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zoom RSS 田舎暮らしの猫 トビー・ジャグと過ごした英国の四季 デニス・オコナー ランダムハウスジャパン

<<   作成日時 : 2011/08/17 22:34   >>

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画像猫の物語にはめっぽう弱い私ですが。この本には、心底やられました。自然をとことん愛するイギリス紳士のオコナー先生と、やんちゃで、賢くて、とっても愛情深いトビー・ジャグという猫の、この上なく幸せな物語。こんな幸せな時間が人生にあれば、他のことは全て色あせてしまうだろうと想うくらいの、黄金の日々です。人間同士よりも、言葉が交わされない分、もっと深い・・猫と人間だからこそ生まれてくる、人生の至福の時間。ノン・フィクションです。

憧れだった田舎家を手に入れて、想うままに庭をしつらえる生活を始めたばかりのオコナー先生は、ある雪の夜に銀色の母猫と2匹の子猫を拾います。罠にはさまって死にかけていた母猫は息を引き取り、残された子猫も、瀕死の状態。毎日、仕事の合間に必死になって世話をし、やっと生き残った一匹が、トビー・ジャグです。危機的な状況から生き残った彼は、小さな体に、いっぱいの好奇心と愛情を詰め込んだまたとない魂を持っている子でした。ペットというよりは、まさに自分の子どものように可愛がって育てられたトビー・ジャグ。イギリスの田舎、美しい庭園のあるコテージで繰り広げられる、気ままな、独身貴族の先生と猫の暮らしは、うっとりするような甘い日々です。このオコナー先生は、心理学の教授で、とても愛情深い、穏やかな、イギリス紳士。文章からも、人柄がにじみ出ているんですが、この本は、トビー・ジャグがこの世にいなくなってから長い時間を経て、やっと綴られた回想の記録なのです。だから、記憶の中のかけがえのない猫との日々は、より甘やかに、美しく輝いている。ひたすら愛した猫を失った痛みを、長い長い時間をかけて、こんなに美しい記録にしたオコナー先生の気持ちを想うと、同じ猫族として深い共感のため息が出ます。

驚くべきは、このトビー・ジャグの性格です。大体において、猫は自分の居場所から移動することを嫌います。新しい習慣や知らない場所に馴染むのが大変だし、車に乗るのも嫌い。うちの子も、病院に行くのに、自宅から連れ出されると、まるで人攫い・・いや、猫さらいに会ったかのように泣き叫びます。人聞きが悪いから、ちょっと静かにしてて欲しいと想うくらい。車に乗せるとかちんこちんに石のように固まるし、肉球にストレス性の汗までかくので、気の毒で病院に行くのも、お互い必死なんですが・・。このトビー・ジャグは、オコナー先生の行くところなら、どこへでも着いていく。車も平気。一緒に旅先での散歩を楽しみ、なんと、ひと夏の間預かった馬のフィンと大の仲良しになって、二匹と先生で、夏のキャンプ旅行まで楽しみます。このキャンプ旅行の想い出は、この本の中でもひとしお美しい場面。壮麗な田舎の夕暮れに、馬と、猫と、人間が同じ想いで立ち尽くして見入る・・などという想い出を読むと、動物だ、人だ、などという人の言う枠組みなど関係ないよねえ、としみじみ思います。動物好きなら肌で知っている、「心」で繋がるひと時の、かけがえのない温もり。喜び・・そう。喜びなんです。この本に詰まっているのは。幼いころ、水差しの中に入れられて眠るトビー・ジャグ。馬のフィンの背中でくつろぐトビー・ジャグ。川に飛び込んで、オコナー先生をあわてさせたトビー・ジャグ。すぐに先生の肩に跳び乗ってくるトビー・ジャグ・・。もう、可愛い可愛いトビー・ジャグと一緒に生きた喜びが、溢れるようにここには綴られています。

トビー・ジャグは、新しいことにチャレンジし、先生と一緒に冒険をするのが大好きな稀有な猫だった。それは生来持っていた性格もあるでしょうが、一つにはきっと先生が深く深く彼を愛していたからだろうと思います。ちっちゃい時に、先生に助けられて育ったトビー・ジャグは、先生を心から信頼していた。幼いころ、片時も先生から離れるのを嫌がったという彼は、だからこそ、先生と一緒ならどこに行くのも恐くなかったんだろうと想います。その信頼の深さ、絆に、心が震えます。トビー・ジャグは、その冒険心から、いろんな事件に巻き込まれて先生を冷や冷やさせます。読み手も一緒にドキドキすることになるのですが、間一髪危機を脱出して先生のところに帰ってくる小さな子を、先生と一緒に抱きしめたくなる・・・そんな一冊です。

でも、本当につらい事に、猫や犬と暮らす日々には、別れが待っています。先生も、この愛しい子と別れねばならない・・。その時、トビー・ジャグとのこの想い出を本に書くことを彼に約束した先生ですが、トビー・ジャグとの想い出の詰まっているコテージから引っ越ししてしまうほどの哀しみに、その約束を果たすことはなかなか出来なかった。何十年も経ち、定年退職してから、やっと先生はこの本を書きあげます。それだけ、先生にとって、トビー・ジャグはかけがえのない存在だった。愛して、愛していたから、想い出を言葉にするのも辛いくらいに、その別れが辛かった。いきなり、愛するものと別れなければならない―その想いが、ひとしお身に沁みる今ですが、この本を書かれることで、先生はまたトビー・ジャグと再び出逢うことが出来たんではないかしら・・と、そう想います。

この本の原題は「Paw Tracks in the Moonlight」。(月明かりの中の足跡・・という意味ですよね)。この原題もいいなあ。続編の「Paw Tracks at Owl Cottage」もイギリスでは上梓されているそうです。続編も、是非読みたい。マクマーン智子さんの訳が、品があってとても素敵です。続編も翻訳&出版、お願いします。

2011年7月13日発行
ランダムハウスジャパン

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