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zoom RSS きなりの雲 石田千 講談社

<<   作成日時 : 2012/03/08 01:35   >>

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画像編み物に一時非常に凝ったことがあります。一本の糸が形になって、セーターになっていくのが面白い。羊毛の香ばしい、あったかい匂いがいい。そして何より、何度でもほどいてやり直せるのがいい。小心者の私にはぴったりなんです。この物語も、再生のお話です。ばらばらになった自分を、ゆっくりほどいて編み直すように日常を回復していく。その過程が、丁寧に細やかに綴られて、自分の心の襞にゆっくり折り重なっていく。小さな言葉のひとつひとつが胸に沁みて、溶けていくようでした。

物語は、失恋して半年以上茫然自失だったさみ子が、少しずつ動き始めるところから始まります。ぎりぎりのところまで自分を追い詰めなければいられなかった、失恋。深い海の底から、ふっと浮き上がって見上げたさみ子の目に映る青空の色が、目に沁みます。さみ子の感じる人との距離感のあれこれが、今の私には特に胸にこたえます。恋人との距離感。自分のまわりにいる人との距離感。不器用で、臆病な彼女の心の動きが、自分のあれこれと重なって、こつん、と私の頑なさをノックします。

「ひととの行きちがいは、いつまでも不慣れで、小学生とならべば、小学生のようにぎこちない。」

「ひとの手は、貸すより、借りるほうが、ずっと勇気がいる。きちんと言えるちさちゃんが、うらやましかった」

「なにかしてほしい、聞いてほしいと声にするのをおさえて、あとまわしにした。
……だから終わった。」

石田さんは人を「ひと」とかく。平仮名のやわらかい「ひと」は、私が「人」に対して持っている頑なさを柔らかくたしなめる。本に対しては素直になれるのに、人に対しては素直になれない私が、何を守ろうとしているのか。傷ついて、ぼろぼろになって初めてさみ子はまわりの「ひと」の暖かさに気がつく。気がつけば、自分の欲やプライドばかり守ろうとしていた以前の自分が見える。ああ、そうだったんだと納得する。そんな風にさみ子が気づいていくことを、私も胸に刻みたいと思った。人にもたれかかる。助けて欲しいと素直に言う。そこが苦手なひとは、さみ子のみならず、私のみならず、増えているように思う。一本の糸は、ふわりと編み重なってひとを温める。編み物という手仕事で生きているさみ子が紡ぐ物語の肌触りに癒されました。人と生きていく大切さを取り戻すさみ子と、彼女と関わるひとたちの体温がじんわり伝わるような物語だった。以前から気になる作家さんだった石田さん。これから、もっと読んでみようと想う。

2012年1月発行
講談社

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