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zoom RSS ジーノの家 内田洋子 文藝春秋

<<   作成日時 : 2011/04/19 23:43   >>

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画像この本をお書きになった内田洋子さんについて、私は何も知らない。ただ、とてもシンプルな装丁のこの本に惹かれた。こういう勘はあまり外れたことが無いのだけれど、今回も見事に当たりでした。30年以上もイタリアに住んでおられる中で出会った「人」にまつわる話が10篇書かれているのだけれど、そのどれもが深い滋味を湛えていて心に沁みる。文章から伺うに、筆者はイタリアでその身一つで生きてこられた方らしい大人の女の風格と知性を備えた方らしいのだけれど、その一方で情にほだされやすくて感受性の強いところも多分にお持ちらしい。そして、何より「人」に対する眼差しが柔らかくて暖かい。いいものを読ませて頂きました。

イタリアの日常から生まれたエッセイが10篇。そのどれもが、イタリアに暮らす普通の人々の姿を穏やかな温度で書き記したもの。イタリアという異国を旅するのではなく、そこに住んで、じっくりと暮らしてきた内田さんならではの視点だと思う。気になることがあると、そこにじっくりと腰を据えてとことん感じてみたい方とお見受けした。だから、それぞれのエピソードに漂う体温がじっくりとこちらに伝わってくる。ミラノという都会から、イタリアの果てのような寒村、果ては海の上に浮かぶ船に至るまで、故郷をイタリアに持たない人ならではの気軽さで移住していく内田さんだが、そこには気苦労もイタリアならではの大変さもおありだと思うし、実際難儀なことが多いらしいのだが、それはどこの国にいても避けては通れないこと。私たち日本人には、ただ華やかに見えるイタリアだが、北部と南部の経済格差は大きなものがあるらしく、貧富の差の激しさも相当あるらしい。気候も随分違う。表題の「ジーノの家」は寒村から出てきた両親を持つ男の話なのだけれど、真面目一辺倒に生きてきた人生の哀感が漂って、何だかしみじみしてしまう。人間って、どこに生きていても人生は大変だとため息が出る一方で、皆がそれぞれの人生を、ただひたすら生きているのだということに、同じお日様を仰いで生きているもの同士の温もりを感じてしまう。大切なのは、一人一人のささやかな人生なのだなあとしみじみ思う。だからこそ、このエッセイのそこかしこに息づいている、人生をたくましく楽しむイタリアの人たちの後ろ姿を素敵だと想った。人生を楽しむ術を知っているのが、大人ということなんだな、きっと。
私はどうも小さなことに右往左往ばかりしていて、いろんな事で凹んでばかり。なかなか人生を楽しむところまでたどりつけなかったりする。読書のいいところは、こういう日常ではお目にかかれない素敵な女性に出会えるところ。この本の装丁に使われている青は、ラストの「船との別れ」に出てくるセストリの海の色なのかな。古い帆船のマホガニーの香りと優しい波音が聞こえてくるようなお話だった。内田さんの端正な日本語で描かれるイタリアを読んでいると、「月日は百代の過客にして・・・」と、なぜか思い出してしまったりしたのだけれど、それは多分人生を旅と捉える日本人としての美意識が強く感じられるからだろうとも思う。深い教養もお持ちなのだろう。異国にいてそれがより際立つのが、また素敵だなあと想う。じっくり何度も読みたくなる一冊です。

2011年2月発行
文藝春秋

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん、こんにちは。
ERIさんのおかげで、また素敵な本と出会えました。ありがとうございます。

>人間って、どこに生きていても人生は大変だとため息が出る一方で、皆がそれぞれの人生を、ただひたすら生きているのだということに、同じお日様を仰いで生きているもの同士の温もりを感じてしまう。

とても共感する言葉でした。ほんとですね。
わたしもすぐ凹みます。
でも、この本のなかの「普通の人」たちの話を読んでいたら、とても励まされた気持ちになりました。(実は恥ずかしくもあるのですが^^)
読書のいいところの話も同感です^^
素敵な出会いをありがとうございました。

ところで、わたしも『鬼ヶ島通信』入手いたしました♪
ゆっくり読書して、それから、また伺います。それまでERIさんのレビュー、お預けにしておきます。
ぱせり
2011/06/26 13:59
>ぱせりさん
こんばんは!コメントありがとうございます。
私って、ほんとに自分の生まれたところから、ほとんど出たことがないんです。外国なんて、実際にはほとんど行ったこともなくて。でも、本を読むことで、どこの国の人の心にも、ちゃんとこうして触れ合うことが出来る。そのことに、いつまでたっても新鮮な驚きを感じるのです。この本に出てくる普通の人たちの生き方や感情は、私にはとても近しい、心重ねられるものでした。そこがとても嬉しかったです。励まされますね、ほんとに。

『鬼ヶ島通信』の感想、待ってますね!
ERI
2011/06/26 22:50

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