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zoom RSS ハートビートに耳をかたむけて ロレッタ・エルスワース 三辺律子訳 小学館SUPER YA!

<<   作成日時 : 2011/05/20 01:09   >>

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画像この物語は、心臓移植がテーマです。将来を期待されたフィギュアスケートの選手で、16歳のイーガンが、ある日大会の競技中に、フェンスに激突して死んでしまう。そして、その心臓は、同じ10代の少女である、アメリアに移植される。その二人の少女に起こった人生の大きな変化を、運命の日の前後を含めてとても丁寧に描きだしてある物語です。家族との葛藤や、愛していた人たち、胸ときめくボーイフレンドや、打ちこんでいるもの。それは、たった一人、イーガンとアメリアだけが持つ、人生の輝き。特に克明に描かれる、イーガンの毎日の暮らしに引き込まれます。フィギュア選手は特に母親との密着度が高い、と云いますが、イーガンはいつも母親からの圧力を感じています。生活の全てをフィギュアに捧げさせようとする母。その強い愛情の引力にいつも反発を覚えながら、その束縛からは抜け出せない。物語は、その母親のイーガンに対する執着に、失ってしまったもう一人の女の赤ちゃんの存在があることも描いていきます。そして、大好きな祖父と作ったゆり椅子の思い出、恋人のスコットと過ごした時間に、つよく鼓動していた心臓の音も。イーガンという存在は、深く巡らされた命の連鎖のひとつではありますが、彼女の人生は、かけがえなく、彼女だけのもので、それ以上でもそれ以下でもない・・笑ったり怒ったり泣いたりした、たったひとつの記憶がエルスワースのさり気なく細やかな筆で、ありのままに描かれます。その生き生きとした日常を知れば知るほど、読んでいる私たちは切ない。でも、そのことを一番切実に感じているのは、彼女の心臓を貰ったアメリアです。

学校に通うことも、普通に歩くことも、好きなものを食べることも一切出来なかったアメリアは、新しい心臓を貰って普通の毎日を手に入れます。しかし、アメリアはその心臓が少女のものであること、フィギュアの選手であること、が何故かわかってしまう。そして、移植後、自分の性格が変わってしまったようにも思う。全面的に甘えていた母に対してその過保護ぶりをうとましく思ったりもする。つい、きつい言葉を吐きたくなる。これまで、そんなこと一切なかったのに・・・。アメリアはその心臓の持ち主が誰かを知らなければと強く想い、その家族に会うことを願う。心臓が、そうしたいと思っているのを感じるから。

まるで、蝶々の羽の両翼のように、心臓という命を動かす大切なものを通じて、二つの人生が繋がって重なっていく・・・その見事な展開を読んでいるうちに、知らず知らずのうちに、たくさんのことを考えさせられてしまいます。
命の大切さは、言うまでもなく。二組の母と娘の葛藤は、これもまた今思春期の少女たちにも、昔少女だった母親たちにも、切実に胸に食い込むリアルさがあります。一番近い同姓との、この永遠の葛藤といったら(汗)そこもとても興味のある読みどころなんですが、私が一番感じたのは、言葉にとてもしにくいんですが、生と死が、本当に深くありのままに等価なことなんです。等価・・というと、語弊があるか。うーん・・死んでしまったイーガンと、その心臓をもらって、生きていくことを手に入れたアメリア。一般的な価値観からしたら、損をしたのはイーガンで、得をしたのはアメリア、ということになるのかもしれません。でも、そうじゃない。上手く言えないんですけど、そうじゃないんですよね。16歳で終わってしまった少女の人生も、14歳から始まる新しい人生も、等しく輝かしいのだ、ということ。例えば、イーガンが氷の上で演技をするシーンがラストに出てくるんですが、その3分半の一瞬は、私の10年分くらいの中身があるかもしれない、と想ったりしました。人は、死んでいく。鼓動はそっと消えていく。その消えていく命が持っている記憶を、こんなに鮮やかに描いてみせたエルスワースの想いに、私は深く心を寄せることが出来た。それは、切なくも不思議に穏やかな時間でした。

震災でたくさんの若い命がいなくなってしまった。もう、若い人が亡くなることほど辛いことはありません。それは、失われてしまった、彼らの、彼女たちの将来を思うからであり、これから生まれるはずだったたくさんの幸せを想うからでもあります。でも、そこばかり見ているのは、その命たちに失礼かもしれない。失われた命の一つ一つに、こんなにたくさんの記憶があり、喜びがあり、刻まれた命の時間がある。その命は皆、誰かの愛しい娘であり、息子たちでもあった。永遠とも思える、喜びの瞬間を持っていたはず。そのことを教えてくれるのは、こういう丁寧に描かれた物語だと思います。そして、この記憶は生きているものたちにもまた必要なことでもあると思うのです。

作者は、この物語を、母と甥を亡くした悲しみの中で書き始めたそうです。「とむらう女」もそうでしたが、この物語も、命というテーマに素直に、すっと入っていける雰囲気を持っている。『モッキンバードを探して』(未翻訳)という作品も書かれているそうですが・・それも読みたいなあ。誰か翻訳して頂けませんか(他力本願・・)

2011年3月刊行
小学館

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