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zoom RSS オラクル・ナイト ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮社

<<   作成日時 : 2011/01/02 01:25   >>

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画像お正月ひとつめに読んだ本ですが。
読書の喜びを堪能させてもらえる一冊でした。
「オラクル」(oracle)というのは、神託、という意味。
神の一撃が降ってくる夜。抗いがたい、理不尽が人に降る。
偶然なのか、必然なのか、逃れ難い人生の糸に
がんじがらめになっていく人間の営みが
見事に描き出されていきます。
構成の見事さ、文章の的確さ。洗練された物腰がそこかしこに
漂って、心憎いほどかっこいい。惚れてしまうわ〜!と
想いながら、読み終えました。

多重構造の、非常に凝った構成です。
まず、本筋は、シドニー・オアという、大きな怪我をしてまだ回復途中にある小説家の日常。
そこに彼が青いノートに書く、編集者の男を主人公にした物語が挟み込まれます。
その物語の中の編集者ニックが携えている原稿が『オラクル・ナイト』という、これまた物語。
物語の中に、劇中劇の様に物語を入れこんでいく手法は、オースターのお得意ですが、
今回は、もうひとつ、(注)の形で、シドニー・オアの人生の物語が、あちこちに挿入される。
シドニー・オアの日常は、彼と、愛妻のグレースと、シドニーの父の友人で有名な小説家の
ジョン・トラウズが中心になるんですが、そのトラウズの描く物語も、文中に登場します。
また、シドニー・オアが何とか借金を返そうと書く、映画の原案も登場する、といった具合に、
複雑な構成になっているのですが、これが見事に無理がない。
はっきり言って、最近頭が悪くなって、ややこしい本が読めなくなっている私にも、
全く混乱なしにこれらの入れ子になってる物語の進行が頭に入ってくる。
翻訳された柴田さんがおっしゃっているように、音楽的な快感にも似た見事な展開です。
こう書くと、オースターがさも技巧に走っているように思われるかもしれませんが、
職人芸のようなこの構成を、オースターは、技巧のためにしているわけではないんですよね。

全ての物語が響きあい、徐々に緊張感が高まっていくのがわかるんです。
シドニー・オアが人生で一番大切にしているもの。
それは、一目ぼれで、あらゆる努力と奮闘を経て得た美しい妻。
しかし、その妻の佇まいに、少しずつ不穏な影が漂い始める。
この小説の鍵は、その暗い気配が、常に彼の描く物語に先に現れていること。
命にかかわるほどの怪我をしたあとの、生と死の狭間を漂うような場所にいる
シドニーは、あらゆる意味でもがいている。世間からまだ切り離されているような
密室の精神状態の中で、彼が感じとっていくものが、物語の中で、また物語として
言語化されていくのですが、それが悲しい予言のように、物語の密度をあげていくんです。
一度言語化されたものは、命を得てしまう。それが、「oracle」・・神託でもあり、
人間の人生という、非常に数多くの偶然に支配されているものの理不尽さが
神託ということでもある。私たちが何げなく生きている上で内包している物語の
不思議と奇跡と・・悲しみが、オースターの手によってあぶり出されます。

蜘蛛の糸のように絡んだ人生の物語の上に、私たちは危うく立っている。
ややもすると、私たちはその糸が切れて、落っこちる。
シドニー・オアも、やはり悲劇に見舞われます。
オースターの物語の主人公は、往々にして全てを失くしてしまう。
でも、私がオースターを好きなのは、全てを失った所から、また何かが必ず始まる気配があること。
このシドニー・オアも、人生で大切なものを失くしてしまいます。
しかし、最後の最後、激しい痛みの後で彼に届くものがある。
その温もり。裏切りや、欲望や、ありとあらゆる醜さが飛び立ったあとで、最後に灯る、
ともしびのような温もりの美しさが胸を打ちます。
そこにたどり着くための、オースターのひとつひとつの言葉の緊密さに舌を巻きました。
大きな満足感を以て、この本の頁を閉じました。
面白かったなあ・・。柴田さんの名訳ぶりは、言うまでもなく。
オースターと一体化してはるみたいですね。

2010年9月刊行
新潮社

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