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zoom RSS 抱擁、あるいはライスには塩を 江國香織 集英社

<<   作成日時 : 2011/04/22 01:40   >>

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画像江國さんの家族の一代記。大作です。
江國さんにとって「家族」というのは一つのキーワードだと思う。『流しのしたの骨』もそうでしたが、家庭、家族というのは、一歩離れて眺めると、不思議なことが多いもんです。その家だけの習慣があり、合言葉があり、食生活がある。当たり前のようだけれど、私たちは育った家庭のあれこれにすっかり影響されて生きている。そこから出ていく初めての機会が例えば幼稚園であり、学校であるだろうし、もっと言えば、結婚する時には、どうしても相手の家庭と関わらざるを得ないわけで、私たちは大抵そこで多かれ少なかれカルチャーショックを受けたりする。ところが、いざ自分が実家を離れて家庭を作ると、そこはまた新しい魑魅魍魎の巣になってしまうんですよね、これが(笑)例えば、私は今、数年前から母と同居している。私の結婚後二十ウン年を経ての同居だけど、母はこの家のあれこれに未だ馴染めていない。その事でぶつかる事もしばしば・・・。実の娘といえど、離れて長い間暮らしていると、全てにおいて、感覚的なものがどうしても違ってしまう。血が繋がっていてもこうなのだから、まこと、家族というのは何というか・・揺るがせに出来ないものなのだと思います。

この物語に登場する家庭も、まことに揺るがせに出来ない、自分たちだけの世界を持っている。大きな西洋館に住み、挨拶も頬をつけて抱擁し、子ども達は学校へ行かず、家で家庭教師に勉強を教わる。祖父母、両親、叔父、叔母、家に出入りする色々な人たちの中で暮らしていた子ども達は、ある日いきなり「小学校に行くことになった」と言われて、大いに戸惑う・・。子ども達は、いきなり入れられた学校にどうしても馴染めず、いじめられて結局すぐに小学校からリタイアしてしまうのだけれど、この冒頭を読んで、私は「あー、それも有りなんだよなあ」と思わずごちてしまった(笑)私自身、小学校、中学校というのがとても苦手で、特に小学校の時はこの物語の陸子のように嘔吐癖に悩まされていた時も多かったし。そして、その母の子である息子たちも、学校が苦手だったという、おまけ付きだったので、この柳島家の我が道を行く強さに、「負けたなあ」と想ってしまった。私も、ここに生まれたかった(笑)そんな親近感で読み始めたせいか、読み進めるうちに、自分もいつの間にかこの家の空気をえらく深く吸い込んでしまった。途中から、まるで、自分自身の懐かしい記憶のように思えたほどである。

この自由な柳島家のルールを作った竹治郎と絹という夫婦から始まった、家族3代の記録。家族それぞれの独白の形で、一方通行に語られる物語たちは、まるでパズルのピースのようだ。読者は、そのピースを繋ぎ合わせることで、段々この家庭の深いあれこれを知っていく。そして、私は思う。家族というものは、いつか別れるために一緒に暮らしているんだと。いつも美味しいご飯が用意され、熱いお茶を楽しみ、暗黙の了解の中で暮らしているこの家族の一人ひとりにも、決して他の家族には漏らさない自分だけの秘密があり、自分だけの想いがあることを、物語と共に私たちは感じていくことになるのだけれど、物語が進むにつれ、彼らは一人、また一人とこの家から離れていく。結婚し、自立し、または死と共に、家庭から旅立っていくのだ。自分だけの想いと共に。しかし、不思議なことに、私たちは家族に置いていかれることを、その瞬間まではリアルに想像出来ない。必ず別れることが決まっているのに、何故かずっと一緒にいることを大前提とした心理状態で暮らしている、この家族というものの心性の不思議なこと。それは、私たちの生に対する意識とも繋がっていることだけれども・・。大家族という郷愁にまぶして、その暖かさも毒も、喜びも悲しみも美味しく描き出してしまう江國さんの筆の抒情性に、酔わされてしまった。欺瞞も嘘も、真実も愛情も裏切りも全て飲みこんで、私たちは家族として暮らしている。それがいいとか、悪いとか、そんなことではなくて、そういう風に生きている。その事実が、江國さんの手にかかると、こんな風に美味しい物語に結実する、そこが素敵だった。屋敷のそこかしこの風景、美しい小道具、すべて江國さんだけにしか描けない魅力に満ちている。その美意識がとても楽しい一冊でした。


2010年11月刊行
文藝春秋

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