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zoom RSS ピエタ 大島真寿美 ポプラ社

<<   作成日時 : 2011/03/25 16:51   >>

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画像震災以降、何だか言葉がうまく出てこない。テレビを見たり、ツイッターを駆使して情報を追えば追うほど、いろんな思いが胸に溢れて、ぎりぎりいっぱいになってしまう。そして、ゆっくり家で本など読んでいる自分を、いつも心のどこかで申し訳ないと想ったりする。避難所の光景を映像で見るたびに、私があそこにいるとしたら、どんなにか本が読みたいだろうかと想ってしまう。被災した町では、図書館も壊滅してしまった所も多いだろう。今は、まず生活必需品が必要だと想うけれども、いろんな事が落ち着いたら、今度は心が求めるものが必要になるはず。何か出来ることがないか・・と、アンテナを張り巡らせていようと想う。で、今の私に何が出来るのかというと、こうやって言葉を綴ることくらいなんだと、やっぱりここに帰ってきてしまう。私は、私の言葉で語っていよう。それが何のためになるのかは定かではないけれども。

と、雑感はこのくらいにして、本の話。

これは、大島さん初の歴史人物を描いた作品。『四季』などの作曲で知られるヴィヴァルディが軸になっています。語り手は、ヴィヴァルディがずっと音楽監督を務めていた「ピエタ」という孤児を育てる施設で生きるエミーリアという女性。彼女と、ヴィヴァルディが関わった女性たちの人生が、静かな音楽のように紡がれています。
舞台は、水の都・ベネツィアです。華やかな歴史を持つ芸術の街にある孤児院、ピエタ。そこでは、音楽の資質のある少女たちが<合奏・合唱の娘たち>として音楽を奏で、演奏会を開催することで収入や寄付を得ている。自らも捨てられた子であり、今はピエタの為に働くエミーリアのもとに、ヴィヴァルディがウィーンで亡くなったという頼りが届く。ヴィヴァルディは、ベネツィアで一世を風靡した人気作曲家だった。その彼を、様々な立場から愛した女たちがいた。この物語は、エミーリアの視点で、彼の愛弟子のアンナ・マリーナ、恋人であった高級娼婦のクラウディア、ピエタで音楽を学んだお金持ちの娘・ヴェロニカ、人気歌手のジロー嬢、ヴィヴァルディの家族たち、といった様々な女たちから見たヴィヴァルディを描き出してあります。大きな才能を持つ音楽家であり、また、恋する一人の男であり、家族を養うくびきを背負った男であり、父に対する複雑な感情を持つ息子であり、弟子に愛情を注ぐ師匠である彼。人は様々な顔を持ち、ベニスの水路のように入り組んだ人生を生きている。その姿を、残された女たちが、それぞれの場所でそれぞれの楽器で奏で、描き出していく。そう、まるでオーケストラのように。ヴィヴァルディという芸術家をモチーフにして、描き出されるのは、その時代を生きた女たちの姿。ベネツィアという都の光や、その影にある痛みや、女たちの生きる悲しみや喜びや、恋が奏でる音が、静かに響き合って流れていくような、とても魅力的な物語でした。

音楽は「時」を強烈に感じさせる芸術だと思います。私たちの時間はとめどなく過ぎていくけれども、音楽は、その時間を強烈に意識させる。音楽は始まり、時を区切って静かに終わる。私たちの人生のように。生まれて死んで、生まれて消えていく。二度と帰ってこないから美しくて、聞くたびに何かが心に降り積もる。最後の、クライディアの葬送で唄われる名も無い歌の美しさが圧巻でした。この耳に、聞こえない音楽が届くような気がしました。

ヴィヴァルディの人生のあれこれが、彼を愛した女たちと共に消えてしまっても、その音楽だけがいつまでも鳴り響く。「よろこびはここにある」。音楽は、一人の作曲家が残すものだけれども、その音楽を支えて鳴らすのは、同じ時代に生きているたくさんの魂なのかもしれないと想ったりしました。だから、その音楽が残ることは、その「時」の重みも残っていくこと。私たちは、その時を積み重ねてここにいる。身体はなくなっても、心はなくならない。そう想って、この本の頁を閉じました。

2011年2月発行
ポプラ社

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