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zoom RSS いねむり先生 伊集院静 集英社

<<   作成日時 : 2011/05/07 23:09   >>

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画像【子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト】という活動が始まっています。東日本大震災の支援として、被災地の子どもたちに本を送ろうという活動です。そのプロジェクトの一環として、子どもの本の作家等による応援メッセージ、直筆画を販売して活動資金にするオークションがネット上でも公開されています。
こちらから
たくさんの児童文学や絵本作家の方々が作品を出品されています。その一つ一つに、たくさんの想いが込められているようで、思わずじっくりと眺めさせて頂いたのですが、その中で朽木祥さんが大好きな『かはたれ』『たそかれ』の一節を書いてらっしゃいました。私はその言葉がとても好きで・・・。思わずまた本を引っ張り出して一から読んでしまったという。特に『たそかれ』の、失ってしまった大切な人を、ずっと待ち続けていた銀色の河童の不知の想いに、胸震えるような想いがしたんです。これはまた項を変えてまた書きたいと思いますが、私はその不知の想いを読みながら、前日に読んだこの伊集院静さんの『いねむり先生』の中に流れていた空気に、はっと思い当たるところがありました。伊集院氏は、この『いねむり先生』こと、色川武大氏に、また先生に逢える日を待ち続けていたのではないか。ふとそう思ったとき、この作品に流れていた時間の暖かさと慕わしさが、改めて胸に迫るような気がしました。

主人公のサブローは、結婚したばかりの妻を病気で亡くしてから精神のバランスを失い、酒とギャンブルで荒れた生活を送っていた。ある日、Kという画家から、「先生」を紹介されたサブローは、ギャンブルの大先輩であり、高名な作家である先生と親しく付き合うようになる。一緒に旅をする中で、サブローは先生の優しさと大きさに触れ、段々自分を取り戻していく・・その過程が、じっくりと丁寧に描きこまれています。

旅打ち、つまりギャンブルをしながら流れていく旅を二人でしながら、サブローと先生は、少しずつ何かを重ねていく・・その気配が何とも含羞に満ち溢れていて、まるで二人の少年が旅をしているような気配なんですよね。先生もサブローも、いろんな人間の裏の道を歩いたことのある人だし、危ない橋を渡ったことも一度や二度ではないはず。その気配も濃厚に漂わせながら、それでも二人の交わす会話や想いの中にただようものが、純なんです。はたから見たら何に対しても百戦錬磨の二人なんでしょうが、彼らが共通して抱えていたものは、孤独と狂気。お互いに内在するものを感じ取りながら、歩く旅の先々で出会う風景は、出会う人も含めてやたらに寂しくて、人間臭くて、泥まみれで・・弱くて。その泥まみれの中から聖なるものがふと覗く瞬間の風景がとても美しい。
自分の内にどでかい暗闇をかかえる先生が、同じ匂いのするサブローに手を差し伸べる・・男と男の手の差し伸べ方というのは、こういうものなんだなとしみじみ思うし、こういう付き合い方が出来る男たちは、今もいるのかしらん・・・と想ったりもします。そして、この物語の中の先生は、ほんとにチャーミングで慕わしい。その暖かみが文章の端々から伝わってきて切ないほどですが、それだけならこの物語はただの「いい話」に終わってしまうところ。その先生の中に覗く、何やらとてつもなく昏いもの・・孤独、狂気、と先ほどは書きましたが、そう言葉にすると大切な何かが抜け落ちてしまうような。『狂人日記』などを読むと、その幻想のもたらす恐怖にしり込みしそうになるほどなんですが・・・とてつもないものが荒れ狂う人生を、そんな自分から目をそらさずてくてくと歩いておられた先生の後ろ姿を、サブローと一緒に、お月さまを見上げるように見上げてしまう自分がいます。

阿佐田哲也=色川武大ということを知ったのはいつだったか。昔すぎてはっきりしないくらい昔ですが(笑)色川氏が抱える病気のこと、ギャンブル界ではとても有名な人だったこと、その恐ろしいまでの自分の趣味に対する凝り性な一面などけっこうあれこれ読んだ記憶もあり、作品も若い頃に読んでいるんですが・・いつぞや対談で、ナルコレプシーという病気の見せる幻覚のせいで、竜が空に駆け上がっていく様がはっきり見える、と語ってらしたのを覚えています。凄いなあ・・と想っていた私は、その幻覚が色川氏に恐ろしい恐怖となってのしかかっていたことまで想いが至らなかった。もちろん、大人であった氏は、外部に向けて自分の恐怖などを簡単に話すことはなかったのでしょうが・・。その恐怖を、正面から見つめて『狂人日記』などの作品に昇華させた先生の闘いに、サブローは「自分は到底出来ない」と思った、と書かれています。でも、色川氏は何度も伊集院氏に小説を書くことを勧め・・・何年かの後、伊集院氏は『乳房』という、妻の死をテーマにした小説で吉川英治文学新人賞を受賞する。その引き継がれるものの重さを、しみじみと感じた一冊でもありました。まさに、伊集院氏にとっては『先生』だったんですねえ。その先生に小説という形で再会した・・懐かしさと切なさに胸打たれた一冊でした。

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