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zoom RSS 曽根崎心中 原作 近松門左衛門 角田光代 リトルモア

<<   作成日時 : 2012/02/03 00:18   >>

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画像角田光代さんが描く「曽根崎心中」。想像したより原作に忠実で、この作品の孕む熱がむせかえるように伝わってきました。熱いです。

曽根崎は、何度文楽で見たか分からへんほど、見ました。
「此の世の名残り 夜も名残り 死に行く身を 譬ふれば あだしが原の 道の霜・・・」
玉男さんと、蓑助さんの黄金コンビの曽根崎の凄かったこと。蓑助さんの遣う、恋するお初のいじらしいこと、切ないこと。玉男さんの徳兵衛が、縁側の下でお初の足を抱きしめるシーンの官能的だったこと。世渡り下手で、頼りのうて、ちょっと情けないけど、その分純で、可愛いて・・という、突っころばしの男の魅力を、あんなに演じられたのは玉男さんしかいはらへんかったなあと思います。最後に抱きしめあって息絶える二人に、拍手が鳴りやまず、カーテンコールを繰り返した夜もありました。いつやったか、文雀さんのお初もいっぺん見たことがあるんですけど、これがまた何とも可憐な初々しいお初で、遣う人によってこんなに変わるんやとびっくりしたこともあります。曽根崎は、いつも、いつ見ても新しい気持で見ることが出来る。それは、この作品が、人の心の琴線に触れる、永遠のものを持っているからだと思います。

それは何やねん、と云われたら・・やっぱり、恋というものの輝きと残酷さでしょう。この世界が全部違って見える、全てが輝いて見える、人を恋するということ。圧倒的なその力に、私たちはある日急に襲われてなぎ倒されてしまうわけですが、何より悲しいことは、その恋が色褪せてしまうことです。恋を終わらせんとこうと思ったら、結ばれないか、ロミオとジュリエットや、この曽根崎のように恋を閉じ込めたまま死んでしまうしかない。でも、普通の人間には、そんなことは出来ません。生きていかな、あきませんもんね。恋が色あせても、お腹が空いて、ああ、ご飯美味しいわと思ったら、またそれが悲しかったりしてねえ。そやから、こんなふうに、恋の頂点で散ってしまうというある意味豪奢な瞬間を、心ゆくまで感じることの出来るドラマは、人の心の奥底を揺さぶるんやと思います。そのドラマを生んでいるのは、お初の熱です。ちょっとぼやっとしてる徳兵衛を引っ張って死にまで突っ走っていく力。そこには、お初の遊女という境遇の苦しみがある。そこを、角田さんは書きたいと想いはったんやないかと思いながら読みました。

売られて、遊女になって、17歳にして心が乾ききっていたお初が、徳兵衛に逢って恋をして、初めて人の心を取り戻す。その色鮮やかさが書き込まれていて、切なく胸にこたえます。その色鮮やかさは、お初が遊女だからこそ感じる純情です。生活の匂いの一切しない、先の見えない恋だからこその、鋭い切れ味の純情なんです。また、その純情がもたらす官能を見事に描いてあるのも、近松の凄いところですが、角田さんも、そこは逃さない。切なさがほとばしりますね。言葉を交わさずお互いの気持ちを確かめあう縁側のシーンは、やっぱり胸打たれます。文楽では、普通女性の足は足遣いのこぶしや着物の裾さばきで表現します。でも、このシーンだけは、縁の下でお初の足を抱きしめる演出のために、白く小さい足がお初の足元から覗きます。これが、非常に色っぽいんです。いつも背筋がぞくりとする。久しぶりに、また曽根崎を見たくなりました。今、上演したら当たるんやないかなと思いますが・・文楽劇場は、ちゃんと企画しはるんかなあ(笑)

角田さんは、関西の出ではないと思いますが、書きはる上方言葉が、こなれてました。違和感なくて、ほっとしたなあ。古典を読みなれない若い人にも受け入れやすい物語になっていると思います。この本で興味が出たら、ぜひ近松の原文の香気も感じて頂きたいなと思いますが。文楽、人形浄瑠璃の物語は、今の時代から見ると、非常に不合理というか、不条理なところが多くて、私も若い頃は納得できないと思うことも多かった。でも、この年になると、人生のほとんどのことが不条理というか、理屈にあわないことで出来ていると身に沁みているので、かえって気にならなくなりました。わけわからん理屈やしがらみに、いつも縛られているのが人間というもので・・。その中でもがく人間の感情は、時代を超えて心に届くものがあります。角田さんのこの物語は、近松の物語を現代の感覚と橋渡しするものでもあると思います。最後の最後、抱きあいながらお初の心にちらりと徳兵衛にたいする疑心がかすめる。それでも、すべてを飲み込んで恋にのめり込んでいく女の激しさと悲しみが余韻を残します。この本を読んだあとで、近松のガツンと心揺さぶる名文をまた読むと、なお楽しいかもしれません。

2012年1月刊行
リトルモア

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