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zoom RSS 純平、考え直せ 奥田英朗 光文社

<<   作成日時 : 2011/02/27 22:50   >>

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画像純平くんは、やくざの下っ端です。あまり恵まれない生い立ちから、やくざになった、典型的な(やくざさんのことはよく知らないので、典型的なのかどうかわかりませんが)鉄砲玉です。そして、鉄砲玉として「男になってこい」と親分に言われます。つまり、人を殺して刑務所に行ってこい、ということ。この物語は、親分にそう言われて決行するまでの三日間の物語。シャバとムショ、あちらとこちらの間にある、宙ぶらりんの三日間。その間に純平が出会う人、風景、空気が奥田さんらしいさり気ない緻密さで描かれています。何もかもが違って見える三日間。歌舞伎町のネオンよりも(って、歌舞伎町に行ったこともないですけど)鮮やかな三日間です。

何だかねえ、読んでいて切なかったですよ。惚れた女も、いつも食べてる回転ずしも、食べ慣れてる焼き肉も、いつもと違う輝きに満ちて純平を魅了する。鉄砲玉になる前やのに、回転してない寿司や、高級ステーキを食べにいけないほど世馴れていない、ほんとにただのとっぽい男の子なんですよ、純平は。うちの息子たちとおんなじ年齢。いっぱしの大人のふりしてて、実際は、なあんもわかってない子どもです。若いから視野もせまくて、融通がきかない。これしかあらへんのや、と思いこむ。ほんまはそうやないのに、狭い道しか見えない。そして、純平は寂しい子です。家族にも友達にも先生にも恵まれなかった。心のどこかで自分が利用されてるだけ、と知りながら突き進んでいこうとするのは、やくざの世界が疑似家族やからです。杯交わした義兄弟、なんてお定まりの都合のいい上下関係なんですけど、そこしか自分の居場所がなかった彼は、いつもはその上下関係の中だけで「上か下か」だけを見て生きている。でも、ぽかん、とその場所から離れて非日常になったとき、新しい目が純平の中に開けるんです。
その新しい目で感じる世界は、これまでとは違う奥行きと色彩。その世界の中で、純平の心の奥がちりちりするのがわかります。

彼は、心の奥底で、知っている。自分が利用されているだけの、馬鹿であること。綺麗ごとを唱えても、自分がこれからすることは、ただの人殺しであること。でも、何より耐えがたいのは、自分がいなくても、この世界がただ回り続けている、ということなんですよね。自分がいなくなっても、ほんとは誰も困らない。兄貴分も親分も、そして男と暮らしている母親も、これまで出会ってきたあいつも、こいつも、今自分と一緒にいるものたちも、誰も困らない。実は、人はこんなにも一人で孤独だということ。誰からも必要とされていない純平。でもだからこそ、純平は鉄砲玉として自分が生きていることを示すしかない。唯一それだけが、自分がここにいる証明だから。最後、純平はたくさんの人に囲まれて、優しい言葉をかけられる幻想にとらわれます。でも、目覚めれば、やはり裸電球のように一人。自分が誰かと繋がっていると証明するために、突き進んでいく彼の姿は、ある意味人間の孤独そのものだとも思います。やめりゃいいじゃん、と言ってくれるのは、ネットでの声だけで、それは徹底的に他人事だから言えること。その距離感は何万光年もあるように果てしなく遠い。純平がこの三日間に出会った暖かさは、別れることが前提の関係です。その束の間の温もりが、余計に寂しさを募らせる。だってねえ、ネット以外の所で出会った人は、誰も『やめろ』と言ってくれないんですよ。純平の人生を引き受けるのが怖いから、もめ事に巻き込まれるのが嫌だから。だからこそ、純平ががこれからするべき本当のことは、人を殺すことではなく、『純平、考え直せ』と言ってくれる人を作ることだったんですよね。一緒に純平の人生を背負ってくれる人を見つけ、関係を結ぶこと。そういう意味での、『純平、考え直せ』というタイトルなのかな、と最後まで読んで思いました。

余談ですが。ミランダ・ジュライの『いちばんここに似合う人』を読みました。評判の高い本だったので、結構期待して読んだんですが、どうも私にはあきませんでした。彼女の描く孤独は、上目遣いで読み手の気をひこうとするものに思えてしまった。寂しいの、という後ろ姿で抱きしめられるのを待ってるような孤独。私はどうもそういうのが苦手です。誰に抱きしめられることも諦めて、でも抱きしめられたいと正直にジタバタしてる純平の方が、人の愚かしさや、おかしみ、愛しさを以て受け止められるような気がします。純平、おバカさんなんですけどね・・。私も、若い頃はけっこうおバカさんで思いだすと「あっと叫んでろくろっ首」になってしまうことがいっぱいですわ(笑)それだけに、ほんと、『考え直せ』って、言ってやりたい。オカンの気持ちで読んだ一冊でした。

2011年1月発行
光文社

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純平、考え直せ
主人公は新宿歌舞伎町のチンピラ、坂本純平、21歳。兄貴分にはめられ、親分から鉄砲玉を命じられ、どうにも抜け出しようのない顛末を、この作者得意のやけにリアルで、面白いやら ... ...続きを見る
日々のことわり
2011/08/04 19:33

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