にあることを知ることになります。
その二人の道のりを、心の中を一緒にたどりながら、自分がこれから
どこに行きたいのか、何を求めて生きるのかを、自ずと考えさせられてしまう。
「漂泊の王の伝説」もそうでしたが、この作者の作品は、
読むものに、人生を、生きることを考えさせる・・そんな力があります。

その二人の旅がたどりついた、最後の目的地。
人間に対する、裁きの日にマティウス、ミシェル、ルシアが見た
神のような視点からの現在と過去と未来は、圧倒的な絶望です。
過去にも、現在にも、未来にも、常にあるのは争いと苦しみ。
ほんとに、何千年たとうとも、どれだけの命を重ねようと、歴史を
どれだけ学ぼうと、私たちは愚行を繰り返す。うんざりするほど・・。
しかし、ミシェルは、そんな世の中で、何の見返りもなく自分を助け、
命までかけてくれた友がいることを知っている。
泣いたり笑ったり、愛し合ったり、慰め合ったり、助け合う心がある事を
知っている。そして、それが人間の希望そのものであることを信じて、
次の千年のために自分の命を捧げるミシェル・・。
作者の若い心が描く、その人間に対する愛情に、私は心打たれました。

ネットを見ても、ニュースを見ても、大概うんざりすることばかりで。
いい加減汚れてしまった私のような大人が見ていてもうんざりするのだから、
若い人が、ほんとに希望を持ちにくい時代だと思う。
だからこそ。物語の力が、私はますます必要だと思うんですよ。
報道や、情報は、人を驚かせてなんぼ、刺激的でなんぼ、の世界です。
でも、それだけでは、心は乾いていくだけ。奪っていくだけ。
物語は、たった一つのかけがえのない「心」に寄りそうものです。
理不尽で、果てしなく残酷なこの世界で「生きていく」ための物語。
私は、そんな物語に惹かれます。

この作者の他の作品も、ぜひ読みたい。
スペイン語は読めません。(英語だって読めへんやん!)
HPを拝見したところ、たくさんお書きになっているようなんですが・・。
翻訳が待たれます。

2010年10月刊行 偕成社

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
この作者様の作品、本当に良いですよね!私はこの本から作者様にハマりました。素晴らしい世界観で、才能を感じました!もっと多くの人に読んでいただきたいです!
くり
2016/09/08 17:47

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